(てるい・なおき)秋田県出身。北海道の公共職業安定所を振り出しに、2003年に人事交流の一環として社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課へ出向し、障害者自立支援法施行に携わる(担当は就労支援)。その後、老健局で認知症施策担当を経て、再度障害福祉課において障害者総合支援法改正や障害福祉サービス等報酬改定の業務に携わり、2018年4月より現職。

 今号では内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局参事官補佐の照井直樹さんから寄稿いただいた。照井さんは厚生労働省で長年、障害福祉に携わり、2018年6月2日に公布された「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」の整備にも関わってこられた。同法は、高齢者と障害児者が同一の事業所でサービスを受けやすくするため、介護保険と障害福祉両方の制度に新たに共生型サービスを位置づけるというものである。
 本誌4号に登場いただいた、“バリアアリー”のデイサービスを展開する社会福祉法人「夢のみずうみ村」理事長の藤原茂さんがこんなことを述べている。「障がい者と高齢者の生活介護を一緒にやろうとしたとき、行政から『通路を区分しろ』と言われました。具体的にどうすればいいのかと尋ねたところ、通路を障がい者用と高齢者用とに半分に分けて、各々1.8mで間にビニールテープを引くよう指示されました」。藤原さんが指示に従ってビニールテープを貼ったところ、その位置が10cm違うと指摘され、貼り直させられたという。また、別の監査で、通路に置いたバイタルチェックの機器について、「ここは障がい者の生活介護の通路なのに、なぜ介護保険で使う機器を置いているのか」と指摘されたそうだ。藤原さんが「この線は便宜的なのだろう」と反論したら、「便宜的とは何事か!」と叱責されて大激論になったとのこと。
 当協議会の会長であり、社会福祉法人佛子園の理事長を務める雄谷良成も、Share金沢をつくる際、高齢者向けと障害者向けの廊下を別々にしろといわれたという。これらの原因は高齢者施設と障害者施設に対するお金の出所が違うことにある。前者は介護保険、後者は税を財源としているからだ。その「対策」として佛子園の「三草二木西圓寺」では高齢者向けと障害者向けのスペースをアコーデオンカーテンで仕切って監査に通ったそうだ。普段は開けっ放しである。
 最近では行政の方から縦割りをクリアする案を出してくれることもあるが、それも藤原さんや雄谷のような一事業所の人間が行政の担当者との間で粘り強い交渉を重ねた成果であり、そのなかのひとつが共生型サービスといえるだろう。これをいかに生涯活躍のまちづくりに活用できるか――。行政の方に解説いただくことに、本特集の意義があると思っている。自治体や事業者の皆様におかれては大いに参考にしていただきたい。

※各種調査による推計

はじめに

 私は2018年3月まで厚生労働省の障害福祉課で障害福祉サービスの制度設計や報酬単価の設定などの業務を行ってきました。同年4月、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局に着任後は、社会福祉法人佛子園の各施設や佛子園と公益社団法人青年海外協力協会(JOCA)が共同で進めるプロジェクト、輪島KABULET©などを見学させていただきました。いわゆる「佛子園方式」は、主に障害福祉サービスを組み入れながら「ごちゃまぜ」の賑わいをつくるという点で、これまで障害福祉中心に業務を行ってきた私にはとても新鮮に見えました。
 そこで本稿では生涯活躍のまちづくりにどうやって福祉サービスを入れていくかという視点を中心に述べたいと思います。

障害福祉の規模は?

