シングルマザーの方、そして彼女の娘さん(当時2歳)と長野県のある地域を訪れたことがある。そこがひとり親にとって住みやすいまちなのかを視察するような滞在だった。2日目に彼女はうれしそうに言った。「ここ(その地区)でベビーカーを引いて歩いていると、いろいろな方に声をかけてもらえる」。都会のマンションに住む彼女は、地域とのつながりが希薄で、普段はどうしても母と子の1対1になりがち。だから、いろいろな大人が娘をみてくれるのがありがたいというのである。地域が子どもを育てる環境の大切さを教えられる言葉であった。
 地方創生が国の政策として掲げられて以来、自治体によるひとり親家庭のための移住施策が各地で行われている。とくに子どもを育てながら働く女性にとっての労働環境を改善すべく、市町村では、仕事、住まい、子育てにおける支援制度の充実、受け入れ体制の整備に努めているが、必ずしもひとり親のニーズに応えているケースばかりではない。せっかくシングルマザーが地方へ移住しても、受入れ自治体職員との意識のずれ、地域住民や職場の同僚との軋轢などが生じて、結局、出て行くということもある。
 住民同士が支えあいながら、地域で仕事を得る、創出する、地域で子どもや高齢者をケアすることなどを通して、ひとり親が安心して暮らせる「生涯活躍のまち」はどうあればいいのか。そのような問いかけから表記のシンポジウムを開催した。
以下はその記録である。広くまちづくりという視点から読んでいただければと思う。

シングルマザーの地方移住の難しさ

 私自身もシングルマザーであり、しんぐるまざあず・ふぉーらむの代表として、さまざまな地方自治体の担当者や支援員、女性相談員の方々と交流しながら、学んできました。
 これまでの人生を振り返ると、自分も移住を考えたことがありました。子どもが保育園のころ、自然のなかで伸び伸びさせたいと思い、茨城県で養鶏所を営み、有機野菜をつくっている農家を訪問し、作業をお手伝いしたのです。その家族は以前、東京で暮らしていましたが、有機農業をやりたいという夫の希望で移住してきたといいます。ところが、妻である女性の方は、この環境で子育てをしていると疲れることがあり、1年のうち何回かは子どもと東京で部屋に籠ると言っていました。夫婦一緒に移住してもそういうことがある。ましてやシングルマザーが移住し、女性と子どもだけで地域に適応するのは難度が高いと思ったのを覚えています。
 これは30年前の話なので、現在は違うかもしれません。当時は農村での嫁不足解消のため、多くのフィリピン花嫁がやって来て農村の人口維持を図ったものの、彼女たちはDVなどのため逃げていくというケースもありました。都市と農村の文化の違いに対する認識不足や、男女平等の考え方が農村には浸透しにくかったからだと思います。そうした女性の生きにくさが、ひいては農村の疲弊を招いたのではないでしょうか。
 ひとり親への支援を行っているなかでシングルマザーの話を聞いていると、待機児童の問題など、皆さん困っています。一方、人口が減少している地域はとくに介護分野での人手不足や空き家の問題に悩まされている。地方には住むところがあり、待機児童の問題もないので、当該自治体から「住まいや子育てに関する悩みを抱えているシングルマザーの方々にわがまちへ来てほしい」というお申し出をいただくことがここ数年、増えてきました。今日はそうした状況のなかで、自分なりに考えてきたことを話したいと思います。

