生涯活躍のまちアドバイザー
「生涯活躍のまち」推進アドバイザー人材養成モデル研修のご報告
9月10日(火)~12日(木)に標記の研修を開催しました。生涯活躍のまちのあり方は多様ですが、共通しているのは「誰もが居場所と役割をもている場所」。取り急ぎ、以下、どんな話が行われたのが、ざっと報告します。
基調説明「生涯活躍のまち」について
中野孝浩・内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局内閣参事官
「生涯活躍のまち」には「健康でアクティブな生活の実現」「希望に応じた住み替え支援」「地域の多世代の住民との協働」「地域包括ケアシステムとの連携」「継続的なケアの確保」といった要素がある。
高齢者の体力は1998年以降、若返っており、セカンドキャリアを地方で始めることもできる。企業と連携した新しい人の流れをつくることも考えるできだろう。
まちの魅力は、ハードだけでなく、エリア全体の多様性=誰にも居場所と役割があるコミュニティ。まち・ひと・しごと創生総合戦略(2018改訂版)のポイントのひとつが「生涯活躍のまち」推進アドバイザー。これまでの生涯活躍のまち形成支援チームが市町村を支援する仕組みから、都道府県が各圏域に配置するアドバイザーを派遣するそれへ移行するための研修カリキュラムづくりが必要だ。
アドバイザー=市町村のニーズを踏まえつつ、官民連携の具体案についてアドバイスする人。市町村は土地や公有資産、各種制度、補助など国の制度も活用し、たとえば金融機関であれば事業計画や資金調達、流通(スーパー)であれば交流拠点の場所、住宅メーカーであれば移住者に住宅を提供するなど、相互のウィンウィン関係を構築いく人材が求められている。
講演「生涯活躍のまち・つる」
山口哲央・山梨県都留市役所総務部企画課長
都留市は平成25年度にうたったシルバー産業の構築・推進がその後の日本版CCRCに合致。生涯活躍のまちは住民の幸せを実現する手段と位置づけている。
当市には創立60周年を迎えた都留文科大学や県立産業技術短期大学校、健康科学大学看護学部があり、大学連携を進めるために「大学コンソーシアムつる」を立ち上げた。ヒトづくり(都留文科大学)、モノづくり(県立産業技術短期大学校)、健康づくり(健康科学大学看護学部)を目指している。駅舎を活用した大学生による地域活性化」として富士急行線谷村町駅「ぷらっとはうす」プロジェクトを展開。健康づくりでは高齢者がいつまでも健康でいられるようなまちづくり(いーばしょ=高齢者の居場所)を進めている。
具体的に進行しているプロジェクトには、単独型居住プロジェクト(下谷地区。既存団地のストック活用によるゆいま~る都留。9月末開設予定)、複合型居住プロジェクト(田原地区。都留文科大学近隣の市有地への企業誘致による事業地開発、各種住宅5棟程度〔50~140戸程度〕を想定)がある。これらを通して、市民全体の豊かな暮らしを実現したい。生涯活躍のまちは医療、教育、世代間交流、生涯学習、産業など全庁横断的な取り組みが必須だ。
講演「推進アドバイザーに求められる姿勢とは」
西上ありさ・studio-Lコミュニティデザイナー
コミュニティデザイナーにとってとくに大切なことは「捨てる」(自分のやり方や固定概念を捨てる)、「よくきく」(アドバイスなどを素直に聞く、受け止める)、「実践する」(考え込まずによってみる)。そして地域のニーズに応じた策には、「活性化策」(ブランドづくり、観光など)、「維持策」(生きがいになるものづくりなど)、「縮小策」(終の棲家づくり、聞き書きなど)があり、取り組むべきはどれかを把握しなければならない。「この人に任せてばかりはいられない」と住民に思わせ、自ら動くように仕向ける才能が求められる。
アドバイザーには「Yes and」のコミュニケーションを実践してほしい。人は自分が言ったことをすべて肯定されることは少ない。共感されて提案するという経験をしてもらうのが大切。
住民が参加(聞く・知る、考える、要求する)から参画(加わる、支える、仕切る)していくためには、積極的に発言し、行動するトップの人をより引き上げる必要がある。
