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駅ビアこまつ2023報告
はじめに
2023年9月23日、JR西日本小松駅西口の小松市民広場で「駅ビアこまつ2023」が開催されました。主催者である社会福祉法人佛子園の雄谷良成理事長は、当日の事務局最終打ち合わせでの挨拶で、「開催するに当たり多くの方々に応援いただきました。コロナ禍が明けたことで、やれなかったイベントを再開するところはありますが、新たなイベントをつくるところはそうないと思います。今日は小松の皆さんに元気を届けましょう」。マスメディアを使うことなく、映像などSNSを駆使した自前の広報を駆使した本イベントは、集客数は約7,500人、ビール販売数は16,694杯(チケットカウント。速報値)を記録。この場を社会福祉法人がつくりあげたと聞けば、誰もが驚くに違いありません。その理由は何かという観点から報告します。
小松的な賑わいを
「普段、駅にくることはないんですよ。たいてい車で移動するし、買い物は郊外だから。(駅前に)こんなに人が集まることなんてないんじゃないかな」(50代くらいの男性。奥様と一緒)、「私は野々市市に住んでいます。何かあると金沢に行くので、列車で小松に行くことはほとんどありませんでした」(40代くらいの女性)、「(列車で)加賀温泉駅まで乗っていくことはあっても、小松駅に降りることはなかったですね」(60代くらいの女性)。だからこそ皆さん、「駅ビアこまつ2023」にこれだけの人が集まっていることに驚いている。駅前で開かれる大きな祭り「どんどん祭り」(市民参加のカーニバル)や「日本こども歌舞伎まつり in 小松」の賑わいに優るとも劣らないくらいだそうです。
なかには「人がたくさん集まるのもどうかなあ、うるさいし」と斜に構えた男性もいました。小松市民には「新しいものに、ほいほい飛びつくのをよしとしない」気質がある(雄谷理事長)そうで、同理事長も「だから第1回はどうかなという様子見」もあったそうです。ところが、蓋を開けてみれば、この大盛況。「人がたくさん集まるのもどうかなあ、うるさいし」と言っている本人も会場の真ん中で楽しそうに飲んでいるわけで(笑)、「金沢に比べてあまり飾らないところが小松らしい」(50代くらいの女性)も人を呼び寄せた理由かもしれません。
直前のテレビでの紹介で来らた方というもおられました(メディアが情報をキャッチして報じたようです)。
「私は高岡から(来ました)。昨日、テレビで知って、(金沢在中の)友だちを誘ってきたんです」。ステージの目の前のハイテーブルに陣取った女性は「ビール、おいしい」と満面の笑み。一方、会場から外れ、駅ビルの壁を背にし、日陰にビニールシートを敷いて「ピクニック風」に飲んで食べている女性の2人連れもテレビの紹介で知ったそうです。「楽しそうですね」と声をかけると、
「このグラスの量がちょうどいいんですよ。いろいろなクラフトビールを飲めるから」とのこと。「テーブルと椅子をもう少し増やしてほしい」という注文もありました。
まちは歩いてなんぼ
地元老舗和菓子店「松葉屋」の七代目である那谷忠之さんは小松KABULETの開店に欠かせないキーパーソンです。
「そんなんじゃありませんよ。佛子園から『小松KABULETを出店したいと思っているので、商店街の人を紹介してほしい』といわれたから応えただけ。ぼくは生まれも育ちも小松だから地元の人はよく知っています。小松は小さなまちですから、よそから誰かが来たら、身構えてしまう。そこをうまくつなげる接着剤の役割を果たしただけです」と謙遜しますが、その役割を引き受けたのは「佛子園のようなよそ者が小松を変えてくれると思った」から。
「今日、出展しているブースの多くが小松の店です。佛子園さんは私たちにきっかけをつくってくれました」と那谷さん。「駅ビアこまつ2023」を機に期待するのは歩く人が増えること。
「買い物は車でって、とても不健康だと思うんです。人間は歩かないと退化します。高齢者であれば、歩くことによって健康寿命が伸びる。シンガポールでは中心市街地に自家用車を入れないようにして、移動は歩き、もしくは公共交通機関に限定しているそうです。ぼくも歩くのが苦手だったのですが、最近は大型犬を飼って、朝晩1時間は散歩しています。おかげで身体も調子いいですよ」
商店街では組合も解散し、アーケードの灯りも消えました。
「佛子園さんとは専門学校の生徒さんに住んでもらおうという話もしています。ですが中心で動くのは、佛子園さんではなく、地元の人間です。これ(駅ビアこまつ2023)がその第一歩になると思います」
ちなみに松葉屋の看板商品である「月よみ山路(栗むし羊羹)」は、どこを切っても大きな栗が入っている逸品です。メインの生地は職人がつくっていますが、軽作業は近所に住むパートの方々が担っているそうです。
「少しでも(地域の方の)お役に立てれば。情報通信の技術が進歩したことで、大都市との距離があるほど、生活の質が下がるということはなくなりました。ぼくは知っている人の顔が見えるなかで暮らしたいですね」
人との関係性が生み出す笑い
