今年のGOTCHA !! RALLYに先立って、昨年の発信先である北海道室蘭市の株式会社由希の活動、そして「どうしてトンギスカンを全国に展開したか」の経緯についてお聞きした『生涯活躍のまち』(第26号)のインタビュー記事を掲載します。

 2009年6月にデイサービス「おたがいサロン」から事業をスタートした株式会社由希は、放課後等デイサービス、サービス付き高齢者向け住宅、認知症カフェ、こども食堂などの運営を経て、2019年には北海道で初の共生型デイサービス(共生型放課後等デイサービスならびに共生型児童発達支援)に取り組みました。そして、2020年には、地域密着通所介護、放課後等デイサービス、就労継続支援B型、そして地域に開かれた「ごちゃまぜ食堂」の入った「ゴチャマーゼ中島」を開設。子どもから高齢者まで多世代が集う室蘭市における「ごちゃまぜの街づくり拠点」として活動をしています。そこで今回は「GOTCHA !! RALLY」の発信地になった同社社長の藤田さん、取締役の細川さんに話をお聞きしました。

――藤田さんは看護師として、また看護学校の先生として働いてこられたとお聞きしています。どうしてご自身で会社を立ち上げられたのですか。

藤田 人が自由でいられる空間に看護師としていたかったというのが一番の理由です。人を年齢や病気、障害の有無でわけることなく、介護が必要な方が誰でも安心して利用できる場所――そうした理想の職場がなかったため、自分でつくろうと思いました。

藤田美智代さん

――いきなり経営者になられたわけですね。

藤田 まずは介護保険の通所介護で経営基盤を築き、宿泊も含め自費サービスで対応していました。利用者さんの経済的負担を軽減するために、取得できる認可は申請し、その結果、共生型のデイサービスが生まれたのですが、乗り越えなくてはいけない壁はたくさんありました。その都度、室蘭市役所、北海道胆振総合振興局、北海道庁などに相談しながら歩み続け、現在は2つの事業所(おたがいサロンとゴチャマーゼ中島)で約30名が働いています。

――「ごちゃまぜ」という言葉を意識したのはいつごろですか。

藤田 共生型デイサービスをはじめたら、みんなが自分らしく生き生きしてきたので、「これをどうやったら地域にまで広がられるのだろう?」と考えていたときに紹介されたのが佛子園だったのです。そして2018年に理事長である雄谷良成さんに室蘭で講演いただいた際、「ごちゃまぜ」という言葉を聞いて、「共生のまち」より「ごちゃまぜのまち」の方が地域の方々にも伝わりやすいなあと。そこで翌年には当社が事務局になり、地域で暮らす高齢者、障害者、子ども、学生、地域住民など、いろいろな人がお互いに支え合い、生きがいをもって暮らせるまちづくりに取り組むため「NPO 法人ごちゃまぜの街をつくる会」を設立しました。

――そうした背景から「ゴチャマーゼ中島」が開設されたのですね。普段の業務について教えてください。

藤田 ごちゃまぜ食堂の「おばちゃん」をやりながら、就労経済支援B型の利用者さんのサポートをしています。社長業はそれ以外の時間で(笑)。

細川 ぼくは児童発達支援管理責任者として働きながら、地域の方々とまちづくりの作戦を練ったりしています。

細川正人さん

――現状の課題はありますか。

細川 就労支援のための仕事を増やすこと、そして質を充実させることです。現在は食堂で働いてもらっているほか、介護補助、(ゴチャマーゼ中島の入っている)建物の清掃、まちのパン屋さんがつくっているクッキーの梱包などに取り組んでもらっています。

藤田 一人ひとりの個性に合った仕事を選択できるようにしたいですね。「この仕事はこの人に」ではなく、「この人に合った仕事は何だろう」と考え、それを実現するための地域の資源を見つける。経営者としては、共生型サービスを行うための職員教育です。多様性を受け入れるためには、自分のなかの多様性も受け入れなければならないのですが、これは体験してみないとわかりません。その上で私からスタッフへ1on1で話すようにしています。

