(にしな りき)1967年東京都生まれ。1993年に株式会社市浦ハウジング&プランニングに入社、大阪支店に配属。阪神・淡路大震災や東日本大震災の復興計画・事業を経験。「生涯活躍のまち」構想の具体化に向けたマニュアルの策定調査業務を担当し、以来、PFI(Private Finance Initiative)方式による公的賃貸住宅の整備や空き家活用を通じた移住・定住促進に取り組み中。

はじめに
株式会社市浦ハウジング&プランニングは、1952年に市浦建築設計事務所として設立されました。創始者は建築家・市浦健。戦後のベビーブームと住宅不足から、「庶民が普通に暮らせる質の高い住宅をつくる」ことを目的にスタートした同社は、今日に至るまで国や市町村の住宅政策に深く関わっています。現在、地方創生、とりわけ新たなスタートを切る「生涯活躍のまちづくり」に果たすべき同社の役割は何かについて、住宅事業推進室室長で都市計画の専門家である仁科力さんに戦後の住宅の歴史を振り返りながら語っていただきました。

戦後の住宅難に対する取り組み

 住宅は、住宅だけを良くすればよいというものではありません。住まいに適した立地、たとえば、医療、福祉、教育、自然環境、コミュニティなど、住宅を取り囲む環境とセットで考えないと意味がないのです。つまり、都市計画と住宅政策を一元的に考えることが大事なのです。そのような考えから、弊社は
戦後の住宅難に対しては、都市計画と住宅政策の一元的適用としてニュータウンの整備に取り組んできました。1950~1970年代始め頃ですね。また、同時に安くて質の良い住宅を供給するため、住宅の標準設計や工法の技術開発にも取り組んできました。
 しかるべき立地に、しかるべき建物としかるべき街並みをつくる。これはヨーロッパでは当たり前に行われてきたことです。ヨーロッパには、マンションデベロッパーや住宅メーカーはほとんどありませんが、ヨーロッパの街並みが美しく、低コストで良質な住宅に住めるのは、都市計画と住宅政策がしっかりしているからです。
 日本では「家は民間企業から買うもの」となっており、そのような持ち家政策の長所も色々あるのですが、所得の低い人は、立地の悪い住宅や低質な住宅にしか住めません。そのため、弊社は公営住宅の整備にも携わってきました。所得の低い人でも住める良質な住宅を政策的に供給し、さらにそれが街並みや地域整備につながることを民間コンサルタントとして支援しています。
 1970年代半ば以降は、住宅供給は量よりも質に転換していきます。さらなる安全性の追求や温室効果ガスの削減などが重視され、耐震や省エネルギーなど国の住宅性能表示制度の確立にも関わってきました。

これからの人口減少社会に対する視点

 戦後の住宅難から一転して、これからは急激な人口減といういわば引波になります。その引波の中でも都市計画と住宅政策によって、どのような貢献ができるか? これは新しい挑戦です。既存の住宅を活用することになるので住宅政策が中心的な役割を果たすと思いますし、様々な需要が減退するので都市計画にはより創造性が求められるでしょう。
 たとえば郊外の団地再生。団地にはいろいろな要素を入れ込んでいかないと活性化しません。団地内の住み替えや中古流通を促進しながら、住棟は同じだけれども学生寮やサービス付き高齢者向け住宅に改修することや、集会所や地域の近隣センターをコワーキングスペースに変身させるなど、様々な検討を行っています。その際、大事なのは「人の活躍」を引き出す視点であり、人口減少社会に対する重要なテーマと考えています。

そもそも住宅政策は効果が出やすい

 住宅政策の領域は広く、それをどう動かすかは自治体の裁量次第です。そこに気づいている自治体はうまくやるし、そうでない自治体は低所得者に対する福祉の話と考えてしまいがちです。
 そしてハウジングの問題とは、要するに供給側の問題です。住まい手の需要は、子どもができたから広い家に住みたい、子どもがいなくなったから家が広すぎる、身体の調子が悪くなったので手すりがほしいなど、人生全般にかかわるのですが、「多少我慢すれば住める」と考えてしまう。すなわち多くの人はあきらめて暮らしているわけです。都市計画と住宅政策を通じて、立地、周辺環境、費用、居住性能、ファイナンスなどの面で、様々な需要に合った住まいを供給することは非常に専門性が高い、難しい問題なのです。
 欧米では、住宅政策は数ある政策のなかでも中心的な位置を占めています。暮らしの満足度に直結するとともに、住宅をコントロールすることで、誰にどこに住んでもらうかをある程度コントロールできるからです。Aさんに対して「あなた、こっちに住みなさい」と言っても移りません。でも、「こっち」にAさんが求める住まいをつくれば移るかもしれない。住宅政策を活用すれば、人種・階層ごとに住むエリアを分けることもできるし、「ごちゃまぜ」の住まい方もできます。いわば諸刃の剣ですね。
 「移住しろ」と言っても人は動きません。地域で人々が都会とは別の価値観で楽しく暮らしており、そこに自分の思い描いていた「住まい」がある、もしくはこれから出来るとなれば、より自分に合った暮らしを求めて人は移住すると思います。

