第1期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の最終年を迎え、これまでの5年間を振り返ると、多くの自治体や事業者が模索をしながら事業を進める姿が見えてくる。各地で見られる成功事例は、「生涯活躍のまち」という新しい概念を立ち上げ、トライ&エラーを繰り返してきたことの賜物だが、その過程を見せることはなかなか難しい。
 そこで本特集では学問の領域にとどまらず、まちづくりの実践にも取り組まれている東京大学高齢社会総合研究機構の後藤純・特任講師に登場いただいた。後藤先生によれば、今後、生涯活躍のまちづくりを進めるに当たって重要なのはお金と人材。要は、生涯活躍のまちの事業を行うのに人材をどのくらい投入し、そのためのお金はいくらかかるか。きわめてシンプルである。

 また、行政と事業者が連携して取り組んでいる例として、高知市の森田加奈子・移住・定住促進室長、高知サマサマCCRCセンターの井倉俊一郎理事より各々の活動をご紹介いただいた。森田室長は高知市ならびに高知県に人を呼び込むための具体的な補助金制度、井倉理事はこんな人に移住してもらうためにはこんな政策を、という具体的な提案にも言及してくださっている。

 人とお金をどのように組み合わせて事業を進めていくのか。あなたのまちを想起しながらお読みいただきたい。

ごとう・じゅん 1979年群馬県生まれ。2006年東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程(都市計画研究室)。2010年より高齢社会総合研究機構特任研究員。同特任助教を経て、2015年より現職。専門は比較都市計画学、コミュニティ・デザイン学、ジェロントロジー(総合老年学)。現在、超高齢社会を見据えた分野横断型共同研究に取り組む。日本都市計画学会論文奨励賞(2010年)、グッドデザイン賞復興デザイン賞(2012年)。

全世代・生涯活躍のまちが拓く新たな時代

 生涯活躍のまちは、現代的なよい政策だと思います。私は群馬県片品村という人口4,000人くらいの村の出身です。地方のまちに確実にたくさんいる高齢者に着目し、生涯を通じて活躍でき、安心して暮らせるまちをつくり出すことで、新たな需要を生み出していくのは地方に優しい政策です。
 社会保障経済という考え方があります。60歳以上の方の平均預貯金額は約2,300万円あります。身体的・認知的に虚弱化してくれば、それを支えるサービスや技術の需要も高まります。高齢者が増えれば、当然介護需要が増え、行政の負担は大きくなりますが、これも考えようによっては若い人の給料になるのです。地方に確実にあるニーズ(需要)に着目し、国に積極的な財政支援をしてもらい、それを地元の民間企業がイノベーションを起こしながら獲得していく。それが次世代の人材育成になる、というのが地方創生のあるべき構図だと思います。
 生涯活躍のまちというと、高齢者の地方移住とサービス付き高齢者向け住宅という印象が強くあるようです。高齢者中心の施策から全世代へと対象をシフトするにあたり、新しい時代の社会保障との関係を明確にしていくとよいと思います。
 引き続き、国民皆保険(医療・介護・年金)制度と地域包括ケア体制は大切です。米国CCRCは、この部分が弱いので、自分の人生を信託するという性格が強いわけです。次に、住まいが重要になると思います。人生70年時代であれば、住まいは1回だけの大きな買い物で完結したでしょう。では人生100年時代はどうでしょうか。なぜ家を買うのかといえば、100歳まで家賃を払いたくない、払えなくなるかもしれないと不安だからですよね。若い世代に地方に移住してもらいたくとも、平均的な暮らしのなかで35年ローンを組んでしまえば、移住はできません。低廉で質のよい民間賃貸を増やすなどして、住まいの流動性を高めないと、人材の流動性は起きにくいですよね。
 人生100年時代、これからどんな社会になるのか、誰にも分りません。そんな時代に、自己決定・自己責任という帰責原理型の社会は生きづらいと思います。昔なら「社会保障の含み資産」としての家族が機能していましたが、いまは家族にも頼れません。ですから「老後資金は2,000万円が必要」といわれると、大騒ぎになる。全世代にわたって、安心して生涯にわたり活躍できるまちというのは理想だと思います。世界的にはエイジフレンドリーシティ(*1)という都市政策がありますが、全世代・生涯活躍のまちは、その先を考える政策になるでしょう。

