今回は、「生涯活躍のまち」のバージョンアップなどを目指し、見直し方針を検討した「地方創生×全世代活躍まちづくり検討会」中間報告についてご紹介します。同検討会の内容は、その後、「基本方針2019」にそのポイントが盛り込まれ、閣議決定されました。すなわち、今年末に決定される予定の次期5カ年の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」は、その内容をベースとし、ニューバージョンの全世代・全員活躍型の「生涯活躍のまち」が位置づけられる方向で検討がなされるのです。

(1)「地方創生×全世代活躍まちづくり検討会」の基本的な考え方

 この検討会では、これまで全国での「生涯活躍のまち」の取組なども総括しつつ、「誰もが居場所と役割を持ち、つながるコミュニティづくり」を目指すことをテーマに議論を行いました。

【検討会メンバー】
座長:五十嵐智嘉子(一社)北海道総合研究調査会理事長
池本洋一(株)リクルート住まいカンパニー・SUUMO編集長
大須賀豊博(福)愛知たいようの杜(ゴジカラ村)理事長
大原裕介(福)ゆうゆう理事長
雄谷良成(福)佛子園理事長
座長代理:松田智生(株)三菱総合研究所プラチナ社会センター主席研究員・チーフプロデューサー

 今後、目指す姿として、「あらゆる世代の誰もが、移住・定住、関係人口を問わず、『居場所』と『役割』をもって『つながり』、生涯を通じて健康でアクティブに活躍することができるコミュニティづくり」、万一、「医療や介護が必要となった場合でも、人生の最終段階まで尊厳ある生活を送ることができるコミュニティ」という考え方が提示されました。
 また、こうしたコミュニティづくりを進めるにあたって、

●エリア全体の魅力を向上させる(点から面へ)
●あらゆる人と人がまじわる「ごちゃまぜ」のしかけづくり
●官民連携の徹底や脱縦割り、脱自己完結
●住民参画型のコミュニティづくり
●ICTなどの技術の活用や空間デザインの重視
●大都市圏、地方都市、中山間地といった地域特性に応じた検討

 といった「推進に当たっての視点」も示されています。
 こうした基本的な方針を踏まえ、①「交流・居場所」「活躍・しごと」「住まい」「健康」といった機能を確保するなど、「居場所と役割のあるコミュニティづくり」を進めること、②採算性の乏しいコミュニティづくりに関する事業について、安定的な事業継続が可能となる事業経営基盤を確立すること、③コミュニティを維持・発展させるという観点から、「人材の循環・移動」を促進し、域外からコミュニティへの人の流れづくりを進めること、の3つの検討課題について方向性が示されました。以下、これらの課題について、その概略に触れたいと思います。

(2)居場所と役割のあるコミュニティづくり

 これまでの「生涯活躍のまち」においても、いわゆる「ごちゃまぜ」の概念のもと、居場所と役割をもつコミュニティは重視されてきましたが、国の総合戦略上、「生涯活躍のまち」は中高年齢者を中心とした「移住施策」として位置づけられてきたこともあり、その重要性について、やや誤解されてきた面もありました。
 そこで、「居場所と役割をもつコミュニティづくり」について、改めてその重要性を強調するとともに、そこに求められる構成要素と機能について、「交流・居場所」、「活躍・しごと」、「住まい」、「健康」などが重要、と明記されました。

❶交流・居場所について

 役割をもって活躍することは、あらゆる世代にとって生きがい・やりがいの支援につながり、結果として「就労」につながる可能性も高めるものです。年齢や性別、障害の有無を問わず、誰もが交流できる地域共生型による「多世代交流の場」づくりは極めて重要、と強調されており、「文化・運動、食事、しごとなども含め、生活全般を通じた多世代交流の場づくりを推進し、住民や域外からの移住者・交流者の誰もが、いわば『ごちゃまぜ』となり、役割をもって活躍する場づくりについて、地域のニーズに合致させた形で普及促進を図る」こととされています。
 「ごちゃまぜ」による多世代交流の場において、「顔の見える関係」でつながることにより、自然な形で孤立等の地域課題の把握が可能となる、地域の情報の発信・共有などを図ることができる効果も期待できる、とされています。
 こうした機能は、今後の「生涯活躍のまち」のいわば「肝」となるものですが、検討会において、愛知県長久手市のゴジカラ村や石川県輪島市の輪島KABULET、北海道当別町における生涯活躍のまちの実例などが報告されたところです。

❷活躍・しごと―「新しい就労支援モデルの確立と普及」

 誰もが活躍するコミュニティにふさわしい、いわば活躍推進型の就労支援モデルを確立し、普及させることの必要性が提言されました。地域の女性や高齢者、障害者等を含め、誰もがその能力を生かして、コミュニティのなかで活躍できる新しい働き方を推進する、という観点で、たとえば、子育て中の母親の「ちょっと働きたい」と地域の「ちょっと手伝ってほしい」のニーズをつなぐ事業などの先進事例では、業務の切り出しと委託などの適切なマネジメントによって、短時間労働が可能となり、多様な働き方を実現していることについて、岡山県奈義町の「しごとコンビニ」の事例をヒアリング。こうした取組を参考に、

●人の能力を起点とし、その能力を活かして仕事につなげる
●さまざまな制約をもつ者も活躍できる支援付きのワークシェア型就業

といった観点を踏まえた検討を行うこととされています。
 こうした取組を推進するにあたって、とくに地方都市では、サテライトオフィスやコワーキングスペースなどの地域就労拠点において、付加価値の高い仕事を安定的に確保することは容易ではありません。そこで、都市部の企業業務の「切り出し」を行い、ICT技術を活用するなどして、全国規模の広域でシェアできる基盤が重要になってくるわけですが、この点、「総合戦略2018」に位置づけた「女性・高齢者新規就業支援事業」で、各都道府県が設置する官民連携プラットフォーム(すでに20府県で設置)の活躍と今後の広がりが期待されます。

❸健康モデルの確立

 検討会では、「健康」という機能も重視されています。「生涯活躍」の大前提として、地域のなかで、いつまでも「健康」で活躍できることが必要となるからです。具体的には、運動や食事の支援など健康づくりに向けた「健康ポイント」などの取組はもとより、就労やコミュニティへの参加など、いわば「つながり」をもつこと自体の推進の必要性が求められています。
 最近は、コミュニティへのつながりをもつこと自体、健康維持に効果があるという研究などもあり、こうした研究成果の収集など「エビデンスの把握」を行う必要性や健康支援に関する事業について、ポイント制度やソーシャルインパクトボンド(*)などの仕組とリンクさせるなど、コミュニティビジネスという視点で普及させる必要性などが議論されました。この続きは、また次回にご報告いたします。

*官民連携の一つで、行政や民間事業者および資金提供者などが連携して社会問題の解決を目指す取組のこと。


(なかの・たかひろ)大阪府出身。1995年に厚生省(当時)入省。社会・援護局を振り出しに、官房総務課、老健局、医政局などを経て、2007年から2011年まで、北海道に出向。道庁では、障害者支援制度の枠組みを超えた地域支援を目指す共生型事業推進プロジェクトなど地域福祉関係の事業を担当。民間企業(損保会社)への出向の後、年金局を経て、2018年7月より現職。