脳内で働く神経伝達物質のひとつにセロトニンと呼ばれるものがあります。人間の感情や気分のコントロール、精神の安定に深く関わっているそれの分泌が多いとリラックスでき、少ないと不安を感じやすくなるといわれています。最新の研究では人の攻撃性の程度にセロトニンが関与することもわかっているそうです。

当協議会の会長である雄谷良成(社会福祉法人佛子園理事長、公益社団法人青年海外協力協会会長)が、脳科学者である中野信子さんの説として紹介するところによると、日本人の97%はセロトニン不足、すなわち「不安遺伝子」をもっており、それが現在のコロナ禍で、マスクをしない人や感染者の多い都会から地方へ来る人などに対する攻撃性となってあらわれるとのこと。いわゆる「正義中毒」であり、自分は我慢しているのに、どうしてあの人は我慢しないんだと怒りが沸くというのです。

とはいえ「不安遺伝子」はマイナス要因ばかりではありません。日本の面積は世界の国土のわずか0.25%であるにもかかわらず、マグニチュード6以上の地震が起きる回数は20%以上、風水災害の5分の1が日本に集中しているといわれています。そうした日本列島の風土では、セロトニン不足=不安遺伝子をもっている人の方が生き残った可能性が高く、その結果が97%ではないかというのです。

今年、刊行された漫画家・著述家のヤマザキマリさんと中野信子さんの対談本『パンデミックの文明論』(文春新書)を読むと、イタリアと日本におけるコロナ禍における人々の対応の違いが面白いのですが(個性を出すことが大切であるとするイタリアと集団の論理に従うことをよしとする日本)、高齢者を敬い、三世代同居の多いイタリアの現状を知ると--それが若者による高齢者への感染を拡大させてしまった原因と指摘されていますが--昔の日本がそうだったんじゃないかとも思えてきます。

若者や高齢者が交じって生活するというのは、中野さんが一時暮らしていたフランスでも同じで、若者のパーティにお年寄りが来たり、公園で一緒にチェスをしたりという光景が当たり前だとか。イタリアには日本のような世代別に発行される女性雑誌はないそうです。だから18歳から80歳まで同じ雑誌を読む。高齢者もビーチに行けば、ビキニを着て全然平気。一方、日本はどうでしょう? 経済成長に伴って世代が分かれて住まうようになっていき、生活スタイルも違うものになってしまったのではないでしょうか。

話をセロトニンに戻せば、ヤマザキさんは、かつてのローマ人は大事な話し合いがあるときは、貴族も庶民もみな浴場に行って、お風呂につかりながら議論をしていたことを挙げて、国会もお風呂でやったら(笑)と提案しています。中野さんも、不安を抱える人はお風呂でセロトニンを分泌させるといいと言っています。筋肉を弛緩させ血流をよくし、丸腰の状態でお互いに本音を出し合えば、話は前向きな方向に進みますよね。

本書を読んでいくと、国や文化の違いよりも、人間の共通点をもってコロナに対処していく方が、より未来は開けてくるのではないかと思えてきます。しなやかな思考と行動力の持ち主であるお二人ならではの対談でした。