高齢者の地方移住が芳しくない。「増田リポート」※が東京圏で13万人の高齢者の介護難民が生じると警鐘を鳴らしたのがことの始まりだが、「介護難民」のほか、「消滅可能性都市」や「老人漂流社会」など、ネガティブな言葉が独り歩きしている。ところが、松田さん(三菱総合研究所主任研究員)と話していると、いろいろなアイデアが次々と出てきて、楽しくなってくる。そんなワクワク感が生涯活躍のまち=日本版CCRCには欠けていた、というのが松田さんの考えだ。
 ワクワク感には、インタビューで触れられているとおり、たくさんの選択肢が不可欠だろう。そして、それを支えるのは高齢者向け住宅という建物ではなく、地域とのつながりであり、入居者同士の共通の趣味であり、同じ思い出などなどである。
 さらにいえば、そこにずっと住み続けなくてもいい。
 松田さん言うところの「回遊型CCRC」がそれだ。季節ごとに住処を変える。定住しなければならないという縛りを解くと、ライフスタイルに対する想像力が俄然広がってくる。その先にあるのが「逆参勤交代」であり、今号の特集「ワーケーション」だ。
 はたして私たちは毎日満員電車に揺られて通勤しなくてはいけないのか。自然が豊かで緑の濃い、あるいは海辺の近くのコワーキングスペースで一定期間ゆったり働くことで、パフォーマンスは一気に上がるかもしれない。地域の方々と交流することで地元にもプラスをもたらすだろう。近江商人のいうような「三方よし」が可能なのである。
 地方創生は働き方改革と親和性が高いことがおわかりいただけると思う。
※この名称は2014年5月に元総務大臣の増田寛也氏が座長を務める「日本創生会議」から発表されたことに由来し、まちづくりに取り組む自治体関係者に大きな衝撃を与えた。

※この名称は2014年5月に元総務大臣の増田寛也氏が座長を務める「日本創生会議」から発表されたことに由来し、まちづくりに取り組む自治体関係者に大きな衝撃を与えた。


ワーケーションとは

8月6日、東京大手町のコワーキングスペース「3×3Lab」にて「信州・駒ヶ根版ワーケーション〜パネルトーク&交流会」が行われました。登壇者は杉本幸治・駒ケ根市長、松田智生・三菱総合研究所主任研究員、堀田直揮・(公社)青年海外協力協会(JOCA)事務局長。ここでは杉本市長ならびに堀田事務局長の講演内容をご紹介します。松田主任研究員につきましてはインタビュー記事をお読みください。


リニア開通を見据えたまちづくり駒ヶ根市長 杉本 幸治

(すぎもと こうじ) 1949年長野県生まれ。長野県庁に入庁し、長野オリンピックのボランティア担当課長、教育次長を歴任した後、駒ヶ根市長選挙に出馬。駒ヶ根市長3期目。



 雲上の絶景が楽しめる千畳敷カール、美しい紅葉、雪の中での純白の結婚式、美肌の湯——駒ヶ根市には毎年約120万人の観光客が訪れます。また、養命酒の工場のほか、地元産の「マルスウイスキー」や二条大麦でつくった「宝剣岳エール」などが生まれるのは、豊かな自然の賜物といえるでしょう。この駒ヶ根市が8年後の中央リニア新幹線の開設を見据えて進めているまちづくりの中心となるのがワーケーションです。

