本書の前半では、著者が旅行会社を辞め、ゴーゴーカレー初店舗を新宿の地下にオープンしてからニューヨークへ進出するまでが自身の経営スタイルのようにスピード感満載で描かれる。中盤では黒字倒産の危機、娘さんがわずか55日で亡くなる悲しみなど、苦難の日々も綴られ、後半では、それらを乗り越えて、経営とは何か、それを通して自分は何がしたいのかが明らかになっていく過程が記される。
 同郷のプロ野球選手、松井秀喜さんのヤンキースタジアムでの満塁ホームランを見て全身に電流が走ったときから、カレーの専門商社として世界を巡っている現在まで——。著者の気持ちがしっかり込められているのが本書だ。
 全体に通底しているのは、目の前に壁が立ちはだかったときに、「できるか? できないか?」ではなく、「やるか? やらないか?」の判断をするということ。著者は「やる」と決めてここまで来た。明確なゴールを設定し、そこに到達するにはどうしたらいいかを逆算する発想である。
 ゴーゴーカレーグループには人事部がない。社員やスタッフが「この人と一緒に働きたい」「この人なら絶対活躍できる」という人をスカウトするからだ。ほとんどの会社には人事部があり、そこで一括して採用するわけだが、新入社員は人事部の人たちと一緒に働くわけではない。だから同じ現場に立つ自分たちが採用しよう。そこで見誤ったとしても、人事部のせいにはできない。困るのは自分たち。だから真剣だ。
 そうした姿勢が「年齢・性別・国籍・学歴いっさい関係なく、成果を上げた人を評価・登用する。つまり誰にでもチャンスがある」という「ゴーゴーカレー流」を生んだのだろう。
 カンボジアの子どもたちのための学校設立や里親の支援、東日本大震災の被災地での炊き出し、盲ろうのトライアスリートや音楽家を志す苦学生の応援など、著者は事業で稼いたお金を還元することで世界を元気する、で一貫している。本書の終盤では、カレーのスパイスが認知症の発生を防ぐ働きがあるという研究を紹介。さらにそれを進めて、がんに対する免疫力を上げるカレーをつくって、世界中に流通させると宣言する(それによって自分の誕生日と同じ日に行われるノーベル賞受賞式で平和賞を受賞するとも)。
 著者のいう「元気にする」とは、人の気分を高揚させるといった抽象的なものではない。極めて具体的な目標であり、そこに本書のタイトル「カレーが世界を元気にします」の真意がある。(芳地隆之)