高齢者の独居世帯が増えることで生じる問題のひとつに、移動手段をどう確保するかが挙げられる。同じ地域に住む人の運転する車に乗せてもらっている方もいるだろう。公共バスを走らせる、ライドシェアを解禁する、IoT(様々なモノがインターネットを通して情報交換することにより相互に制御する仕組み)を活用しオンデマンドバスを運用するなど、いろいろなアイデアも出されているが、著者は「どのような手段で住民を目的地まで輸送するか」という問いを「どうしたら住民を動かすことなく、サービス・機能に住民の近くまで来てもらえるか」と反転させる。それによって、これまであまり活用されていなかったものが宝に見えきたのである。
 たとえば自治会館や公園。自治会館の集会室で百歳体操をやれば、そこはスポーツジムへと変身し、公園でボッチャ(ジャックボールと呼ばれる白いボールに、赤・青のそれぞれ6球ずつのボールを投げかけたり、転がしたり、他のボールに当てたりして、いかに近づけるかを競う)やモルック(モルックという木の棒を投げて、数字の書かれた木製ピンを倒して加算し、先に50点ぴったりになったら勝ちというフィンランド発祥のゲーム)を楽しめば、そこは社交場にもなる。ショッピングセンターに行けない人には、移動車で販売する「移動スーパー」を。食品を量り売りすれば、自ずと会話も生まれる愉快な買い物になるだろう。
 自治会館や公園には「まちの交番・避難所」の機能も付与するなど、従来の延長で眺めていた目線をちょっとずらすだけで、地域の風景が変わってくる。
 本書がありがたいのは、アイデアを実現するためのメンバー構成、ワークショップの運営、地域の巻き込み方、行政との連携、事業計画など、実際に動き始めると直面するだろう課題解決の指南をしてくれるところだ。奈良県生駒市での活動を通して積み上げてきたノウハウを惜しみなく伝授する、地域づくりのハンドブックでもある。
 「道の駅」はまちのなかに建てられるものだが、「まちのえき」は地域に住む人やその場を活かすことで生まれる。固定されたものではない。資源があれば、あるだけ増える。だから楽しい。著者が「はじめに」で記す、「少子高齢化時代の地域課題を解決するためには、『誰一人取り残さない』だけではなく、『誰一人として単なる“お客様”』にせず、何らかの役割をもって活動してもらう」ことがそんな気持ちを生むのではないか。その音頭を首長がとるから、役場の職員も思う存分アイデアを出せる。これも「まちのえき」の魅力だと思う。 (芳地隆之)