(*1)世界的な高齢化と都市化に対応するため、高齢者にやさしい街があらゆる世代にやさしいまちになるという趣旨により、WHO(世界保健機構)が2007年に提唱したプログラム。

若い世代に残ってもらうために

 たとえばシングルマザーに地方移住を勧めても、「いま地方に移住しても、子どもが大学・専門学校進学で東京に出てしまえば、仕送りが必要になる。ならば生活費は高いけれども、東京圏で住み続けていた方がまし」という返事がくることがあります。しかし今は教育の無償化が進められ、子どもを大学・専門学校に進学させるハードルも下がりつつあります。上述したように、医療・介護保険(年金を含む)、住まいなどが地元の需要を生めば、お金が稼げるようになり、それによって全世代型を目指す。そのようなストーリーが大切だと思います。
 また、全世代・生涯活躍のまちでは、教育に携わる方々にも一端を担っていただきたいです。いま地方で地元の高校を卒業して、そのまま地元に残って就職する生徒は何割いるでしょうか? 高校卒業後に、地元で10年働いてから都会に出ていく形もよいでしょうし、10年単位で都市と地方をいったりきたりする生き方もあるでしょう。生徒たちにとって地元に残りたい、また地元に帰ってきたいと思えるような戦略を、在学中から教育関係者と考えていけるとよいと思います。

システムとスキル

 生涯活躍のまち事業の成功事例について、その実現プロセスを知りたいという声をよく聞きます。つまりシステムとしての成功例です。「Youtubeで温泉の動画を流したら、こんなに外国人の観光客が増えました」といった話ではなく、動画をつくるのにいくらかけて何人の職員を投入したか。たとえば「人口3,000人のまちで、年間2,000万円を3年間単費(自主財源)でつぎ込み、課長1名+係員1名の部署をつくりました」となれば、次に聞きたくなるのは、「議会への説明は?」ですね。そのような事業に住民ニーズがあることと、その有益性についてどのような理屈をつけたのか。政策としての生涯活躍のまちに期待されているのは、そのようなニーズ調査や有益性を評価する部分の支援ではないかと思います。つまるところ、そのための知恵と予算を出してもらえるのか? という話です。
 一方、この間、わかってきたのは、官民あるいは事業者間で連携を進めれば、それほどの手勢はいらないということです。まちづくりには技術(システム)と技能(スキル)の両面があり、誰がやっても同じ成果を生み出せるものが技術だとすると、個人にしか宿らないのが技能。スキルでまちづくりをやると、「その人がいたからできた」となってしまいます。われわれが提供し、積み重ねるべきは技術の方です。
 そこで大切なのは、そういう知恵があって努力している人に白羽の矢を立てて、まず息長く(まさに生涯)活躍してもらえる体制をどうつくるかです。地域のなかで知恵があって努力している人を、それなりのポストに就かせて活動してもらえば、まちづくりの効率性は格段に上がります。

まちづくりはニーズ・オリエンテッド(志向)で

 ところが日本では、すごい成功例が生まれると、そちらに目が行ってしまう傾向が強い。地元の権力者が、「こんな話を聞いて(=シーズを見つけて)きた。なぜうちではやれないのか?」と話を進めてしまいます。まちづくりにおいて、シーズを売りつけて景気を活性化させるやり方は、なかなかマネしにくいですよ。隣町と連携し合わなければならない時代に、隣町と競争してつぶし合うようにも見えます。
 生涯活躍のまちは、個別のニーズを耕し、そこに積極的な財政支援をして、その年に芽が出なくても、その先には回復が待っている——そういう社会を目指していると、アナウンスした方がいいのではないでしょうか。
 たとえば先ほど、住まいが大切だという話をしました。いま首都圏で住んでいる方の中に、自宅を売って得たお金と預貯金を足しても、老人ホームに入れるほど潤沢ではないという方がいます。そういう方に地方移住してもらおうとすれば、少なくともいま住んでいる自宅と同等か、それ以上の住まいでなくてはいけませんね。ところが実態は、いま事業者が提供できるシーズ優先のため、大学生のアパートと同じような広さと機能のサ高住になっていたりする。人生をかけてローンを払った自宅と、せめて等価交換か、もし等価交換にならないなら、どのような代替機能があればよいか、やはりニーズを踏まえて企画することが大切です。

