Topics
空き家利活用のまちづくり「輪島KABULET®」グランドオープン
能登半島の石川県輪島市の中心部では空き家や空き地を利活用した生涯活躍のまち事業が、社会福祉法人佛子園と公益社団法人青年海外協力協会(JOCA)によって進められてきた。そのプロジェクトが輪島KABULET®である。ここの主な施設は、拠点(そば処、温泉、住民自治室)、地域密着型ウェルネス(GOCHA! WELLNESS WAJIMA)、セルフのママカフェ(Café KABULET)、障がい者向けの短期入居住宅(Casa KABULET 1,2)、障がいをもった方が共同で生活することによって、自立を応援する女性向けのグループホーム(Asante)、そしてサービス付き高齢者向け住宅(全6戸/新橋邸)。施設を一か所に集めるのではなく、まちなかに分散していることで、住民の方々とも自然と溶け込める「空き家利活用」のまちづくりが始まった。
人はごちゃまぜで元気になる
高齢化率が40%以上になり、空き家問題も深刻化する輪島市で佛子園とJOCAが取り組んだのが「ごちゃまぜ」のコミュニティづくりだった。グランドオープンの式典で双方の理事長を務める雄谷良成・生涯活躍のまち推進協議会会長は次のように述べた。
「経済成長が続いていた時代は、障がい者、高齢者、子ども向けの施策は縦割りでした。ところが成長が鈍化していくとそれは機能しなくなった。佛子園が11年前に廃寺となっていた西圓寺(小松市野田町)を地域の拠点として生き返らせたとき、住民がいろいろな人とごちゃまぜになって暮らすことで元気になっていった。そのことを気づかせてくれたのが障がいをもった子どもであり、認知症になった高齢者の方々でした」
雄谷会長はかつて海外青年協力隊として中米のドミニカ共和国に赴任した。同国は貧しかったが、互いに支え合って生きることの幸せを叩き込まれたという。
「青年海外協力隊員は毎年、1,000人が任務を終えて帰国します。現在、OB・OGは約5万人。彼、彼女たちが世界で感じ、学んだことを、今度は日本で生かしてくれるのです」
輪島KABULET®には青年海外協力隊の帰国隊員を中心に組織されたJOCAの職員10名が参画している。
空き家利活用の課題
輪島KABULET®の空き家の利活用の特色はまちの風景と溶け合っているところだ。黒瓦が特徴の住宅地を歩いていると、さりげなく目の前に現れてくるといえばいいだろうか。特別な場所ではなく、まちの一部として地元の住民も学生も移住者も自然と混じり合うつくりになっている。
とはいえ、ここに至るまでには建て替え時の建蔽率や容積率の制限、耐震基準を満たしていなかったがための補強工事、あるいは市外にいる地権者の連絡先がわからない、先祖から受け継いだ土地を手放す際の心理的なケアなど、少なからぬ課題があった。それらをその都度クリアにしてきた努力が結実したといえよう。
生きがいと安心と
木浦とみ子さん(女性 84歳)は、輪島KABULET®の拠点となる家屋を手放して、輪島川沿いに立つサービス付き高齢者向け住宅「新橋邸」に住んでいる。夫も先立ち、一人暮らしの木浦さんにとって、自宅での生活には不安があった。しかし、長年住み慣れた輪島市の中心部を離れるのはイヤだ。そこでサ高住の入居を決めたという。
「ここだったら窓から見える風景も変らないから、自宅から離れたという寂しさはありません。フロントでは見守りと生活相談をしてくれるので安心ですし、ありがたいことです」
そう語る木浦さんは、フロントかつキッチン付き共有スペースで自らおいしいコーヒーを淹れてくださった。この日はグランドオープンを記念して、一杯100円。ここではいずれ喫茶店をオープンし、サ高住に住む高齢者の方々に働いてもらう予定だという。少し割高感のイメージがあるサ高住の家賃だが、雇用もセットで年金と合せれば、お金の面でも安心感が得られるだろう。
ちなみにフロントで働く浦本義隆さん(男性 60歳)は、つい最近まで愛知県のトヨタ系自動車部品メーカーで勤めていた。
「定年退職して故郷の輪島に帰ってきたかったのですが、元気なうちは働きたい。ここでの仕事があったからこそ、Uターンできました」
もうひとりは女性の池田さん。いままでは介護老人保健施設(老健)でヘルパーをしていたが、障がい者の受け入れもしたいと思って、佛子園に勤めることにしたという。
「障がい者の就労支援ではこちらが学ぶところが多い。(知的障がい者の)仕事ぶりは几帳面で正確。私も常に勉強させてもらっているという感じです」
池田さんは新橋邸と拠点の双方を行き来しているそうだ。
地域の課題解決モデルに
拠点では就労継続支援A型事業所の開設から始まり、同B型、放課後等デイサービスなど多機能施設として今後整備されていくという。「KABULET」は輪島塗になぞって「漆にかぶれる」と「輪島の魅力にかぶれる」を併せた造語である。これから輪島の「かぶれ人」が中心になってまちづくりを進めることで、輪島は空き家空き地問題を抱える全国の自治体にとってのモデルエリアになっていくだろう。