本イベントは雄谷理事長の主催者挨拶の後、来賓挨拶として馳浩・石川県知事、佐々木紀・衆院議員、宮橋勝栄・小松市長の順番で壇上に上がりました。最後の宮橋市長が乾杯の音頭をとるところ、馳知事はいきなり乾杯しようとボケました。そこで司会を務める「よしもと住みます芸人」のぶんぶんボウルのまーしが「知事、いったい何杯飲んできたんですか」とツッコミ。続く佐々木議員も「じゃ、ぼくも乾杯を」。まーしは「やめてください。ぼくら来賓挨拶でこんなに入っていくの、初めてですよ」。そして出番を控える宮橋市長に「さあ、市長のハードルがますます高くなりました」。
こうしたやりとりが可能なのは、ぶんぶんボウルがこの間、馳知事、佐々木議員、宮橋市長と関係性を築いてきたからでしょう。いきなり呼ばれての出演であれば、どこまで突っ込めばいいのかわからない。来賓挨拶は淡々と行われたかもしれませんが、それで芸人として「何のための自分たちの司会か?」となってしまいます。
その他、北陸3県の「住みます芸人」の皆さんも駆けつけてくれました。彼らがドっと爆笑を誘う場面はそれほど多くなのですが、出てくるだけで場がなごむ。今年の4月~5月に開催したGOTCHA !! RALLYに出演してもらって以降、佛子園のオファーを受けて、彼らは地域に笑いを届けてきた。その流れがあるからでしょう。ある佛子園の職員は「初めて会ったときに比べて、ずいぶん変わった」と言っていました。
GOTCHA !! RALLYの一環として行われた吉本興業の山地克明取締役、ゴーゴーカレーグループの宮森宏和会長、雄谷理事長との鼎談(笑い×カレー×ごちゃまぜ)において、山地取締役は、こんなことを語っていました。
「私たちはとんがった笑いを追求していく方向とともに、地域の方々と同じフラットなところに身を置きながら、その場を楽しくする笑いも目指したい。ライブ会場でお金を払って来てくれたお客さんと対峙するような緊張感のなかでつくり出す笑いだけでなく、地域のなかで隣にいてくれると愉快な気持ちになるようなゆるい笑いです」
地域に根差したプロフェッショナル
花柳界では新人芸妓さんのことを「新花」というそうです。金沢の茶屋街では旦那衆が「新花」さんを応援し、一人前に育てていく。旦那には財力だけでなく、本物を見極める眼力も求められます。住みます芸人は、「ごちゃまぜ」の地域の人々が寄ってたかって育てるといった感じでしょうか。
「駅ビアこまつ2023」で住みます芸人を支えたのはそれだけではありません。上質のビールと食事、そして一流レベルの音楽や大道芸、車いすバスケットといったプログラム。ここがおざなりになると、主催者側は楽しむものの、来た人はしらけるということになりかねない。主催者である佛子園の職員は黒子に徹し、提供するもののクオリティに対して妥協しない、その姿勢が今回も伝わってきました。
「うまいビールをもう一杯!」のGenさんは保育園の理事長でもあります。「van van big small band」率いる前川雅俊さんは金沢市で地元小学校の金管バンドやキッズ・ジュニアバンド「ジュニアジャズオーケストラJAZZ-21」などの講師を務めています。見事なパフォーマンスを披露してくれた大道芸人のルークさんは佛子園の職員の息子さん。住まいは愛知県ですが、最近では石川県での活動が主になっているそうです(ちなみに奥様も大道芸人です)。
車いすバスケットの東京パラリンピック銀メダリスト・宮島徹也選手は富山県出身で、現在は富山県車椅子バスケットボールクラブに所属。大人のJAZZを披露してくれた大久保雅治カルテットは小松市出身の方々が中心です。地域とつながりをもち、かつ高い技術をもつ方々ばかりなのです。
元気なアリス学園の学生さんたち
会場でひときわ元気だったのは学校法人国際アリス学園が運営するアリス学園の留学生の皆さんでした。同校で主に介護・福祉を専攻する彼女たちは会場を練り歩きながらネパールのカレーを宣伝していました。台湾パフォーマンスの三太子の踊りの際、「最後は皆さんと一緒に踊りましょう」の声に真っ先に反応して舞台に上がったのも彼女たちでした。日本人と一緒に学び、日本語で資格をとるために勉強している。そんな彼女たちの勤勉さと明るさに接するに、彼女たちが小松の商店街に移り住んだら、新しい息吹をもたらしてくれるに違いないと思いました。
元気と言えば、ブースを出展した青年海外協力協会(JOCA)の鳥取県南部町の拠点「JOCA南部」の自家製辛味噌乗せ「がんも団子」が好評でした。住みます芸人の笑福亭笑生さんも絶賛。会場でも「がんも団子、ありますよ~」の声がよく聞こえました。
エンディングでは舞台に北陸3県の住みます芸人と雄谷理事長が登壇。会場では「来年もやってほしい」のリクエストが相次いだそうです。「駅ビアこまつ」は企画の段階から「毎年恒例のビアフェス」(ミュンヘンのオクトーバーフェスのように)として地域に定着させることを目指しており、来年は2日間の開催が決定。エンディングでは来年に向けて、みんなで「うま~い、ビ―ルで♬もう一杯、かんぱーい!」で締めました。
以下は当日の様子をまとめたショート動画です。どうぞ。