アドバイザーを横から入れてニーズを掘り起こせ

 そのためには、地域で知恵を巡らせ努力している人たち(高校生から主婦、移住者、高齢者)を見つけて、しかるべき地位についてもらうとよいですね。生涯活躍のまち推進アドバイザー(*2)という役割を担っていただいてもよいと思います。たとえば地元の銀行の人に、アドバイザーという肩書で週1回まちづくり会社に勤務をお願いする。農家を継いだ若者に、六次産業化のアイデアを考えてもらう。移住してきた方に、地域ブランディングや昔付き合いのあった会社などへの営業をお願いする。もちろん実際は、「あの人は来てまだ5年しか経っていないから(役職にはつけられない)」とか「あいつは生意気だ」などと、「地元の名士」があげつらうような縦社会があるのも事実です。
 地元のボスから若い世代まですべての声を聴いて調整し、企画に昇華させることのできるスーパー・マネージャーを雇うというイメージを抱きがちですが、そんな立派な人は1,000万円以上の年棒が必要でしょう。むしろ地縁・血縁とは別の文脈で、知恵を絞り努力してくれる方であれば、しかるべき地位を与えて週1回、年収はたとえば100万円で活躍してもらえる制度設計があってもよいのではないでしょうか。
 多様な視点で地域のニーズを丁寧に汲み取り、それを事業化する。そのために生涯活躍のまちが制度的に知恵とお金の手配を支援する。ニーズが明確になったものは国に財政支援の在り方を提言する。このような流れが見える化できれば、多くの自治体が生涯活躍のまちに取り組むことになると思います。

(*2)生涯活躍のまちを事業化するには官民の連携が不可欠であり、様々な分野の専門家に「生涯活躍のまち」の理解を深めてもらう必要があることから、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部がその人材育成のシステムづくりに取り組んでいる。

 


 

もりた・かなこ 1974年、高知県高知市生まれ。1993年4月、高知市役所入庁。市民課、同和対策課、高知市救護施設 誠和園(管理係)、行政管理課、秘書広報課等を経て現職。

●高知市の概要…1889(明治22)年に市制が施行された当初、面積はわずか2.8㎢だったが、平成の大合併では309㎢まで拡大した。人口は現在、約33万人。しかし、将来の推計人口は2060年に20万4,000人にまで減少すると予測されている。世代別の人口構成に目を転じると、2015年は0~14歳が約4万2,000人(全人口の12.8%)、15~64歳が約19万7,000人(同59.5%)、65歳以上が9万2,000人(同27.7%)であり、対2010年比では0~14歳が約2,900人減、15~64歳が1,600人減、65歳以上が1,200人増と、少子高齢化が進んでいる。

生涯活躍のまちは「まちづくり」なのか、「移住」なのか。悩みながらも、昨年9月に「高知市版『生涯活躍のまち』構想・基本計画」を策定し、今年からは4月に事業主体として選定した(一社)高知サマサマCCRCセンターならびにくろしお医療福祉(株)も加わり、本格的な取り組みが始まった。高知市は豊かな自然に囲まれたコンパクトな街並みを形成している。一定の都市機能を備えているため、生活するにも比較的便利だが、移住の視点で考えると本州から四国へ渡り、さらには四国山地を越える遠さなので、移住先として選んでもらうことが難しい。そうした現状でどのようにして人を呼び込んでいくか、事業主体の方々と話し合いを進めている。