――GOTCHA !! RALLYの話に移りたいと思います。「トンギスカン」の誕生は、室蘭工科大学の清水一直教授のものづくり研究室が大きなジンギスカン鍋をつくったのがきっかけだったと。

細川 清水先生のものづくり研究室が「鉄のまち」室蘭市をアピールし、みんなで食べて楽しめる直径1.2mの大きな「オリジナルジンギスカン鍋」をつくりました。それを使って清水先生が「ホリエモン」こと堀江貴文さんとロケットのターボポンプを共同開発している大樹町でジンギスカンを振舞ったところ、その場にいた堀江さんから「この鍋をもう少し厚くし、深みをつけて家庭用に小さくしたら、いろいろな料理に使えるんじゃないか」というアドバイスを受け、改良したのがこの鍋です。そこでジンギスカンだけでなく、「ごちゃまぜ食堂」の就労品目としてメニューを開発しようと、当社の取締役であり、料理人の音喜多哲朗と相談しました。最初は「すき焼き」を考えたのですが、日常的に食べるには値が張る。じゃあ「室蘭やきとり」をジンギスカン風に料理したらどうかということになったのです。

――室蘭で「やきとり」といえば、豚肉なんですよね。

細川 昭和10年代、製鉄所で栄えていた室蘭市の労働者向けに豚肉の串焼きを提供する屋台が生まれたのが始まりで、室蘭では、いまでも豚肉と玉ねぎを交互に串で刺して焼いたものを「やきとり」と呼んでいます。

――そこから試行錯誤が始まった。

藤田 どのようなお肉がいいのか、タレはどうするか、販売方法はどうするか。福祉の仕事をしながらだったので時間がかかりました。ふるさと納税の返礼品として商品の登録がされたのは今年(2022年)2月でした。

――それから間を置かずにGOTCHA!! RALLYで5t 強のトンギスカンを用意してくれと。

藤田 それまでは毎月4食(一食分のお肉は400g)程度をごちゃまぜ食堂で出していただけだったので、正直、引き受けるかどうか悩みました。トンギスカンはタレも大事なので、タレを製造・販売している(株)ソラチに話したら、「5t分もつくったら材料がなくなるよ」。それでもつながりのある会社の社長さんたちに相談し、普段、お付き合いしている精肉屋さん以外の業者さんにもつなげてもらい目途が立ちました。

――そうした悩みは私たちには伝わってきませんでした。細川さんも「わかりました」と淡々とされていたので(笑)。

藤田 私たちは即断即決、即行動がモットーで、とりあえず「いくぞー」と。

全国各地でトンギスカン(佛子園 B’s行善寺)

――実際にGOTCHA !! RALLYが始まって、いかがでしたか。

細川 石川県にある佛子園の各拠点やJOCA 東北もお邪魔したのですが、みなさんとても楽しそうにやっていただいて、ありがたかったです。

藤田 みなさん毎日トンギスカンを見て、食べて「もういいや」ってなっていると思うのですが(笑)、当社だけではできないこと――いろいろな業者さんたちを巻き込むなど――を経験させてもらいました。私たちにとっては「黒子」になってまちの人たちを盛り上げるチャンスもいただいたと思っています。

――黒子になるとはどういうことですか。

藤田 共生型サービスの現場では、私たちが黒子になって子どもや高齢者をつなげると、化学反応が起こるんです。利用者さんには自由にして過ごしてもらうので、失敗やハプニングの連続。それをどれだけ面白がれるかが私たちの仕事だと思っています。私たちが楽しんでいないと利用者さんも楽しくないんですよ。

食器洗いとお片付け

――GOTCHA !! RALLYもハプニングでしたね。

藤田 だからとても楽しめました(笑)。

(聞き手 芳地 隆之)