陶山清孝さん…1956年1月7日生まれ64歳 東海大学工学部卒、土木技師として旧西伯町に入庁。総務課長、病院事務部長、南部町副町長を経て、2016年10月から現職。

南部町(なんぶちょう)…面積:114k㎡/人口:10,643人/世帯数:3,899世帯(2020年7月31日現在)鳥取県西部に位置し、2004年10月1日に西伯町と会見町が合併して誕生。まち全体が環境省の”生物多様性保全上で重要な里地里山”に選定されている。「大国主命の再生・復活神話」も有名で、自然・歴史・文化が融合した、豊かな里山の暮らしが息づく。町内に鉄道路線はないが、車で米子市から約15分、境港市、島根県松江市からそれぞれ約30分と、比較的アクセスにも恵まれる。

鳥取県の南部町は生涯活躍のまちの先進自治体としてここまで歩んできました。人口1万人強の小さな町が全国のモデルになったのは、地元だけでなく近隣の人々も巻き込んだ住民主体のまちづくりを進めてきたからであることが、陶山町長のお話からわかります。地方創生が新たなステージに入った現在、南部町がどのような課題をもって、その解決に努めていくのか。全国の市町村が注目しています。

――第1期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の5年間を振り返えられて、南部町はどのような成果があったとお考えですか。

 あっという間に第1期が終わった感じです。当初、私たちは「なんぶ創生100人委員会」を立ち上げ、南部町の住民だけでなく、近隣の方々にも参加いただきました。そのメンバーが中心になって、まちづくり会社であり、後の地域再生推進法人となるNPO法人「なんぶ里山デザイン機構」を立ち上げるなど、いままでオフィシャルな場でまちづくりに関わってこなかったような方々――住民、近隣の方、移住者含め――が「プレーヤー」になりました。

――近隣の方も「なんぶ創生100人委員会」に加わるというのは画期的ですね。

 福祉の仕事をされている方、ケーブルテレビの会社の方などにも加わっていただきました。そうした方々の意見も聞けたことで、南部町のなかだけでなく、もう少し広い視野で物事が考えられるようになったのだと思います。
 「なんぶ里山デザイン機構」が主催する「デザイン大学里山暮らす講座」も外の人からの意見で始まりました。様々な講師が――たとえば「ヨーロッパからしか入らないと思っていたキノコが南部町にある」とか――南部町だけでなく米子市、境港市、出雲市など近隣に住む方々の興味をひく話をしてもらっています。聞く方はそれに驚いたり、感心したり。「あの人って、こんなことが得意だったのか」ということがわかり、講師の方も活躍の場が生まれて、よかったのではないかと思います。
 このように町内外の方々がまちづくりの「プレーヤー」になってもらうことで、この5年間、人の動きがまちづくりと連動してきたように感じています。また、町内には住民の拠点となる施設が4カ所できており、それらをサテライトとして有機的につなげる、全体のハブとなる複合施設を現在建設中です。それによって人の流れをより盛んにして、まち全体の活性化を図っていきたいと思います。

――南部町には7つの地域振興協会があり、みなさんが積極的に地域に関わっています。そうした土壌もまちづくりの「プレーヤー」を増やしている理由でしょうか。

 人口12,000人の町を7つの地区に分けたことには当初、批判もありましたが、小さなフィールドに分けることで、お互いの顔がよく見えるようになりました。それによって近所の人に自分の特技を披露して、「おまえ、すごいな」と言ってもらう機会が増えるなど、自分らしさが出せるようになったことが振興協議会の強みになったのではないでしょうか。
 ほとんどの方が自分の住む地域をよくしていきたいと思っています。そうした人たちの出番をつくっていくことが大事。地域振興協議会はそのいいプラットホームになっていると思います。

――移住者向けの空き家情報が集まるのも、地域に根差したきめ細かい活動があってこそですね。

 空き家を管理している「なんぶ里山デザイン機構」によると、コロナ禍の影響で、移住希望者が増えているようですが、スタート当初は空き家を提供しようという方はなかなか現れませんでした。それが年々、「空き家を何とかしたい」というニーズと、「空き家に住みたい」というニーズが増えてきて、現在も21世帯くらいが待ちの状態にあります。
 マッチングの成立は簡単ではありません。たとえば田舎の家は大きすぎるという問題があります。また、空き家の改修にはお金がかかります。町が補助するといっても、個人の所有物が対象なので難しさがある。ですから、今後の課題としてDIYで個人が自由に改修する方法や、企業に大きな空き家をシェアハウス、サテライトオフィス、ワーケーションスペースなどとして活用してもらう、といったやり方も考えられるでしょう。一歩進んだ施設改修の方策にも力を入れていかないといけません。