新しい人の流れをつくる

 高知市は2015年に「高知市まち・ひと・しごと創生人口ビジョン」ならびに「高知市まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定した。なかでも力を入れているのが「新しい人の流れをつくる」ことである。「総合戦略」を補完する形で「高知市移住・定住促進計画」(2015〜2019年度)を策定し、移住に不可欠の要素である「しごと」「住まい」「暮らし」を3本柱に据えて情報発信を始めた。
 計画の目標数値は、2019年度末までに県外からの移住組数を200組、15〜24歳の若者の県外転出超過数を550名まで抑えることとしている。ちなみに2018年度の高知市の移住組数は185組、290人だった。
 新規相談件数も右肩上がりで増えており、2018年度は263件。移住・定住施策におけるターゲットは全世代が対象で、専用ホームページの開設やSNSの活用、月刊広報紙の発行(情報提供を希望する移住希望者・移住者を対象に約600部)、大都市圏での相談会、ガイドツアー(移住希望者の都合に合わせてプログラムを作成)などを行っている。また、「三世代同居等Uターン支援事業」として、祖父母のところへ子どもと孫が帰ってくるケースへの支援も行っている。引っ越し費用、アパートの仲介料、不動産取得時の登録免許税など、上限15万円の補助がある。
 「お試し滞在施設」は市内に2カ所。ひとつは中山間地域にある短期型の「かがみ暮らし体験滞在施設『しいの木』」。健康福祉センターを改修したもので、最短2泊から最長28泊まで利用できる。もうひとつは高知駅から自転車で15分くらいのところにある「こうちらいふ体験滞在拠点『いっく』」。高知県の職員住宅の空き室を高知市が県の許可を受けて提供、1カ月単位で最長6カ月まで借りられる。いずれも家具・家電などを備え付けているが、特に「いっく」は非常に人気が高く、来年度末まで予約でいっぱいだ。
 「よさこい移住プロジェクト」では、高知市発祥の「よさこい」好きが高じて高知市に移住をされた方が「よさこい移住応援隊」となり、高知市と一緒によさこい移住のPRや各種イベントなどを実施している。東京の原宿で開催された「スーパーよさこい」のイベントでもブースを構え、PRを行った。また、本場高知のよさこいをより楽しんでいただくために、高知市役所踊り子隊に移住者・移住希望者枠(5名以内)を設けたり、夏限定の「よさこい留学」もサポートしている。
 さらに今年度からは地方創生移住支援金制度がスタートした。東京23区在住者または東京圏から23区への通勤者が高知市へ移住し、高知県が開設・運営するマッチングサイトに掲載されている中小企業等へ就職、または起業した方に最大100万円を支給するというもの。ほかにも、移住者のフォローアップとして年4〜5回、移住者交流会を開催。地元の人にも地域移住サポーターとして参加していただき、同じ地域の住民として移住者の相談にのってもらっている。

市町村間の連携

 単独の自治体だけで移住PRを行うことに限界があることから、県中央部で空港や交通網の結節点にあたる市町村(高知市、南国市、香南市、香美市)が連携し、移住相談会やツアーを開催している。昨年4月からは国の連携中枢都市圏制度を活用した「れんけいこうち広域都市圏」を高知県全市町村で形成し、「二段階移住」の推進にも取り組んでいる。「二段階移住」とはミスマッチを防ぐために、まずは比較的都市機能のそろった高知市にいったん移住・滞在し、そこを拠点に県内を巡り、最終的に自分に合った場所を見つけ安心して移住してもらうという、高知が提案する新しい移住のカタチである。
 「高知市にメリットはあるのか」という議論もあるが、高知市と県内市町村とは社会的・経済的に相互で補完する関係であり、高知市だけでは生き残れない。本制度では、一段階目として高知市に移住する際の初期費用を上限20万円、市町村の移住相談窓口を回るレンタカー代を上限2万円補助している。昨年度は20組、今年度は9月末時点で14組が補助金を利用した。また、これまでに二段階移住をした方は今年9月時点で7組となっている。