東京へのアクセスが劇的に変わる

 駒ヶ根市は中央アルプスと南アルプスに囲まれたまちです。166㎢とコンパクトなエリアなので、自動車に乗って20分もあれば、市内どこにでも行けます。産業構造は2次、3次産業が盛んですが、厚生年金を受け取りながら農業に従事している人の数が非常に多い地域。働きながら農業ができるまちといえるでしょう。
 長野県南部に位置する駒ヶ根市から東京までの距離は200km、名古屋までは140km。バスタ新宿から毎日33本の高速バスが運行していますが、長野県にある19市のうち、東京へのアクセスに一番時間のかかるのが駒ヶ根市です。たとえば駒ヶ根市の南に位置する飯田市の方が東京からは遠いのですが、飯田市の場合はまず名古屋に出て東海道新幹線で東京に行けますし、同県北部であれば、長野駅から北陸新幹線が使えます。
 ちなみに私は今日、駒ヶ根市から自動車で茅野駅まで行って、そこから特急あずさで東京まで来ました。約2時間40分です。もう少し速く東京に着くには自動車で佐久平駅まで行って、北陸新幹線を使うという方法もありますが、こうした首都圏へのアクセスの相対的な不利が、8年後にリニア中央新幹線が通れば、駒ヶ根から飯田まで30分、飯田から東京へは約45分で行けるようになる。そのためにいまから駒ヶ根市を魅力あるまちにしたいと思っているのです。

住みよさランキング10位に

 東洋経済新報社が毎年発表している「住みよさランキング」の2019年版(東京都千代田区、港区、中央区を除く、全国812の区市町村)で駒ヶ根市は10位にランクインしました。同ランキングは、「安心度」「利便度」「快適度」「富裕度」の4つの視点から、22の指標を用いて算出しており、安心度に関連することでは、高齢者1,000人当たりの施設の数が駒ヶ根市は1位。また、病床数の多さ、交通事故や犯罪件数の少なさが評価されているのでしょう。ちなみに今年から利便度に人口当たりの飲食店数が指標に入ったおかげでランクアップに貢献しました。駒ヶ根市には飲み屋さんが非常に多いからです(笑)。

人材を生かしたまちづくり

 すでに申し上げたとおり、リニア中央新幹線が飯田を通ることで劇的にロケーションが変わります。ストロー現象で住民が駒ヶ根市から出て行ってしまわないよう、いまからまちづくりに取り組んでいかなければなりません。そのためには駒ヶ根市の財産を生かすことだと思っています。そのひとつが国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊訓練所。同訓練所は当市と福島県二本松市の2カ所にしかなく、これまで当市からは2万人近い協力隊員が世界の途上国へ派遣されました。たとえば同訓練所で世界の様々な言語を学んでもらうということを考えています。 2018年4月に公益社団法人青年海外協力協会(JOCA)の本部が東京半蔵門から駒ヶ根市に移転しました。JOCAは青年海外協力隊の経験者による組織であり、地方創生を進める自分たちが東京にいてどうする、原点回帰すべきではないかと駒ヶ根市に本拠を置き、新しいまちづくりに取り組んでもらっています。
 ちなみに2017年3月には駒ヶ根駅前に株式会社クラウドワークスのテレワークオフィスが開設されました。そこでは現在、200人以上の女性が登録して働いています。子育てしながら働く女性もいます。
 人口減少社会に対応するために、私たちは新しい関係人口をつくりたい。そのために皆さんのアイデアを取り入れたいですし、そのためには民間企業、行政、住民が同じ方向を向いていなくてはならないと思います。

ワーケーションで関係人口増加へ公益社団法人青年海外協力協会(JOCA)事務局長 堀田 直揮

(ほりた なおき)1976年徳島県生まれ。青年海外協力隊員としてジンバブエ共和国に赴任。帰国後、隊員の社会還元活動等を実施するJOCA職員となる。昨年3月より、駒ヶ根市に移住。まち・ひと・しごと創生本部事務局生涯活躍のまちネクストステージ研究会メンバー。

