孤立しがちな高齢者にとって「きょうようときょういく」が必要とはよくいわれることだ。「きょうよう」は「今日、用事がある」、「きょういく」は「今日、行くところがある」。外へ出かけることの大切さを説く言葉だが、もうひとつは「ちょきん」。2019年6月に金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループが報告書に「老後は2,000万円必要だ」と記し騒動になったことは記憶に新しい。本書でいう「ちょきん」は「筋肉を貯める」こと。加齢によって筋肉が加速度的に失われるサルコペニア(加齢性筋肉減弱症)を抑えるためには、筋トレで分泌されるホルモン、ミオカインが大事な役割を果たす。運動することで免疫細胞を活発化させ、がん細胞の増殖を制御するので、がんだからとベッドで安静しているのは逆効果だ。がんと診断され、入院・手術された人にも著者は筋トレを勧める。
 DMN(Default Mode Network)をご存知だろうか。脳が無意識かつ自動的に活発になる脳機能ネットワークの意味で、DMNが過剰に活動することで「雑念」や「思考」が止まらなくなる。したがって、
脳を休めるには、十分な睡眠をとる、緩めのお湯に浸かる、瞑想をする、が効果的なのだが、もうひとつは運動。身体を動かすことによって普段仕事で使っている脳を解放することができる。筋トレが限界
に近づいたときの状態を想像してほしい。「〇〇をいつまでに片付けなくては」なんて考えるだろうか。目の前の負荷をクリアすることに集中しているので、仕事のことなど頭から飛んでいるはずだ。一方、身体を動かさず、単に休んでいると、脳は自ずと仕事のことなど、あれやこれやを考えてしまう。結果、心も身体も疲弊していくのである。
 がんを防ぐためだけでない。運動、ひいては筋トレが脳と心と身体にいかに「効く」かがわかるだろう。厚生労働省が定める運動習慣の定義は「最低週2回、1回につき30分以上、それを1年続ける」という。運動嫌いの方にはハードルが高いかもしれない。大腸がんを防ぐプランク、ヒップリスト、スクワット、乳がんを防ぐプッシュアップ、鎖骨下筋トレ、転倒骨折を防ぐクラムシェル、もも上げダッシュ。スキマトレとしてワンレッグアップ、壁つきプッシュアップなどなど、ちょっとしたことから始めて、それが生活の一部になっていけばしめたもの。
 写真やイラスト、データを示した表などがたくさんあるので、手に取って実践してほしい。ぽっこりおなかをひっこめる、頑固な便秘を直す、健康寿命を延ばす、などのため、著者の「生活習慣」オンラインスクールに参加した方々の体験談もあなたの背中を押してくれるだろう。(芳地隆之)