(うりさか かずあき)1990年 大和ハウス工業株式会社入社、長野支店 特建営業所に所属し「医療・介護施設」を担当後、松本支店 鋼管構造建築営業所 所長、浜松支店 建築営業所 所長を経て、2011年本社 建築事業推進部 営業統括部、営業本部 ヒューマン・ケア事業推進部 ネクストライフ事業推進室 室長に就任、2018年より現職。大和ハウスグループの高齢者事業を統括し、高齢化が進む郊外型戸建住宅団地(ネオポリス)における様々な地域課題の解決を民産官学連携で取り組み、持続可能なまちづくりに向けた再耕事業「リブネスタウンプロジェクト」を推進している。また全国の医療・介護・福祉施設、保育所などの建設支援 を行なっている。

はじめに
人口減少は地方だけの問題ではありません。都市近郊をみれば、ニュータウンで高齢化が急速に進んでいるなか、大和ハウス工業はかつての自らが開発した地域に入り、課題の解決に取り組み始めました。本特集では同社ヒューマン・ケア事業推進部長の瓜坂和昭さんにご登場いただき、同社のこれまでの活動と未来への展望について語っていただきます。

『岸辺のアルバム』から40年

 上郷ネオポリス(1974年に分譲開始した郊外型戸建住宅団地)のある横浜市栄区は同市にある18区のうち一番高齢化率が高く30.1%(2017年9月30日時点)、上郷ネオポリスに限れば、人口は2,000人弱で高齢化率は50%を超えています。

 われわれが上郷ネオポリスにお伺いしたのは2014年でした。当初の住民の皆さんの反応は「まちづくりといったって、建て替えやリフォームの商売を始めるつもりだろう」。

 まさにアウェーの状況でしたが、住民の皆さんにもまちの高齢化に対する危機感があり、どこかで企業と連携しなければならないという認識をもっておられました。とはいえ、われわれも何をやっていいのかわからない。まずは住民の皆さんとの関係の構築ということで、2014年1月に自治会内の窓口「見守りネットワーク」委員との意見交換から始め、翌年1月には全住民を対象とするイベントを開催しました。

 講演者は脚本家の山田太一さん。山田さんにはテレビドラマ『岸辺のアルバム』という作品があります。1977(昭和52)年に放映されたこのドラマでは、1974(昭和49)年に起きた多摩川の水害でマイホームが流されてしまうのですが、まさに同じ時期に上郷ネオポリスができており、山田さんには「『岸辺のアルバム』から40年経ったいま、そこに住む人たちにメッセージを」とお願いしたところ、山田さんが快諾してくれたのです。講演会で山田さんがおっしゃっていたのは「右向け右とみんなを同じ方向に向かせるのはまちづくりではない。あれがしたい、こうしたいという人の想いは様々なので、それらをつぶさないでほしい」ということでした。そして、講演会後の4月、自治会内に「ネオポリスまちづくり委員会」が発足したのです。

地域の拠点を設立

 通常、自治会役員の任期は1年ですが、まちづくりはロングレンジでやらなければなりません。そこで「ネオポリスまちづくり委員会」については、期限を限定しないということで手を挙げてもらいました。それから毎月、われわれは現地へ出向き、話し合いを続けました。そして「住みたくなる、住み続けたくなる新たなまちの魅力をこのまちにつくる必要がある」ということで、2016年6月に自治会と大和ハウス工業の間で「上郷ネオポリスにおける持続可能なまちづくりに関する協定書」を締結。そして、明治大学の園田眞理子教授や東京大学の小泉秀樹教授らをアドバイザーとして招聘し、「上郷ネオポリスまちづくり協議会」を立ち上げました。

 このように話し合いの下地ができた結果、2017年1月に「全戸住民アンケート調査」を実施したところ、回答率が実に約90%に上りました。アンケートは1枚目をマークシート方式で5問、2枚目は自由に書けるように白紙にしていたのですが、4人に1人がびっしり書き込んでくれたのです。内容の多くは「買い物が不便」「住民の集まれる場所がない」といったもの。ならばみんなが集まれる場所を、と「お茶場」をつくる計画を立てました。当社所有地である上郷ネオポリスバスロータリーの一部に今回建設させていただいたコミュニティ拠点「野七里(のしちり)テラス」(上郷ネオポリスの地区が野七里というところから命名)がその建物です。2019年10月に完成した同テラスにはコンビニエンスストアが併設されています。ここは第一種低層住居専用地域なので法律上、店舗は対象外とされていましたが、郊外型の住宅で生じているいわゆる「買い物難民」等の問題を解決するため条件が整えば、国土交通省が特例と認めていただけることになったため、横浜市に対して許可申請をさせていただきご承認いただきました。

上郷ネオポリス(郊外型戸建住宅団地)。高齢化が進む

 8時から20時まで開いているテラスではイベントなども開催していますが、独居男性の高齢者がコンビニで買ったお酒をここで飲んだりしています。ほぼ毎日来る彼に会うために同じくひとり暮らしの男性が立ち寄ったりし始め、新たなコミュニティも生まれ始めています。また、コンビニの従業員も住民であり、高校生から80代まで幅広い世代の方々に働いていただいています。

 今回、本事業につきましては国交省のスマートウェルネス住宅等推進モデル事業にも採択されました。その採択理由は、建物の建設の補助だけではなく、ここでの事業モデル、さらに働き方モデルが成り立つかを検証するということです。現在、ボランティアの方々に自分の好きな時間、曜日に働いてもらっています。謝礼として1時間に1枚100ポイントの当コンビニ限定地域通貨をお渡ししています。テラスまで来られない方々のためには移動販売車が始動しました。道路に停められないので、車のない家のガレージをお借りして販売をしているのですが、そこが井戸端会議となり、それなりに売り上げも増えています。