新しい働き方の提唱

 JOCAの本部は一昨年まで東京の半蔵門にありました。国内スタッフ300人のうち東京勤務は約70人、東京のスタッフのなかから40人が駒ヶ根市に移住しました。私も千葉のマンションを売って、駒ヶ根で土地を買ったところで、皆さんを駒ヶ根でお迎えする側として、どのようなプログラムがいいのかを考えています。
 長野県では「信州リゾートテレワーク」を推進しており、首都圏の企業に向けて、リゾートテレワークのメリットや実践事例を紹介していますが、駒ヶ根版ワーケーションがうたう「ワーケーション」とは、Work(しごと)とVacation(休暇)、Education(スキルアップ)、Contribution(社会貢献)を組み合わせた造語です。すなわち自然豊かな地方で、ゆったりした気持ちでリモートワークをする(Work+Vacation)、語学研修など自分の能力のアップもめざす(Work+Education)、地域に資する活動をする(Work+Contribution)、といった新しい働き方の提唱といえます。それは人口を増やすために各都道府県が移住者の取り合いをするのではなく、緩やかな関係で都市と地方の人々との交流を続け、関係人口を増やしていく試みでもあります。杉本市長は「関係人口」について言及されましたが、ワーケーションでずっと駒ヶ根市に関わり続けられるような方が出てきてくれればいいと思います。

地域の課題がワーケーションになるか?!

 JICA青年海外協力隊訓練所で隊員候補は70日間の訓練を受けて世界に飛び立っていきます。訓練のうち一番時間をかけている(約200時間)のは語学の習得。このカリキュラムの一部を提供できないかと考えています。メインは英語、スペイン語、フランス語でしょうが、アルファベット表記が違う言語も学べるほか、SDGs(持続可能な開発目標)やグローバル人材の育成、将来、青年海外協力隊になりたい人のためのセミナー、JICAによる中小企業向け海外進出セミナーも可能でしょう。
 昨年から駒ヶ根市では大使村まつりを開催しています。元青年海外協力隊員は大使館とカジュアルな付き合いをしているので、大使村まつりに参加いただくと、大使や大使館員との交流もできます。そんなEducationの機会を考えています。
 そのほか、地域課題への貢献(Contribution)という視点として、駒ヶ根市が商店街では「駒ヶ根テラス」と名付けて、地元の住民、来訪者を問わず、おもてなししようと活動されていますが、試行錯誤の連続です。皆さんの知恵を借りたり、実際に関わってもらったりすると新しい展開も生まれるのではないかと期待しています。また、買い物でポイントがたまる「つれてってカード」。これは駒ヶ根市、飯島町、中川村の約1万8,000世帯向けに、すでに1万7,000枚を発行されているのですが、同カードのデータは活用されていません。これをビジネスに生かせるのではないか、など、活用しきれていない資源をワーケーションに関わる方々と一緒に磨いていければと思います。

 


“私”が輝くプラチナ社会を目指そう――株式会社三菱総合研究所 プラチナ社会センター 主席研究員 チーフプロデューサー 松田 智生

(まつだ ともお)1966年東京生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。専門は超高齢社会の地域活性化、アクティブシニア論。高知大学客員教授、丸の内プラチナ大学副学長を務める。政府日本版CCRC構想有識者会議委員、内閣府高齢社会フォーラム企画委員、内閣官房地方創生×全世代活躍のまち検討会委員、国土交通省共助の地域づくりのあり方検討会委員、長崎県壱岐市政策顧問、高知県移住推進協議会委員、OECD都市の国際ラウンドテーブルリードスピーカー。著書に『日本版CCRCがわかる本』。