利用者数は今後も伸びる傾向

 まずはわが国における障害福祉の規模についてです。障害者の人口は約1,000万人(全人口の約7.6%)。うち、身体障害者は4割強、知的障害者は約1割、精神障害者は4割強の割合になっています。年齢構成をみると、身体障害者の場合、65歳以上の方が74%(約322万人)、65歳未満の方が26%(約113万人)。高齢者が多いのは、身体障害者福祉が戦後すぐに始まり、始まってすぐにサービスを受けた方々が高齢化していったこと、そして、医学の進歩によって身体障害が起こりにくくなり若年層が減っていることなどが理由として考えられます。なお、いままでは亡くなっていたような最重度の障害への治療技術が向上したことなどにより、重度障害のある方の数は増える傾向にあります。
 知的障害者は約108万人。うち、65歳以上の方が16%(約17万人)、65歳未満の方が84%(約91万人)で、全世代で一定程度の方がおられます。精神障害者は約419万人。うち、65歳以上の方が39%(約163万人)、65歳未満の方が62%(約256万人)で、後者が増えています。精神障害については、たとえば統合失調症といった症状から鬱病まで、精神科の患者さんが増えていることも理由のひとつと考えられます。
 障害者総合支援法の給付・事業のなかで、生涯活躍のまちに関連するものは、就労継続支援(A型・B型)ならびに共同生活援助(グループホーム)などが考えられます。就労継続支援は主に昼間の就労支援、共同生活援助は夜の住まいを提供するサービスですが、たとえば、佛子園では昼間は食堂などでの就労継続支援を実施し、夜間に共同生活援助で生活するための支援を行っています。

〈出典〉医療:医療費の動向 介護:介護給付費総費用額実績 ※2015年度は当初予算額 障害:国保連データ及び障害者自立支援給付費負担金を基に障害福祉課において推計

 障害福祉サービスおよび障害児サービスを利用している方の数は2019年2月時点で約119万人、障害者全体の1割強で、費用は事業費ベースから換算すると約2兆7,000億円です。費用は国と地方で半分(地方は県と市町村でさらに半分=総費用の1/4)ずつ負担します。総費用額(2015年度)は、医療(42兆4,000億円)や介護(10兆1,000億円)に比べて大きいとはいえませんが、ここ10年間の伸び率でいえば、障害(約233%)は医療(約128%)、介護(約158%)を大きく上回っています。
 障害福祉サービスおよび障害児サービスを利用している方の数が全体の1割という現状からみると、利用者は今後も伸びていくと思われます。国の予算では2018年度の障害福祉サービスは1兆3,317億円。物価の上昇や人件費の上がり下がりを勘案して3年に一度、報酬額が改定されるのですが、2018年度の改定率は0.47%である一方、障害福祉サービス関係全体の予算は2017年度の1兆2,656億円から2018年度は1兆3,810億円と1,154億円増、9.1%の伸びとなっています。

生涯活躍のまちに関連する施策にはどんなものがある?

障害児者の状態に応じてさまざまな種類

 生涯活躍のまちの事業に関わると思われる施策について説明します。
 農福連携による就労支援の推進(農業分野での障害者の就労支援に向け、障害者就労施設への農業の専門家派遣による農業技術に係る指導・助言や6次産業化※支援、農業に取り組む障害者就労施設によるマルシェの開催等の支援を実施)のための2億7,000万円は農林水産省ならびに厚生労働省の双方から拠出されています。農業は雑草を刈ったり、枝を剪定したりといった作業を通して、作物が育つことがよくわかるので、主に知的障害のある方と相性がいいといわれています。

※農林漁業者が食品加工(2次産業)、流通・販売(3次産業)にも取り組み、農山漁村の経済を豊かにしていこうとするもの。「6次産業」の6は農林漁業本来の1次産業だけでなく、2次産業(工業・製造業)、3次産業(販売業・サービス業)を取り込むことから、1(1次産業)×2(2次産業)×3(3次産業)のかけ算の6を意味している。