「体験・経験を重視する暮らし」と住まいの選択肢

 地方創生にとって、安くて良質で、医療、福祉、教育、自然環境、コミュニティに取り囲まれた賃貸住宅を整備することは決定的に大事だと考えています。
 右肩上がりで終身雇用の社会では、持ち家政策は、勤め先や建設業・金融業、引いては社会の安定まで、多くの方にとってウィン・ウィンであり支持されてきたと思いますが、3,000万~4,000万円の住宅を35年ローンで購入すれば、人はそこから動けなくなります。
 一方でむかしから「持ち家はもたない」派の人もいました。彼らは人生において体験、経験を重視する人たちで、いざとなったらポーンと転職・移住する、土地に縛られないライフスタイルの持ち主です。地方に安くて質のよい賃貸住宅があり、小さな仕事を掛け持ちで得ることができ、そこそこ暮らせる収入を得られることができれば、このようなライフスタイルはより広がっていくと思います。
 これまで多くの人々は、ローンを組みマイホームを建てて、そこが終の棲家となるという単線の人生しか思い浮かべることができませんでした。ところが今では住宅ストックが余っているし、人生は100年時代、地方では人手が足りない、5G*1はもうすぐなど、このような状況を活用すれば、様々な選択肢が生まれてくると思います。それには住宅政策に地域の様々なステークホルダー(利害関係者)が関与し、住まい手の様々な需要に自由闊達な発想で応えることが重要です。そうなれば、移住のハードルは低くなると思います。また、持ち家だけれどもサブリース*2で賃貸できる、賃貸だけれども持ち家にできるなど、所有と利用の組み合わせにいろいろな選択肢が生まれることも移住の後押しの一因になると考えています。

*1 「第5世代移動通信システム」のこと。IoT(様々なモノがインターネットに接続され、情報交換することによって相互制御する仕組み)を使ったスマート社会の実現に欠かせないインフラといわれている。
*2 不動産賃貸では、主に転貸を前提とした一括借り上げのことを指す。

官民連携で公的賃貸住宅供給+地域内経済循環

 空き家活用がキーなのですが、空き家活用が難しいのは個人の財産に公共の政策をかぶせようとする点と、ビジネスベースに乗りにくいといった点があります。そのため、企業や専門家、NPO、ボランティアの力も入れて、「オール○○」といった体制をつくる必要があります。より空き家が増えてくれば、公的団体が空き家の寄付を受け、改修して公的賃貸住宅として供給するケースも考えられます。
 また、空き家はあるのに貸し物件、売り物件がないという声を聞きます。そして、老朽化が著しい場合や、立地や規模が適当な空き家がないこともあります。そういう場合は、地域優良賃貸住宅(高齢者世帯、障害者世帯、子育て世帯等、各地域における居住の安定に特に配慮が必要な世帯に供する、居住環境の良好な公的賃貸住宅)を建てることが考えられますが、公的賃貸住宅でも空き家リスクはあるので、それを回避するために入居希望者をプール制にすることやコーポラティブ方式を導入するなど、先にお客さんを集める方法がセットとなることが重要だと思います。ここも官民の連携が必要となるでしょう。借上げでも新規建設でも家賃が安い公的賃貸住宅を供給すれば当然、自治体の財政的な持ち出しがでると思います。一方で、そこに住む世帯が地域に落とす可処分所得を考えてみてください。家族世帯であれば毎月10万円くらいは地域で使うでしょう。地域の手伝いやボランティアなどお金に換算できない貢献も大きいです。ただし、住民が車に乗って大型ショッピングセンターへ買い物に行き、地域にお金が廻らないことでは共生は成り立ちません。つまり地域内経済循環が同時に重要となってきます。地域の商店や品々を魅力あるものとする努力や、「一緒につくる」、「ついでにつくる」、「使い廻す」など色々な工夫が必要になると思います。

将来の見通しが効かない時代における住まい

 これから社会はどうなるかわかりません。年金が受け取れるか不安です。住宅ローンを払って土地に縛られることを疑問に感じるようになるかもしれません。購入して1年後には価値が1,000万円も下がるくらいなら、いつでも動ける賃貸に住んでいる方がよい、住宅ローンを払うくらいなら、その分を個人年金に、という時代がくるかもしれません。これからは、一生、賃貸住宅に住んで、いろいろな仕事で稼ぎながら、様々な体験・経験のある暮らしをエンジョイする人が増えていくと思います。そうしたなかで、既存ストックを活用して住宅コストを下げつつ、住まいとして十分満足できる質を確保するにはどうすればよいか。様々な技術やビジネスモデルの開発、各地で実践的な取り組みがトライされていますが、弊社もその一員として取り組み、普通の人が豊かな暮らしと住まいを得られるよう努力していきたいと考えております。