2021年2月12日にNHKで放送された同名タイトルの番組は、ドラマでもルポルタージュでもない、いや、ドラマでもあり、ルポルタージュでもある、というべきか。1990年前後に「デカセギ」で日本に来た日系ブラジル人たちの声を基に宮藤官九郎が脚本を書き、俳優のイッセー尾形が演じるというものだ。場所は日系ブラジル人が多く住む名古屋市にある中駒九番団地。敷地の真ん中に野外向けの小さな舞台をつくった。時は2020年11月22日。コロナ禍におけるゲリラ的な試みに、総戸数1,500戸の同団地に住む日系ブラジル人約300人のうち100人以上が集まった。
 本書の前半は舞台向けの脚本である。
 イッセー尾形はゴミの分別を指導する「自治会長のホリイさん」、組み立て工場で働く「生産ラインのカヨさん」、配管工事を請け負う「現場監督のトシちゃん」、最後に「日系ブラジル人のロベルト」を演じる。ホリイさん、カヨさん、トシちゃんは市井の人々。ホリイさんは不法にごみを捨てるロベルトに「世間の目」をどう説明していいのかわからず頭を抱える。カヨさんは工場でカニ歩きしながらの作業のおかしさをロベルトに指摘されて動揺するが、ロベルトが賃上げを交渉して勝ち取ることに感心
する。トシちゃんは、夜の11時から通話料が半額になることから公衆電話にテレホンカードを手に長い列をつくる日系ブラジル人のひとり、ロベルトからブラジルにいる家族の話を聞く。
 そしてホリイさん、カヨさん、トシちゃんと付き合ってきたロベルト。非正規雇用ゆえに業務上のケガへの保証もなく解雇され、家も失った彼はもう初老の身だ。彼はギターで「ロベルトはガイジンじゃない ロベルトはニンゲンさ」と、30年間の日系ブラジル人の歩みを振り返るように歌う。
 観客の多くが笑い、泣いた。
 本書の後半は宮藤官九郎が愛知県、静岡県、滋賀県、長野県に住む約150人の日系ブラジル人に行ったインタビューの一部を紹介している。
 ブラジルのブローカーから入国審査では「何を聞かれても、シンセキ、アソビと言え」といわれたのは、もっているのが観光ビザだからということを後で知った、公衆電話の長い列で待つのは、ともに郷愁を感じ、お互いを慰め合ういい時間だった、など悲喜こもごもが伝わってくる。ブラジルでは「日本人」と呼ばれ、日本に来たら「ガイジン」と言われる彼、彼女らの気持ちへの想像力を働かせたい。
 テレホンカードやリーマンショックは過去のものだが、外国人労働者が増える日本のいまと直接つながる。宮藤官九郎とイッセー尾形のコラボによって生まれる笑いと涙は読者をときに考えさせ、視線を未来へと誘っていく。
 この番組は youtubeで視聴できる。合わせてご覧いただきたい。 (芳地隆之)