安心・安全のルール

 NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむの会員は約1,600名。シングルマザー当事者を支援する活動――具体的には就労支援事業、子育て支援、電話・メール相談、グループ相談会や親子イベント(バーベキューの交流会など)、セミナー事業(ひとり親向けの元気になるセミナーやサポーター養成講座など)、ひとり親向けの情報を掲載したフリーペーパー「SMOMS」(11万部)の発行などを行っています。グループ相談会・ママカフェは孤立しがちな方々が仲間と出会う場づくりであり、その際は、「安心・安全のルール」というプライバシーへの配慮をしています。ここで話したことは外には漏らさない、プライバシーがこの場(グループ相談会)だけで守られる、という配慮がいろいろな局面で大事になってくるのです。
 移住先でも同様でしょう。島根県ならびに同県浜田市の方がシングルマザーの移住受け入れについての相談に来られた際、私は「シングルマザーが外で男性と立ち話をしていたら、翌日には市内中に噂が広まっているなんていうことはありませんか?」と尋ねました。そういうことをシングルマザーは嫌がるからなのですが、担当者は「そういうこともあるかもしれませんね」。地方では匿名性が守られる環境が小さいのではないでしょうか。
 上記の子育て支援事業のなかには「入学お祝金」というものがあります。子どもの小学校、中学校、高校、大学等の入学時に制服代がないなど、困難を抱える人が多いので、困窮度の高い世帯に寄付金から3万円を3月はじめに送金しているのです。2017年には応募525名に対して、会員351名に送金しました。
 就労支援には「シングルマザーキャリア支援プログラム」があり、現在は4期を迎えています。同プログラムでは外資系化粧品メーカーの日本法人「日本ロレアル」と提携し、今年は5カ月間の研修を経て、参加者をエンパワーメントし、ビジネスマナーや身だしなみ、パソコン講座などを通して、いろいろな問題解決や美容部員になるためのスキルを身につけてもらいました。
 終了後、希望すれば日本ロレアルの美容部員、あるいは連携先の人材派遣会社のスーパーアドバイザー職やオフィスワーカーの採用面接に臨むことになります。これまでの受講生は100名以上。自分で探して転職する人もおり、全員満足度は高く、うち半分以上が収入を増やしています。いままで同じ立場の方と出会うことがなかったので、こうした交流を通して皆さんとてもポジティブになれるのです。

ひとり親世帯の現状

 現在、日本の母子家庭は約123万2,000世帯、父子家庭は約18万7,000世帯。ひとり親家庭全体で約140万世帯となっています。この数字は20歳未満の子ども、もしくは同居親族がいる方も含めた数であり、同居親族がいない家庭は困難の度合いはより大きくなります。ひとり親になった理由で最も多いのは離婚で全体の80%ですが、離婚件数は2002年がピークで、それ以降は減り気味です。

就労状況

 日本はシングルマザーの就業率が高い一方、就労収入が低い。母子世帯のうち、母親の82%が働いているにもかかわらず、平均年収は200万円程度(父子世帯においては父親の86%が就労しており、父子家庭の平均年収は398万円)に留まっています。雇用形態では、パート、アルバイト、派遣社員など非正規が49%に上り、非正規で働く方の平均年収は約133万円。養育費の受取率は24.3%と4人に1人であり、賃金もあまり上がらないので、母子家庭の子どもの大学進学率は24%に過ぎません。にもかかわらず、生活保護受給世帯は14%と低いのが現状です。

相対的貧困率

 日本のひとり親家庭の相対的貧困率は51%と世界の先進国のなかで一番高い。これは男女間、正規・非正規間の賃金格差、子育てと仕事の両立の難しさという構造的な問題がひとり親家庭に大きな影響を及ぼしているといえます。母子家庭の収入別割合をみると、100万〜200万円が4割、200万〜300万円が2割であり、100万円〜200万円の層は、生活はギリギリで、教育費など大きな出費には対応できないのです。ひとり親に対する児童手当支給制度には365万円以下という所得制限があります。

子育てと仕事の両立

 この困難を多くの方が抱えています。ひとり親の日常生活支援事業を行うファミリーサポートセンターなど、子育てと仕事の間を埋める地域資源はあるものの、そのサポートが当事者に届いていない。そのため、仕事を続けることができず、パートになってしまい、時間もない、お金もないという悩みに陥ってしまうのです。

移住支援のミスマッチ

 地方自治体の方が「保育園もあります。働きたいのであれば介護の仕事があります」とアピールする先として、0〜100万円の層はまず寄り添いサポートが必要であり、移住は難しいでしょう。私は東日本大震災時に首都圏に避難してきたお母さんたちの支援をしてきました。その際、移住、移動がどれだけ大変かがわかりました。ターゲットは余力があって、移住先に魅力を感じているもう少し収入も高い層ではないでしょうか。ひとり親家庭への移住支援はターゲットを間違えていると思います。
 人口減の地域をみてみると、児童扶養手当はあっても、そのほかの支援がなされていないところもあります。また、地元にいるシングルマザーへの支援が十分でないのに、「どうして移住者の彼女たちは優遇されているのか」という目で見られてしまうというケースもある。地域にいるシングルマザーが生き生きと暮らし、自分がひとり親であることを普通に言えるような場所であれば、「自分も行ってみたい」と多くのシングルマザーは思うでしょう。