高齢者が明るく生き生きしていた

――松田さんは日本で初めてCCRCをご紹介された方ですが、そのきっかけは何だったのですか。

 2010年に三菱総研の新規事業としてプラチナ社会構想が始まりました。その主な柱は高齢化と環境。後者については、環境先進国はスウェーデンということで担当者が同国へ視察に向かい、高齢化の担当だった私は、その先進国はどこなのだろうと調べていたところ、「Retirement Community」なるものが米国にあり、多様なタイプのなかで最近は「Continuing Care」が担保された“CCRC”が注目されていることを偶然知ったのです。
 さらに調査を進めると、初期のリタイアメントコミュニティでは、ゴルフ三昧していた入居者には知的な刺激が必要とのこと。つまり、脳に刺激がない単調な生活が続くのは良くないといわれたので、最近では大学の近くにコミュニティをつくり、入居者が再び大学に通い、生涯学習で元気になることがわかってきました。
 そこで私は大学型CCRCを展開している事業者に片っ端にメールを送りつけてみました。「アクティブシニアについて情報を集めるなかで貴サイトに行き当たった。ついては理想の高齢化社会について意見交換をさせてほしい」と。ところがほとんどレスポンスがなく、唯一「いいですよ」と返信をくれたのが、ニューハンプシャー州のダートマス大学近くにあるケンダルというコミュニティの担当者だったのです。

――最初の印象はいかがでしたか。

 とても自然豊かな大学街でした。コミュニティはダートマス大学に隣接する集合住宅で、「居住者が資産」「自主性」「生涯学習」「愛郷心」といったキーワードがぽんぽん出てくるんです。日本の老人ホームでは、表情が鬱々としているように見える入居者もいらっしゃるのに、ここでは高齢者が「大学生との触れ合い」や「日曜大工」の楽しさなどを生き生きと語ってくれる。健康な方から認知症の方まで尊厳をもって暮らせるという“明るい衝撃”を受けました。帰国後、プラチナ社会研究会で報告したところ、とても大きな反響がありました。

――それから日本で「CCRC」の紹介を始められたわけですね。

 講演をし、原稿を書いて、興味のある人たちを巻き込んでいく。この繰り返しです。2011年には高知県庁や土佐経済同友会の方々らと米国西海岸の大学連携型CCRCを視察しました。また毎年のように国内の企業と一緒にCCRC視察をしました。そうこうしているなかで、厚生労働省、国土交通省の方や大学の先生を交えて、プラチナコミュニティ研究会を立ち上げました。

ケンダルの大学連携型CCRC

「ではの守(かみ)」ではだめ

――佛子園や愛知たいようの杜、コミュニティネットがCCRCのモデルとして注目され始めたのと同じころですか。

 社会福祉法人佛子園の「Share金沢」、株式会社コミュニティネットの「ゆいま〜る那須」などを見学しました。そこで思ったのが「アメリカでは〇〇だ」という「ではの守(かみ)」ではだめだということです。「海外では〇〇」とか「東京では〇〇」という物言いは地域では共感されない。「アメリカでは〇〇だけれども、日本では社会特性や国民性を生かして〇〇しよう」と言わなくては、と考えるようになったのです。
 2011年頃に厚生労働省の山崎史郎・社会・擁護局長(当時)の主導で、シニアのコミュニティに関する研究会が立ち上がり、日本もCCRCをやるんだとして2015年に創設されたのが内閣官房まち・ひと・しごと創生本部です。山崎さんが同本部総括官に就任されました。

――その研究会で日本では、米国のゲーテッド・コミュニティ(セキュリティ向上のため出入口にゲートを備え、フェンスや壁で囲うことで人や車の出入りをコントロールした住宅地)のような富裕層向けだけではない、多世代がいいんだという議論があったのですか。

 そうです。ただし、私は、クラスも松竹梅があればいいと思っているんです。年金以内で暮らせるCCRCだけでなく、「将来はそこに住むのが夢」と思えるようなワクワク感が必要です。それには費用だけでなく、共通の趣味や価値観、体育会系や文科系、都市型や近郊型、里山型など多様な選択肢が求められます。人のライフスタイルも多様ですから。