官民が連携

 昨年9月に「高知市版『生涯活躍のまち』構想・基本計画」(2018〜2022年度)を策定した。50歳以上のアクティブシニアを主なターゲットとし、「生涯現役! こうちらいふで『人生二毛作』」というキャッチコピーを掲げ、「住まい」「ケア」「活躍」「移住」「コミュニティ」の5つの基本構成要素を担う事業主体と連携し、事業を進めている。コンパクトシティを目指すために設定した居住誘導区域のなかに、上述の高知サマサマCCRCセンター(次ページ参照)とくろしお医療福祉㈱が交流拠点を構えており、今年度に50歳以上の方の移住を10組以上、以降毎年度10組ずつ上乗せし、2022年度までに100組以上の移住者の受け入れを目指している。
 高知市は今年4月に、高知サマサマCCRCセンターとくろしお医療福祉㈱と各々4カ年の基本協定を締結した。事業を実施するにあたっては地方創生推進交付金を活用し、3年間限定の補助制度として、①地域交流拠点運営体制構築事業(地域の交流拠点を運営するためのコーディネーターの人件費、管理運営費として年間350万円以内の補助。補助率は1/2、以下同じ)、②支援プログラム開発・サービス提供体制構築事業(ソフトの部分が対象で、同400万円以内)、③地域交流拠点施設整備事業(空き家の利活用等、3年で1回限り、同250万円以内)、の3メニューをつくった。
 今年度は拠点や体制構築に取り組み、来年度から本格的に事業を実施、3年目(2021年度)からは2つの事業主体が連携して、いろいろな事業を展開していく予定である。推進交付金が活用できるのは2021年度までなので、2022年度からは自走していただきたいと考えている。

くろしお医療福祉株式会社について

同社は、市内中心部の商店街に設けたCCRC拠点「帯屋町健康サポートセンター」で、高齢者の介護予防対策となる栄養ケアサポートを実践しつつ、医療・介護関係者、帯屋町商店街、農業・畜産・水産業者とが協働しながら、移住者・地域住民の各々がメリットを享受する「高知市版『生涯活躍のまち』事業」を目指している。専用のホームページを立ち上げて生涯活躍のまちを応援する企業を募るほか、今年6月には高齢者の低栄養防止を目的とした共同事業体を結成。移住者や見守りが必要な方等の居住空間を創出するために自社の事務所を改修、今年10月に共同住宅(賃貸物件)も開設した。中高年齢者の居場所づくりや高知市民の健康寿命の延伸のために、高知市内の各地に会員制フィットネス・スクール開設の検討を進めている。

 


   

「高知サマサマCCRCセンターによる生涯活躍のまちの事業概要」(一社)高知サマサマCCRCセンター 理事 井倉俊一郎さん
いのくら・しゅんいちろう 1951年、高知県土佐清水市生まれ。1972年、株式会社京王プラザホテル入社。ミクロネシア、サイパン、ジャカルタのインターコンチネンタルホテルと、6年間にわたる海外ホテル勤務を経験。1993年、京王プラザホテル退社。高知にUターン。

住まいとケア

 2017年12月に立ち上げた当センターは今年4月に高知市から生涯活躍のまち形成事業主体として選定され、移住の事業を始めている。住まいに関しては高知県の企業(株式会社加江工業、株式会社ライフ・カラーズ)と提携して移住者に対して物件やリフォーム会社の紹介をし、また、医療や介護に関しては医療法人会内田脳神経外科と連携している。
 学校法人日吉学園は今年4月に「とさ自由学校」を立ち上げた。子どもたちが自由に伸び伸びと学べる場であり、地元のシニアが自分たちの経験を子どもたちに伝えたりしている。私が事務局長を務める「認定NPO高知インドネシア看護師サポート会」では、看護や介護の分野における人材不足に対応するため、インドネシアからの若者を受け入れている。高知県の高校で寄宿舎に入り1年半日本語をしっかり学び、高知短大の看護師コースに入学し、国家資格を取得している。7年目のこの仕組みが定着すれば、高知市はアジアからの看護人材を輩出する地になるだろう。