ひとり親移住支援の課題

 私からは自治体によるひとり親移住支援の取り組みを紹介するともに、同支援の課題について話をしたいと思います。
 私は過去18年に渡り、シングルマザーの住宅問題を研究してきました。シングルマザーが最も深刻な住宅問題に陥るのは離婚前後です。たとえば働いていない状態で不動産業者を訪れると、前年度の収入、勤続年数、保証人が求められます。それらをクリアできないと、なかなか住宅が確保できないのです。また、住まい、つまり、住所がなければ働くことができないし、保育所にも預けられない。どこから手をつけていけばいいかわからなくなり、自立が遅れるパターンが少なくありません。「それなら生活インフラ(住宅、仕事、保育所)をセットで提供すればいい」と思った私は、地方の自治体――島根県の浜田市や邑南町など――が実践する、ひとり親のための移住支援から何かヒントがえられるのではないかと考えました。上記の3つの課題(住宅、仕事、保育所)が一挙に解決される可能性があると思ったのです。
 浜田市は、日本創生会議が2014年に公表した増田リポートで「消滅可能性都市」のひとつに挙げられました。その内容は、2010年からの30年間で若年女性の人口が半減するというもの。危機感をもった同市はプロジェクトチームを立ち上げ、役所内でいろいろなアイデアを出してもらい、そのなかからひとり親向け移住支援事業が始まりました。
 浜田市の課題は他の地方都市と同様、高齢化と介護人材の不足です。そこで都会のシングルマザーに介護の担い手として来てもらおうと考えました。シングルマザーは経済的にはもちろん、時間的にも、精神的にも余裕のないなかで必死に働いている。都市で生きづらさを感じているかもしれないシングルマザーに地方で活躍の場を提供できないか。そういった経緯から介護職に就くシングルマザーを対象に移住支援の仕組みを作ったのです。
 具体的なメニューは、介護現場の給与15万円以上を保障するほか、その事業所で2年目以降継続して就労すれば、報奨金として100万円、このほか、トヨタとの連携で中古車の無償提供や引越し費用30万円の支給があります。加えて、移住後1年間は養育支援金として毎月3万円、ならびに家賃補助が提供されます。
 地方の住宅規模はとても大きいので、家賃補助を受給し、実質1万数千円の家賃で3LDK庭付きの家に住んでいる方もおられます。浜田市はこれらの支援を同市の原資で始めましたが、2年目以降は国からの地方交付金と島根県からの補助金を活用しています。
 それまでシングルマザーに手厚い支援をする自治体はほとんどなかったので、浜田市のそれは画期的でした。これらの支援は2018年9月時点で第6期に入っています。半年ごとに募集をしており、開始当初は新聞やテレビなどメディアが派手に取り上げ、「これが地方創生だ」と報じたので、問い合せは153件に上りました。都市部におけるひとり親の貧困、地方における高齢化と人手不足、これらの問題が一気に解決できる事業モデルと大きな注目を浴びたのです。ところが、現在、問い合わせは徐々に減ってきています。また、第6期まで移住者は14世帯、33名。しかし、うち約半数が元の地域に戻ったり、近隣の他市に移動したりという状況です。
 いずれにしても、こういった流れを受けて、北海道の幌加内町、兵庫県の神河町、徳島県の美馬市など、全国の自治体にも広まりました。なお、幌加内町の事業では給与を17万円以上保障、5年間定住すれば50万円、10年定住すれば100万円を支給するとしています。浜田市では支援策が2年目からほとんどなくなるのに対して、幌加内町では子どもが18歳になるまで保障することを決めているのです。