――松田さんが考えるワクワク感ってどんなものですか。

 米国のCCRCでインタビューした入居者は「ここに住むのが夢だった」という。日本の高齢者向け住宅では、コミュニティネットの「ゆいま〜る」シリーズに入居したかったという方がおられますが、ほんのわずかでしょ? ならば、高齢者自身が「ここに住みたい!」と思えるような高齢者向け住宅を考えたらいいんですよ。
 たとえば大学連携で余生を母校の近くで暮らすというライフスタイルがあっていい。慶応大学の卒業生であれば三田や日吉の近く、早稲田大学の卒業生であれば高田馬場界隈に住むとか。地方の名門高校の近くも「余生は母校の近くで」という高齢者のニーズがありそうです。
 一方、スイスのサッカークラブのバーゼルには、スタジアムの隣に老人ホームがあるそうです。日本でもJリーグ連携型CCRCを考えたらいいですよ。美術館、博物館、酒蔵の隣、あるいは温泉街や歓楽街のなかでもいい。札幌で「すすきのビレッジ」という構想で盛り上がったこともあります。

――そうしたアイデアに加えて「回遊型CCRC」ということもおっしゃっていますね。

 元気な高齢者も全国のいろいろなCCRCに住めるようにすればいい。たとえば夏は涼しい信州、冬は暖かい沖縄に住むというものです。それはリタイアしてからでなく、現役時代から回遊型就労でよいと思うのです。そうすれば現役時代から第二のふるさとができる。
 今は5Gなど情報通信も進んでいますし、企業は働き方改革や兼業・副業を進めています。私は東京生まれ東京育ちのせいか、地方にあこがれるところがあるのですが、いますぐに転職してたとえば北海道に移住するのは不可能です。でも、2週間なら北海道でリモートワークは可能です。そういう人が多ければ回遊型就労もできるんじゃないか。それをぼくは「逆参勤交代」と呼んでいます。
 参勤交代は江戸幕府が地方大名の力を抑制するために、数年に一度、江戸への参勤を命じたものです。全国の大名にとっては大きな負担となりましたが、そのおかげで街道が整備され、宿場町が栄え、江戸では大名の妻子や藩の役人が暮らす藩邸がつくられた。そうした流れを今度は東京から地方に向けてつくるのです。それは江戸時代の辛い参勤交代ではなく、個人も企業も地方も三方一両得の「明るい逆参勤交代」です。

いまは助走期間

――話を伺っていると、確かにワクワクしてきますが、これまでのCCRCの成功モデルは限られています。

 成長曲線を思い描いてみてください。成長っていきなり離陸するのではなく、助走がありますよね。いまはその期間だと思っています。その間に何をすべきか。ワクワク感のあるこういう暮らしがいいんだというストーリー性のあるものを見せる。加えて、官民連携や制度設計を固めるべきです。たとえば頑張っている事業者に、入居者の介護度が下がったら固定資産税や法人税を減税するといったインセンティブを与える優遇措置などです。
 なかなか離陸しない理由には、市民、企業、行政のそれぞれに問題があると思います。市民にワクワク感のあるストーリー性が見えていないことはすでに述べましたが、企業には健康なまちづくりといった地域の課題解決がビジネスになることを理解してもらわなくてはいけません。それだけでは足りないので、たとえば、市街化調整区域に入っているエリアや農地、公園などにもCCRCをつくれるような規制緩和を行う、共用部にもっと補助金を出す。そうすれば企業は第一歩を踏み出しやすくなるでしょう。市民と企業と行政のそれぞれが力を出さないと離陸できません。