住民が動き出した例のひとつが 島根県隠岐郡海士町。空き屋調査から起業の種を発見するほか、同町で唯一の高校で、 かつて「掛け算ができない生徒のための学校」だった 隠岐島前高校が廃校危機を脱し、いまでは生徒が(公立塾・寺子屋などによる学習支援や生徒の自主的な尞の運営、留学制度など)自分たちの島にある資源をいかに生かすかを考えるようになり、島に移住して入学する生徒がくるまでになった。
厚生労働省の介護のイメージ刷新事業では、介護・福祉が親しみのある仕事であり、現場は面白いと感じてもらうため、「これからの介護・福祉の仕事を考えるデザイン・スクール」を全国各地に開講した。様々な業種の生徒(医師から10代の学生まで)が、「バックキャスティング」(目標となるような状態を想定し、そこを起点に現在を振り返って今何をすべきかを考える)と「デザイン思考」(デザインに必要な思考方法と手法を利用して、ビジネス上の問題を解決するための考え方)をもって運営し、施設介護、訪問介護の現場に行って、言葉だけではなく、見て感じたことを絵や図化してもらった。そうすることで介護・福祉のイメージが変わった。
鼎談 「推進アドバイザーに求められる姿勢とは」
中野孝浩・山口哲央・西上ありさ
【問】住民に危機感がない。また、首都圏から高齢者を移住させてどうするんだ、という声も多い。それに対してどう答えるべきか。
【答】全国で共通する問題。『プラチナタウン』の影響もある。CCRCでも楽しいまちであれば、若い人が集まってくる。南部町がいい例だ(中野)。若者だけをターゲットとするまちづくりには何かが欠けている。大人や高齢者が笑っているまちならば、子供が『そういう人になりたい』と思うだろう。そういう世代のバランスのよさが町全体を豊かにすると思う(山口)。老いのイメージを変えている人がどこにもいるはず。そういうおしゃれおばあさんみたいな人を巻き込むといい(西上)
【問】 サ高住を運営する生涯活躍のまち事業形成主体として悩みは多いのだが、とくに行政との関係はどうあるべきか。
【答】 たとえば50代で入れるサ高住に魅力はあるか。サービス料をなしにするとか、50代から権利を買うことができるとか、そういう特典は必要だろう。そしてこのコミュニティに入りたいというインセンティブがないと(山口)。入居者のニーズがどこにあって、どういうチャンネルで見つけるかを考えるべき(中野)。オール青森県では介護期間が短いという。ぽっくりいく幸せみたいなことを証明できるといい(西上)
【問】 市町村の方で取り組みが進まない。県としてどういうアプローチが可能か。
【答】 生涯活躍のまちの潜在的なニーズ は多くのところである。それに応じた提案をしてみる。特定の部局ではない離れた立場でやる方がいい(中野)。県がそう考えてくれるのはありがたい。生涯活躍のまちに関わらない手はないと思っている(山口)。
【問】 CCRCに取り組む市町村がだんだんフェードアウトし、CCRCが死後になりつつある。国が計画を見直すなか、これまでの『絵に描いた餅』的なところを改善してもらうことで、われわれも市町村に生涯活躍のまちの魅力を伝えたい。
【答】CCRCを地域のニーズに合った施策を実現するためのツールとみてほしい(中野)。隠岐島前高校のブランディングは、高校の存続が重要であるという共通認識、そして、県立でありながら、町がお金と口を出すことで可能になった(西上)。自治体の長期計画が国の事業に合っているのかを適宜見直し、国と連携して進めることが重要(山口)。
【問】移住にはしごとが課題になってくる。
大企業の業務の一部をリモートワークで行うということも考えられる。人材循環の仕掛けをつくるのもひとつの策。あるいは業務自体を町の事業者に委託することも考えられるだろう(中野)。ひとつのしごとしかしないと大きなムーブメントに左右される。季節、時間帯、業務ごとに小さな仕事をもっている人がいる。美大や芸術系の大学を卒業していても、その技術を仕事に生かせていない人には介護業界に関わるとよい。障害者の就労支援で、たとえば刺繍を手伝ってセンスのよい作品をつくることでお金を稼いだというケースがある(西上)。
以上、取り急ぎの概要報告ですが、参加者の方々はおおむね満足しておられ、3日間皆勤の13名の方々には、当協議会から修了証をお渡ししました。今回、参加できなかった方、10月、12月、2月にも開催しますので、ぜひ。