――移住者にとっては住まいと並んで仕事が重要ですが、町長は「南部町民が携わっていないような仕事をする移住者もいらっしゃる」とのこと。また、地域振興協会は、たとえば、英会話の講師や鍼灸師など、「こんな方に来てほしい」という住民の声を集約して、役場に上げているとも聞いています。その背景には担い手不足という事情もあるのでしょうが、「こういう人に来てほしい」という住民側と、「私はこんな仕事をしたい」という移住者とのマッチングを実現するには何が必要でしょうか。

 担い手不足という問題を解決するため、外からやって来た人に「この仕事をやってみないか」というところまで持っていくのは難しい。(福祉で事業承継をしている)JOCA(公益社団法人青年海外協力協会)のような信頼できる組織が後ろについていることが必要でしょう。現在は外からきた人が新たな仕事を持ってきてくれているというのが現状です。

――いわゆる求人広告には載らない、地域に根差した仕事はいろいろあるとよく聞きます。

 地域の困りごとの解決が仕事だとすれば、たくさんあります。たとえば、猪や鹿などの害獣を撃ってくれる猟師は少ないですし、高齢者の買い物もいままでは地域のなかの助け合いでフォローしてきましたが、これから高齢者がさらに増えていくと、従来通りには続けられません。こうしたところをサービスとして提供する。ウーバーイーツは食の宅配ですが、たとえば、庭の掃除を頼みたいといったニーズを吸い上げて、人を派遣する仕組みをつくれれば、多様な仕事の掘り起こしができるのではないでしょうか。

――コロナ禍で空き家を借りたいという移住希望者が増えているとのことですが、一方で現在は地方が東京からの人の流れを敬遠する、人が集うことを避けるなど、地方創生にとって逆風の状況が続いています。町民の交流にもいろいろ難しさが生じていませんか。

 南部町では地域の集会所に高齢者が集まって、そこで「100歳体操」をしてもらっています。体操は大切なのですが、体操をやるために外に出ていただくことも目的であり、そこでお友だちと一緒にお茶を飲んで世間話などして過ごしてもらっています。これが大変喜ばれ、町内92集落のうち、約半分でやっていたのですが、新型コロナウイルスの感染防止のため、「人が集まってはいけない」となってしまいました。いまは代わりにケーブルテレビで放映し、自宅で「100歳体操」をやってもらっているのですが、これまで参加しなかった高齢の男性のなかで、「テレビであれば参加する」という方が増えているそうです。
 「デザイン大学里山暮らす講座」でもオンライン講座を10月くらいから開始します。南部町の里山暮らしをオンラインで世界に発信していくワクワクするような講義になりそうです。

――オンラインによってむしろ交流が広がる可能性もあるわけですね。第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に向けての課題は何でしょうか。

 現在、南部町に支所を開設しているJOCAをはじめ、各団体のみなさんによるワーキンググループを立ち上げて、課題を話し合ってもらっています。
 ひとつは歯止めのきかない人口減少です。地域の活性化と一言でいっても、首都圏との関係人口の構築をどうするかなどについては、具体的に話を詰めていかなければなりません。また、環境省から「生物多様性保全上重要な里地里山(略称「重要里地里山」)」のひとつに選定されている南部町が、次の世代に自然環境や人と人との繋がりをいかに残していくかも課題となります。それらの解決のためには「Society 5.0」*に代表される新たな情報基盤が必要でしょう。人口減少のなかで情報政策と私たちの生活を融合させることで、私たちのまちと暮らし方を構築していきたいと思っています。

(注)*狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)といった人類がこれまで歩んできた社会に次ぐ第5の新たな社会を、デジタル革新、イノベーションを最大限活用して実現するという意味で「Society 5.0」と名付けられた。

――南部町で住民が主体となって取り組んでいるさまざまな活動をさらに推進するため、国に対しては、どのようなサポートを望まれますか。

 先般、三菱総合研究所の主任主席研究員の松田智生さんが米子境港政経クラブの定例会において、「ポスト・コロナ時代の働き方」と題する講演を行いました。松田さんは「地方創生の鍵はリモートワーカーを呼び込むこと」とし、都市部の会社員が地方で一定期間働く「逆参勤交代」を提唱しています。大都市圏の企業がそうした動きを進めやすいように国の力強い意思表示が必要だと考えます。
 「東京一極集中はダメなのだ」という国の強い意志が働かないと、企業は地方に人材を送り込みません。本来の地方創生は、東京一極集中を是正しながら、いかにわが国が将来のあるべき姿に向かっていくのか、にある。そのためには国にとっても、地方にとっても、企業にとってもいい、「ウィン・ウィン・ウィン」の関係をどのようにつくっていくかという視点が必要なのではないでしょうか。

(聞き手 芳地隆之)