――国の方向性がこれまでのCCRCとは違ってきていると感じている事業者は多いと思います。

 私はこれから「CCRCの逆襲」が始まると思っています。CCRCの基本理念は、カラダの安心、オカネの安心、ココロの安心です。裏返すと、今は、カラダの不安、オカネの不安、ココロの不安を高齢者がもっているわけであり、この3つの不安を安心に変えるコミュニティをつくることに誰も反対しませんよね。「住めば住むほど健康になるまちを目指す」なのですから、地方に「姥捨て山」を作るのではありません。
 CCRCは主語が大切だと思うのです。つまり「東京の介護が」とか「地方の人口減少が」ではなく、「私が輝くセカンドライフ」ですよ。つまりCCRCは、高齢者の地方移住ありきでなく、高齢者の生活の質(QOL:Quality of life)を高めるものであり、それが上記の3つの安心やワクワク感、そして私が輝くライフスタイルになるのです。そうした輝く社会は、シルバー社会のように錆びることなく、上質に輝く「プラチナ社会」なのです。
 生涯活躍のまちの重点は、かつては「シニアの住まい方」、これからは「全世代の住まい方、働き方、生き方」。地方移住はまだまだスモールボリュームです。というのも、地方に住み、働こうという人はいまのところ、地域おこし協力隊、意識の高いITベンチャー企業などに限られています。
 東京圏と近畿圏の大企業で働いているビジネスマンは約1,000万人です。その1割の100万人が動けば、マスボリュームになるでしょう。丸の内、大手町の就労人口は、約28万人です。その約10%の3万人、いや1%の3,000人が動くだけで日本は変わります。たとえば0.1%の300人が北海道の上士幌町に来て、リモートオフィスで働き、現地で消費するだけでもインパクトは大きいでしょう。私なら週4日は三菱総研の仕事をして、週1日は地域のために働く。それができれば、まちにも貢献できるのではないでしょうか。

――逆参勤交代はどんな種類があるのでしょうか。

 表のように5パターンに類型化しています。それぞれ目的や参加年代が違っていて、①では、奄美地方の徳之島でジャパンコーヒープロジェクトが進展中です。大手食品メーカーと大手総合商社が支援をしています。また⑤については、たとえば銀行の社員は50代前半で子会社に出向し、給与も半分くらいになり、やりがいのあまりない業務をさせられるケースが少なくありません。それで鬱々しながら65歳まで働き続けるよりも、自分のキャリアや人脈を活かして地方で働いた方が輝けるもしれない。でも、いきなり転職は不安なので、逆参勤交代が助走期間になります。地方の企業や自治体にとっても、持ち出しなしに首都圏の大企業の人材を活用して、地域も課題解決に取り組めます。何よりも担い手が増える、観光以上移住未満の関係人口が増えるのがいい。

逆参勤交代はトップの決断次第

――それを誰が主導して実現するか、が課題ではないでしょうか。

 こういう提案をすると部長クラスくらいまでは「面白いね、やろう」と言ってくれるのですが、担当役員レベルになると、「労災はどうする」「副業に関する規定がない」「真面目な人ほど、働き過ぎが起こるのではないか」あるいは「さぼる人が出てくるのではないか」など、できない理由をたくさん聞かされます。やはり経営者の腹の括り方とリーダーシップでしょう。弊社の理事長である小宮山宏は「『こういうことをすれば、SDGs(持続可能な開発目標)などで評価され、企業価値や株価が上がります。逆に、しないと下がりますよ』と企業を説得すべきだ」と言っています。
 自治体にとってはウェルカムでしょう。日本全体の人口が減るなかで移住者のパイの奪い合いをするのは不毛。私は回遊型就労である「逆参勤交代」が首相の施政方針演説に織り込まれるまで言い続けようと思っています。

――ライフワークですね。

 人生を賭ける価値のあるテーマだと思っています。シンクタンクの本来の使命は政策実現ですが、実際には官庁の受託業務が中心というのが現状です。国や自治体が決めたことを粛々と業務をこなすところで、シンクタンク独自の切り口は求められません。そうではなく、中央官庁や自治体が「話を聞かせてください」と言ってくるような提言をする。それが本来の役割であって、いまのシンクタンクには原点回帰で「本来やるべきことをやりましょう」と言いたいですね。
 その意味で日本版CCRCも逆参勤交代も、シンクタンクらしい研究分野であり、人生を賭けるべき仕事と思っています。

(聞き手 芳地隆之)

松田氏(左)、芳地隆之(右)
日本版CCRCがわかる本: ピンチをチャンスに変える生涯活躍のまち
(松田智生 著/法研)