移住者たちの声

 私は都市部で開催されるひとり親を対象とした地方移住の相談会に参加して自治体の意見を聞き、そこで調査協力をし、これまで3地域の18名のシングルマザーに話を聞きました。
 そういった調査から、現行のひとり親移住支援のタイプを次の4つのカテゴリーに区分してみました。
 カテゴリーの1つ目は、浜田市や幌加内町が行っている特定職種の優遇型。これは、介護職や保育、看護職に就くことを条件とする移住者への制度です。2つ目はキーワード利用型。既存UIJターン向け支援と一般ひとり親向け支援のみで、特別な措置はありません。
 3つ目は、支援メニューカスタマイズ型。神河町の支援がそれに該当します。ひとり親移住支援のセクションを創設して、実際の移住者に相談窓口担当者になってもらうというもの。最大の特徴は高等技能訓練制度を含む就労支援を行っている点です。神河町が提供するシェアオフィスにシングルマザーを雇用したい事業者にブースに入ってもらい、そこで技能訓練をしてもらう。実際、ドローンによる測量技術を取得したシングルマザーや、メディア編集の会社に入り、撮影や編集の技術訓練を受けているシングルマザーもいます。
住宅手当や支度金制度もありますが、これは既存のUIJターン支援の内容をシングルマザー向けに拡大させたもので、特別なものではありません。同町は新幹線の姫路駅から在来線で40分の近さながら、のどかな地域で住みやすく、神戸や大阪へのアクセスもよいということで、開始から2年ほどでシングルマザー移住者が10世帯ほどになっています。
 4つ目は子育て世帯全般優遇型。移住者、既存住民にかかわらず、子育て世帯への支援の充実により、ひとり親の移住が増加したケースです。たとえば邑南町がこれに当たり、同町では2015年時点で7世帯のシングルマザーが移住していますが、シングルマザーに限定せず、子育て世帯全般を優遇しよう、そうでないと生き残っていけないと考え、結果として、子育てによい町と聞いたシングルマザーの移住が増えました。 
 特定職種優遇型は地元住民の移住者に対する期待度が高くなり、その結果、シングルマザーの自由度が下がってしまいます。たとえば、事業所を途中でやめてしまうと、全ての制度が受けられなくなるといった縛りです。また、かなり手厚い支援ということもあって、地域でシングルマザーが目立ってしまうという課題もあります。
 当事者15名ほどにインタビュー調査した結果は図表7〜8のとおりです。
 特定職種優遇型の支援を利用して移住した方の意見(図表7)で多かったのが、従前の生活が本当に厳しいので生きるために来たというものでした。たとえば「配偶者に経済的能力がなく、とにかくお金を入れてくれない。これでは一緒にいるより、自分でやり直しした方がよいと考えて移住を決めた」「都市部で生活再建しようと思ったが、役所の対応が厳しかった」「本当に生活が苦しいのに行政が支援してくれなかった」「シングルマザー移住支援制度がなかったら自分はどうなっていたかと思う」など。福祉担当部署に相談にいっても、冷遇され、自立を強く希望しても、行政から期待する回答を得られないという声も多くありました。
 自由度の高い地域だと(図表8)、「地域に魅力を感じた」という声が多くなるのが特徴です。「都会の生活に疲れてしまった。少し経済的に余裕がでてきたものの、子どもとの関係がぎくしゃくしてきたので思い切って移住してきた」「ここの(土地の)水を使って、パンを焼いたりして、カフェをやりたい」「子どもの環境を変えたかった。子どもが学校でうまくいかなくて悩んでいる時に、地方なら手厚く支援してくれるよと聞いて来た。移住してよかった」「決め手は行政の対応。こちらがお客さんという立場でみてくれて、親切なことに感激した」といったものです。
 これらをどう評価するか。経済難やDV、借金など、極めて厳しい状況にあるケースでは、いろいろと課題を抱えていて、移住先でもそれが続くケースが考えられます。受け入れ自治体のケア体制が整備されているかということも、シングルマザーに対処するうえで大きなポイントとなります。もちろん、人間関係や体力的な問題から仕事が続かない場合は、生活保護での対応ということも想定しておかなくてはいけません。
 シングルマザーの声を聞くと、従前の過酷な生活から脱することができた点をありがたいと感じており、「これがなかったら死んでいたかもしれない」という切実な声もありました。他方、介護職の現場で優遇されることに引け目を感じる声も少なくありません。
 地元のシングルマザーには特別な支援もなく、介護職で働く人もいます。くわえて彼女たちは夜勤をしているのに、移住したシングルマザーは夜間保育の支援がないため、夜勤ができないなど、介護現場で摩擦が起きやすい要素がある。失職した場合、地域に居づらくなるという声もありました。支援制度が打ち切られてしまえば、生活困窮の状態へ逆戻りしてしまう可能性も高い。今後は、こういった状況をいかに回避し、改善していくかということも併せて検討しないといけないのではないでしょうか。