知る、食べる、訪れる

 NPO法人土佐観光ガイドボランティア協会並びに高知県内の歴史博物館にも協力していただき、まずは高知の歴史文化を知るコト。食のイベントで高知産のおいしいものを食べるコト。そして高知に興味を持って来ていただく(高知歴史ツアーにつなげる)コトが移住実現のための道筋と考える。
 「知ってもらう」コトは、昨年、早稲田大学エクステンションセンターにて「幕末明治土佐学」講座を開催した。高知県の歴史博物館の学芸員10名が講師を務め、181名のシニア世代が受講。たとえば、坂本龍馬は土佐の自然にふれあいどんなものを食べていたのか、ジョン万次郎に進取の気性があったのは太陽が燦燦と輝く土佐清水市で生まれ育ったからではないか、といったエピソードも交えた講座であった。今年は「学問と教育を極めた土佐人」と題して「日本植物学者の父」牧野富太郎、物理学者、俳人、文学者、音楽家でもあった「天災は忘れた頃に……」の格言で有名な寺田寅彦を取り上げた。
 「食べてもらう」コトは、昨年、リーガロイヤルホテル東京で高知の旬の食材を持ち込む「南国土佐まつり」を開催した。高知の美味しい料理やお酒を召し上がっていただき、本場よさこい踊りを体感していただき、とにかく一度、高知に来てもらうのが狙いである。当センターの名誉会長で、小説『プラチナタウン』の作家・楡周平さんにも挨拶いただいた。
 「来てもらう」コトは、昨年の現地で高知の歴史を学ぶ実学ツアー(9月9日〜10日、幕末維新・歴史の旅2日間)を開催、参加者は11名で好評だった。当センターの事務局は「シニア世代交流カフェ」を運営。シニアのための安らぎの場であり、毎月、ビートルズやグループサウンズ、昭和歌謡などシニア世代が喜ぶライブ、そして高知へ移住した方々の体験を語る高知移住者交流会を開催している。

今後の課題と提案

 上述の早稲田大学エクステンションセンターでの講座には181名が参加したが、そのメンバーがツアーへ参加するかというと、難しい。「CCRC=生涯活躍のまち」の認知度が低いのもその理由だろう。一方、受け入れ側も、地元の中山間地などでは地縁血縁のある人には移住してもらいたいが、都会に住むシニアの移住には消極的である。移住者にヒアリングをすると、溶け込むまでに5年かかったという方がいた。コミュニティの閉鎖性を示すエピソードだが、たとえば子どもや孫と一緒に移住すると、地域の人々とすぐに仲良くなれる。そういう意味で、とさ自由学校のように、高知で子どもを伸び伸び育てることのよさをアピールすべきだろう。
 高知市にサービス付き高齢者向け住宅はあるが、75歳以上で要介護認定を受けた入居者がほとんど。元気なシニアは入ってこない。首都圏から本気でシニア世代を地方に移住させたいのなら、人口密度の低い高知県を公共交通特区のモデル地区にすることを提案したい。
 県内22万全世帯に3万円のバス電車フリーパス券を配布するのである。国が1万円、自治体が1万円、住民が1万円、三方一両損だが、合計66億円を土佐電交通が年間の売上として確保し、足摺岬から室戸岬まで公共交通でどこへ行くにも100円で可能にする。そうすれば、高齢になった時の移動の心配をしている方が3万円パスを目当てに移住してくるかもしれない。
 しごとについては、介護人材は不足しているものの、介護職だけでは働くモチベーションが下がるなら、たとえば週に数日は農業に携わるのもいいのではないか。知り合いの定置網の漁師の作業は1日2時間半程度。しかも後継者不足で悩んでいるので、漁業と介護との組み合わせも可能だろう。移住してくるシニア世代が地域のためになる生業をもち、おいしい食べ物と豊かな自然に囲まれた生活ができれば、働き方改革=生き方改革になり、高知はあなたのパラダイスになる。

高知市九反田にある高知サマサマCCRCセンター事務所
事務所にある「カフェ・SAMASAMA」での毎月定例ミニライブ