住宅の機能を変える

 2020年1月31日には大和ハウスが横浜市と郊外戸建住宅団地の持続可能なまちづくりに関する協定を結びました(2020年1月31日〜2022年4月30日)。前年10月には東京大学高齢社会総合研究機構と連携講座を開設しており、上郷ネオポリス自治会も合わせて、今後は三方よしの考え方で事業を進めていきます。

 まちの魅力の要素として掲げているキーワードは「健康」「生きがい」「つながり」「安心」。たとえば、子育てを終えた夫婦がいまの持ち家を売るなり、貸すなりして、自分たちは2人用の平屋に住み替えるとか、若い世代ですと、これまで住んでいたアパートが狭くなったりするわけで、古い家を改修して、子育て期間である15〜20年ほどを定期借家で住むとか。前者は上郷ネオポリス内の住み替え、後者は上郷ネオポリスへの移住です。ひとり暮らしの人たちが、5〜6人のシェアハウスに移り住むということも考えられます。介護が必要になったときのために、あらかじめトイレやバスの位置を考えて設計しておけば将来自宅を高齢者向け住宅に改修することも可能でしょう。

 ネオポリス内にグループホームや小規模多機能をつくる。空き家となった戸建て住宅を分散型のサービス付き高齢者向け住宅にする。古い建物をサービスステーションやコワーキングスペースとしても創り変えることも出来るかもしれない。すなわち外見はいままでどおりでも、住居に新しい機能が備わることで、上述のキーワードが生きてくるのです。

 第一種低層住居専用地域でも非住宅部分の床面積が50㎡以内(もしくは延べ床面積の1/2以下)であれば店舗併用住宅として利用できることから、広島県の方が一戸建ての家を購入して移住し、1階のスペースで木のおもちゃ・絵本の店を始めました、今後、パン屋、喫茶店、居酒屋などができていったら、懐の深いまちになるでしょう。なお、エリア内での移動のために2019年11月にはカートの試走を行っています。

コンビニが併設された「野七里テラス」。住民の交流の場となっている

関係人口、交流人口

 われわれは長野県東御(とうみ)市で関係人口創出という総務省のモデル事業にも参画しています。人手不足のブドウ畑に上郷ネオポリスの高齢者が一定期間手伝いにいくという試みです。現地で「野七里テラス開設の記念ワイン」としてつくってもらい、コンビニで販売したところ、150本くらい売れました。

 われわれは全国28カ所にリゾート施設であるロイヤルホテルをもっているので、そこをうまく使いながら、まちづくりとリンクさせることも考えています。たとえば「ロイヤルホテルみなみ北海道鹿部」が建つ函館に近い鹿部町という漁村ではホタテ貝の養殖が盛んです。貝に穴を開けて数珠つなぎにして海に放流する作業があり、地元の高齢者の女性が担っているのですが、人が足りない。そこでホテル近くに当社が建てた別荘に普段から住んでいる高齢者の方々が4〜5月だけお手伝いをしているというのです。このように元気なうちは全国のロイヤルホテルを移りながら、地域の仕事のお手伝いをしてもらう。それが生きがいにつながるかもしれません。きつい作業もあるので、ゴルフなどのレジャーと組み合わせればいい。そうすることで関係人口、交流人口の拡大にも寄与できるでしょう。

高齢者のイメージを変えよう

 「チューリップ」の財津和夫さんに当社のイベントにゲストとして来ていただいたことがあります。70歳を超えられても現役でコンサートをされています。イベントでは私とのトークセッションをさせていただきましたが、せっかくだからと『心の旅』と『サボテンの花』を披露してくださいました。その時、財津さんが「ぼくはこういうお役にも立てるんだ」と言われました。歌うだけでなく、自分のこれまでの歩みを話すことで元気になってもらえると。いまではトークショーと歌のセットのイベントを開いているそうです。

 これまでの高齢者のイメージを捨てる。高齢者を十把一絡にして、上から目線で何かをやってあげますよというのはだめ。多くの高齢者は自分の能力を持ち余している。それを発揮もらう。そのためのサポートを私たちはさせていただきます、というスタンスです。

 上郷ネオポリスが進めているまちづくりを、同じ時期にできた近隣のニュータウンの皆さんが見学に来られたりします。「うちもそうなってほしい」とうらやましがられると伺っていますが、ならば上郷ネオポリスで行っているサービスを提供させていただけないか。コンビニや介護事業、移動販売など、商圏を拡大することでさらに大きなビジネスが成り立つかもしれません。

コンビニの移動販売には、多くの「買い物難民」が訪れて好評だ

 立派なハードだけでまちの魅力は生まれません。住民の皆さんに、人生100年時代の道標を示すことで、大和ハウスタウンに住んでいれば、北海道へ行けるし、長野にも住める。そういう選択肢が必要です。当社として利益を上げるのは当然ですが、環境に対する配慮、高齢者の活躍の機会の提供、子育て環境の充実など、SDGsの取り組みをしていきながら、事業を進めていかないと評価していただけない時代です。

 まちづくりは企業だけでも、行政だけでも、住民だけでも進みません。三方痛み分けをしながら始め、三方よしになったときに利益を分け合うというようなプロセスを歩むのではないでしょうか。まちづくりとは社会的課題の解決であり、企業にとっては見えない価値でもあるのです。