移住がゴールではない

 非婚母子家庭は、離婚したシングルマザーと同じ支援制度の対象にならないという問題もあります。自治体の裁量によって是正するところはあるものの、移住先が必ずしもそうなっていない場合もあり、都市部では制度の対象だったが、移住先では受けられないというケースも聞かれます。シングルマザー支援を掲げるのであれば、シングルマザーの実情を知り、制度体系を整備してから受け入れるべきでしょう。
 シングルペアレントを受け入れることのメリット、デメリットを冷静に分析することが必要かもしれません。一過性の支援では定住率は高まらないと考えます。シングルマザーが移住したら終わりではありません。移住後の生活を支えるまちづくりをしていくことが必要です。介護人材確保のなかでも、夜勤を担う人材への期待が高いにも関わらず、夜間保育等の仕組みがないため、移住者がそれを担うことは難しい現実があるのです。
 管理者側で夜勤の免除を了承していても、介護現場で、「自分だけが特別扱いされている」と引け目を感じるという声はとても多い。また、夜勤をすれば、手当てもつくため生活はより楽になる。現場の期待に応えようと、小学生の子どもの晩と朝のごはんを置いて夜勤をこなすというケースも複数ありました。
 自治体からは、シングルマザーのシェアハウスのようなものをつくって、夜間対応を協力し合う仕組みができないかという声も挙がってきています。介護事業者も地方で人材不足に苦慮しているのなら、シングルマザーや子育てを支援しているNPOと連携して、行政だけではできないことを実施していかなければなりません。
 福岡県宮若市の個人事業主がひとり親6世帯向けのシェアハウスを開設しました。同市では、子育て世帯で移住してくる世帯に最長3年間、2万5,000円の家賃補助をする制度を提供しています。これを利用すれば、シェアハウスの家賃を5万円にしても、入居者は2万5,000円の負担で済む。その結果、開設から2年で全国から10数世帯を超えるひとり親が移住してきており、海外からも問い合わせがあったといいます。この事業者は今年度、有料職業紹介の資格も取得したので、仕事の斡旋もしていくそうです。
 柔軟性と多様性のある制度設計が移住者を呼び込むポイントになります。たとえば、特定職種優遇型の支援は「介護職としてしか移住できない」と誤認されるケースもありました。つまり、その他の、潜在的な移住者を遠ざける要因となっている可能性が高いのです。移住希望者からも、「介護職しかないときつい。経験もないし、もし向いていなかったらどうしよう」との声を聞きます。就労の選択肢を広げる努力は必須でしょう。
 こうした制度情報をうまく伝えることが、まずは重要ですが、残念ながら自治体は情報発信があまりうまいとはいえません。自治体が作成した移住者受け入れの資料は一見して難しそうで、移住を検討している人がすぐに理解できるだろうかと思ってしまいます。
 また、地方の暮らしをもっとリアルに伝える必要があります。移住して何が大変かを行政に聞くと、「車が必要」「商店がなくて不便」「雪が降る」など自分たちが困っていることはすぐ挙げられますが、実際に移住した人からは、物価が安いと期待したけど、「水道代やプロパンガス代が高い」、「自治会費は従前では月数百円だったのに、ここのは高くて払えない」といった声を聞きます。それを行政の方に伝えると、「都会は違うのですか?」といった返事が戻ってくるのです。
 自治体によっては、シングルマザーに対して水道代や電車賃の一部免除などという制度を設けているところもあります。移住先の交通費、水光熱費がより高く感じられるのでしょう。
 「(移住したけど)こんなはずじゃなかった」を防ぐために、収支シミュレーションの図式化などで、都市と地方の事情の違いを的確に移住者に伝えることも絶対に必要です。介護職などは未経験のシングルマザーも多いので、事業者選びのチェックリストとか、先輩シングルマザー介護士などに話を聞く機会などを設けるなどして、それぞれにマッチした職場選びを促してあげてほしいと思います。