子どもや兄弟姉妹、両親など、家族にひきこもりになっている人がいる方々が中心となって活動しているNPO法人KHJ全国ひきこもり家族会連合会は、季刊『たびだち』を発行しています。2020年春季号のテーマは「あなたにとって居場所とは」。巻頭は脳科学者の茂木健一郎さんとKHJ広報担当理事であり、ひきこもり関係の取材を続けているジャーナリスト・池上正樹さんの対談でした。

2人は、日本の居場所の多様性のなさがひきこもりという現象を生む原因のひとつになっているということで意見が一致。茂木さんは「『社会』というものを狭くとらえていることで、『居場所』も狭くしている気がすごくするんです」といい、個性や自由の大切さの例として、葛飾北斎が74歳で『神奈川沖浪裏』という歴史に残る傑作を描いたこと、スティーブ・ジョブズが高校生のとき、無料で長距離電話をかけられる装置を、後にAppleを一緒に創設するスティーブ・ウォズニアックと一緒につくってローマ法王に電話したことについて語りました。生涯何回も引っ越しした北斎、嘘のポスターを校内に張ってパニックにしたこともあるジョブズともに、「むちゃくちゃな人」で、今の日本で育っていたら、ひきこもっていたのでは、とも。

もちろん、才能なんてなくてもいいし、有用性に基づいて人を評価することには2人とも異を述べています。そして、大事なのは「どんな個性でもそのまま受け入れる『安全基地』の存在があること」といいます。

これに対して、「ひきこもっている状態を認めてしまうと、本人を甘えさせるんじゃないか」という意見が聞かれるのですが、実はその逆。「安全基地があるから、自然とチャレンジしたくなる」(茂木さん)というのです。

「安全基地がスタート地点になることは間違いない。『幸せ』はゴールじゃなくてスタート地点なんです。やっぱり幸せな状態でないと人間ってチャレンジできないようになっているんですね」(茂木さん)

「幸せ」を私たちは「目指すもの」と考えがちですが、その発想ですと、目的が実現できない=「不幸」になってしまう。もっと「幸せ」のハードルを下げたらどうでしょうか。たとえば「私は今ひきこもっていて幸せ」と思えれば、そこからがスタート地点になり、いろいろなことにチャレンジできる--というのがこの対談の結論でした。

同誌にはそれ以外にも充実した記事がたくさんありました。ひきこもりの問題にご関心のある方、KHJの上田理事長、そしてKHJと連携しひきこもりの親の会(リーラ)を運営している市川副理事長にインタビューをお読みください。

池上正樹さんの本も紹介しています。

居場所は生涯活躍のまちのもつ重要な機能のひとつです。KHJの皆さんとは今後も交流していきたいと思っています。