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心理的安全性とは
施設内の温泉 檜と岩の湯がある
根拠のない自信
3月27日(土)、青年海外協力協会(JOCA)東北支部の新しい拠点、JOCA東北が宮城県岩沼市にオープンします。0~5歳児までの保育園、障害者の就労支援の場としての温泉、食事処、ウェルネス、そして高齢者デイサービスなどの機能をもった大型の施設です。
JOCAは10年前の東日本大震災直後に災害救援専門ボランティアを被災地に派遣しました。うち、岩沼市とは仮設住宅サポートセンター運営にかかる協定を締結し、入居者の方々の支援を行ってきました。そして、2015年8月に両者は「岩沼市まち・ひと・しごと創生に関する協定書」に調印し、翌年4月に岩沼版「生涯活躍のまち」のプロジェクトがスタートしたのです。
それからわずか6年足らずで、子ども、高齢者、障害者、近隣住民、そして地域に暮らす外国人も想定した居場所ができる。先日、現地でプレオープンを行った際、JOCAの雄谷良成会長はそのスピード感の理由のひとつをこう述べました。
元青年海外協力隊の根拠のない自信――。
「青年海外協力隊を経験した人間の多くは『自分は何でもやれる』と思う傾向があって、事業に突っ込んでいく。ぼくから言わせれば、『たった2年間の途上国支援の経験で何ができるのか』なのだけれども、本人は自信満々で始めて、たいていは玉砕してしまう」
ただし、それは普通の企業であれば無謀と思って手を出さないことでも、世のため、人のためであれば取り組むという姿勢と表裏一体であり、「根拠のない自信」があったからこそ、高齢化が進み、地域のつながりが希薄になった市営団地の一部跡地に、短い年月で施設を誕生させたともいえるのです。
根拠のない自信が玉砕となるか、事業の実現につながるか。そのための鍵は「心理的安全性」の有無にあると雄谷会長は言います。
批判はお互いの関係をつなぐため
ひとつの組織のメンバーがそのポジションに関わらず思ったことが言える雰囲気があるかどうか。自分の意見を言おうとしても、次のような不安が頭をよぎり、口が重くなってしまうことがあります。
こんなことを言ったら、自分が――
無知だと思われるのではないか→だから質問もしないし、相談もしない。
無能だと思われるのではないか→責められたり、馬鹿にされたりするのはいやだ。
邪魔な人間だと思われるのではないか→人に迷惑をかけてしまうから頼れない。
批判的な人間だと思われるのではないか→みんなの和を乱すようなことは言えない。
心理的安全性とは上記の逆。思ったことを言っても、批判的な意見を述べても、嫌われたり、疎ましがられたりしないという安心感をメンバー全員が持っていることです。
そのためには組織が何を目指しているのかをみんなが共有していることが必要です。自分たちの目標を達成するためにという姿勢をお互いがもっていれば、批判的な意見を戦わせることも可能でしょう。しかし、それだけでは不十分。なぜなら人間は感情の生き物でもあり、理屈を超えたところで動くこともあるからです。そこで求められる感情とは何か。
愛です。
愛の反対は何でしょう? 憎しみでしょうか。雄谷会長は「無関心」だといいます。
『怒りの方法』(辛淑玉著・岩波新書)という本があります。同書によれば、怒りとは相手との関係を断ち切るためではなく、つなぎとめるためのもの。すなわち「自分はあなたとこれからも付き合っていきたい。だから○○なところは直してほしい」という姿勢で相手に向き合う。そういう気持ちを伝えるには、それなりの方法があり、感情をそのままぶつけてはいけないというのです。
関係を切るためではなく、関係をよりよくするために怒る。ここでいう「怒り」を「批判」に置き換えることもできるでしょう。相手の耳に痛いことでも言うのは、「私はあなたに関心をもっている」というメッセージでもあるわけです。
小さな失敗を繰り返す
お互いが摩擦を避けるために怒りや批判を抑えていると、それが積もり積もって暴発し、最後には決裂してしまうことにもなりかねません。
GAFA(米国の主要IT企業であるGoogle、Amazon、Facebook、Appleの4社の総称)は創業当時からニッチを狙って失敗を繰り返してきたそうです。思うことを率直に言える組織ではあるからこそ、小さな失敗を重ね、それらを学んで大きな成功へとつなげていきました。もし、組織のなかで、「無知だと思われるから質問もしないし、相談もしない」「無能だと思われるのはいやなので黙っている」という空気が支配的で、それを放置しておくと、本来は小さな失敗だったはずが、取り返しのつかないものになってしまう可能性もあります。
話をGAFAからJOCAに戻せば、根拠ない自信→チャレンジ→挫折を小まめに回していけるよう、職場に「心理的安全性」をつくる役割を担うのは現場にいる管理職です。
ナンバーワンとは居場所づくり
日本が世界で少子高齢化のトップを走っているなか、JOCAがいま取り組んでいることは世界の最先端の試みといえます。ナンバーワンになろうとしている。それについて雄谷会長は、
「どの分野でぼくたちはトップになれるか。国際協力や途上国支援では、JOCAよりもレベルの高い組織は世界中にたくさんある。とすれば、ぼくたちが注力するのは、途上国支援から帰ってきてからの活動ではないか。青年海外協力隊の経験で根拠のない自信をもって、失敗を経ながら、地域づくりを進める。それによってぼくたちは世界のトップになれる」
JOCAもGAFAのようにナンバーワンになれるフィールドはどこかを考えようと雄谷会長は言います。それを実現してこそオンリーワンになれるとも。とすれば、私たちの仕事は、地域の人々の居場所づくり=地域の人をオンリーワン=ナンバーワンにすることといえるのかもしれません。