自分が考えることなんて(天才じゃあるまいし)たかが知れている。だから内面から何かを絞り出そうと呻吟するよりも、頭のなかの風通しをよくし、外側で動いているものをいろいろとキャッチして、組み合わせた方が面白いものが生まれるのではないか。常々そう思っていたので、本書の「第1章『心の壁』を自覚する」の「『頭のやわらかい人』は逆に『全く離れているものを結びつけたら何が起こるだろう』と考えます」「『間違っているのは自分ではないか』という考え方がまさに『頭のやわらかさ』につながっていきます」に膝を叩いた。そして、「時間がないからできなかった」という人の思考回路は、「自責」(失敗は全て自分の責任と考える)ではなく、「他責」(上手くいかないことは全て他人や環境のせいと考える)に支配されているので、十分な時間が与えらえれば、「予算が足りなかった」とか「他社が協力してくれなかった」というような別の言い訳を考えるという指摘に、思わず胸に手を当ててしまった。
 当たり前だと(自分が)思っていたことが実はそうではない。たとえば、「成功」の反意語は「失敗」である、という文言がある(第3章「メリット」は必ず「デメリット」になる)。しかし、両者は何かをやったことの結果ということでは共通している。失敗したとしても教訓が残り、やった前と今とでは状況が確実に違うわけだから、「成功も失敗もしない状況」、すなわち「何もしない」ということが対極にある。したがって、「成功」と「失敗」という二極ではなく、「何か行動する」と「何もしない」のそれに分かれると著者は説く。
 パッケージ旅行と自由旅行、どちらが自由か? という問いに対して、後者は自分の意志で行先を決める自由がある反面、自ずと選ぶ対象は自分が思いつく範囲のなかにとどまってしまう。前者は旅行会社が決めたものに従うのだが、はずれに当たる可能性もある代わりに、「食わず嫌い」がわかるような思わぬ発見があるかもしれない。
 自分のなかにある知らない自分を発見するといっては大げさか。全4章、計30項目に渡る本書を実践し、身の回りの「線」を、「変えられない絶対のもの」ではなく、「必要なら変えてしまえる便宜上のもの」と考えて越えられるようになりたい。そう思う人に、そう肩ひじ張らずとも大丈夫と思わせてくれるのが、本書の随所に挿入されるヨシタケシンスケさんのイラスト。思わず吹き出すことでも頭をやわらかくしてくれる。(芳地隆之)