心の距離は近くしていきたい

 8月1日、広島県で生涯活躍のまちの拠点となる「月ヶ瀬温泉」がオープンしました。(公社)青年海外協力協会(JOCA)が単独で運営する初めての拠点となります。

 安芸太田町は中国地方の内陸部の中山間地に位置します。かつては林業で栄えた山陽と山陰を結ぶ街道の宿場町として、100以上の飲食店が軒を連ね、人口は1955(昭和30)年には2万3000人強に。しかし、それをピークに現在は6000人強と約4分の1にまで減少しています。

 JOCAが広島市内にあったオフィスを安芸太田町に移転したのは2016年。名称も「JOCA×3※」として、中山間地のコミュニティの再生モデルをつくる準備に入りました。

※2004年に加計町、筒賀村、戸河内町が合併して安芸太田町が生まれたことから「×3」、 ×(かけ=加計)と3(さん=上記の3町)を「かけ」合わせた名称。「ジョカカケサン」と呼びます。

 当日、地元の県立加計高校の国際交流おもてなし隊の司会で始まったオープンセレモニーの冒頭挨拶で、JOCAの雄谷良成会長は、「いま社会的距離をとることが求められていますが、心の距離は近くしていきたい。それは、子どもも高齢者も、障害のある人もない人も、認知症の人もそうでない人も、日本の人も外国の人も、誰もが関わりあって暮らすことなのだとあらためて確信しています」と述べました。続いて、安芸太田町の橋本博明町長は「この拠点が多くの町民のみなさんの交流の場になるよう、支えていきたいと思います。みんなで安芸太田町の家族づくりをしましょう」と呼びかけ、広島県健康福祉局の田中剛局長からは「共生社会とはどういうものか。佛子園の施設を視察したときそれがわかって、目からうろこだった。そして安芸太田町でも進んでいると聞いて驚き、このオープンの場にいることをうれしく思う」、安芸太田町議会の矢立孝彦議長は「JOCAの皆さんはこの事業を立ち上げる前から町内の高齢者の方々への配食サービスをしてくださっていた。安芸太田町にご家族と一緒に住んでいるスタッフもいらっしゃる。感謝したい」。旧加計町出身で、関東で長年仕事をした後、地域おこし協力隊として帰郷した小西俊二さんの「月ヶ瀬温泉が地域の再生の拠点となるように」という乾杯の音頭で、参加者一同コップを掲げました。

人の顔が見える経済を小さく回す

 月ヶ瀬温泉のなかにある食事処「やぶ月」には駄菓子コーナーのほか、ティッシュペーパー、洗剤、スポンジから広島カープの赤いベースボールキャップやTシャツまで商品がところ狭しと置かれたり、掛けられたりしています。

 「安芸太田町のような過疎地では、小さく経済を回していくことが大切。『この商品は〇〇さんや〇〇さんがいつも買っていく』ということがわかってきたら、仕入れの数も調整でき、品揃えも整ってくる」という雄谷会長は、「いつも買ってくれる高齢者がしばらく来なかったら、『どうしたんだろう?』と気になるでしょう。『ちょっと訪ねてみるか』と、そんな見守りの要素も生まれる」と言います。シャッターが目立つ商店街の逸品をここに集約すれば、各店の売り上げ増に貢献するかもしれません。

 このまちの歴史も重要な役割を担うという雄谷会長は、「商店が並ぶ通りは都市などで見られるまっすぐな道ではなくて、微妙に曲がっている。この町に住む人々の暮らしに合わせて敷かれたからではないか。いたるところにかつての面影が残っている。長年、積み重ねてきた歴史がこれからのまちづくりに生きてくると思う。安芸太田モデルが軌道に乗れば、全国各地の過疎化に悩む市町村にとっての汎用可能な解決モデルになるだろう」。

 人の顔の見える経済を実践し、日本各地が近い未来に向き合わざるをえない課題にいち早く取り組んでいるここは、「時代の最先端」といえるのではないでしょうか。

 月ヶ瀬温泉がどんな居場所になっていくのか。楽しみです。

食事処「やぶ月」。商品が天井近くの棚までびっしり。適度に雑然としていた方が居心地がよい