 ハードの面では、社会福祉施設等施設整備費補助金があり、2018年度は72億円、2019年度は195億円(うち30年度補正予算で50億円を計上)ですが、47都道府県で分ければ約4億円に過ぎず、大きなハコを作ったらなくなってしまう程度のものといえるでしょう。同補助金の補助率は国が2分の1、都府県・指定都市・中核市が4分の1、設置者が4分の1と、事業者も負担するのが他と違うところです。
 障害福祉サービス等の体系は介護給付と訓練等給付で成り立っています。介護給付のうち、ホームヘルパー等がサービスを提供する訪問系サービスについては、主にヘルパーさんをどう活用するかで制度が分かれており、たとえば、視覚障害者が外出するときにガイドヘルパーさんが付き添う同行援護、知的障害者や自閉症の方に対して外出時の安全確保などのサポートを行う行動援護などがあります。このように、障害福祉サービスには、障害のある方の状態像に応じていろいろな種類があります。
 また、訓練等給付のうち、2018年4月から新たに導入されたのが自立生活援助です。一人暮らしに必要な理解力・生活力等を補うため、定期的な居宅訪問や随時の対応により日常生活における課題を把握し、必要な支援を行うというものです。その他、自立訓練には機能訓練と生活訓練があり、前者ではリハビリ、後者では精神科病院に長く入院していたため、退院後、薬を定期的に飲むことなどを忘れる、食事をつくれない、掃除ができない方などに対して上限2年間、習慣づけのための生活訓練を行います。

 訓練系・就労系のひとつである就労移行支援は、いわばハローワークに職業訓練を組み合わせたような、一般就労に向けた訓練をしながら、仕事の斡旋をするというものです。就労定着支援は就労した方が職場に長く定着できるよう、主に職業生活面の課題に対応するためのサポートです。
 障害児通所系のうち、児童発達支援および放課後等デイサービスは対象が違うだけで、内容はほぼ同じです。前者は未就学児を中心とした日中の療育支援を中心としたサービス。後者は就学児に対して放課後の15:00~18:00くらいの間、もしくは学校が休みの日における療育支援を中心としたサービスです。児童発達支援の利用者数は8万4,000人、放課後等デイサービスは約19万人ですが、後者は制度ができて以降、利用者が急増していると同時に、サービスの質の担保が課題となっていて、今回の報酬改定では質の見直しなどを行いました。
 これらの事業を展開することで利益が出るのかという視点でみると、財源の99%が税金である障害福祉サービスにおいては報酬改定の前年度に報酬実態調査を行い、各事業の収支差を調査しています。2017年度、就労継続支援A型は14.2%(例:100万円中14万2,000円が収益)、放課後等デイサービスは10.9%(同10万9,000円が収益)の収支差があり、報酬改定で報酬の適正化を行っています。一方で、利益が上がらない、赤字になっている事業もあります。障害児相談支援は▲0.5%、福祉型障害児入所施設は0%であり、同様に報酬の増額とともに、報酬改定ではこうしたサービス間に生じている収支差率の均衡を図っています。ちなみに、民間企業の平均的な利益率は5%程度といわれています。

共生型サービスとは?

高齢障害者も地域で暮らしやすくなる

 高齢者と障害児者が同一の事業所でサービスを受けやすくするため、介護保険と障害福祉両方の制度に、新たに共生型サービスを位置づける「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」には、行政の縦割り制度の緩和以外にも、地域における人手不足の解消という目的もあります。
 社会保障の大前提には自助・共助・公助の順で支援していくという原則があります。まずは自分でがんばってみる、それが難しければ周囲からサポートしてもらう、それでも十分でなければ公のサービスを受ける。うち、介護保険事業は共助に、障害福祉は公助に当たります。このため、障害福祉サービスを受けている障害者は、65歳になった時点で類似の介護保険サービスがあればそちらを利用する。すなわち公助から共助になるわけで、その場合、いままで利用していた事業所を出なければならない可能性が生じます。障害福祉はその人その人で支援メニューが違うので、慣れた支援者のサポートが必要なのに、新しい施設に行って新しいスタッフからサポートを受けることになる。つまりゼロからスタートしなくてはなりません。そうならないよう、今までの事業所で引き続きサービスが受けられるようにするために生まれたのが共生型サービスなのです。
 加えて、事業所の数の問題もあります。同じデイサービスとして、介護保険の通所介護は全国に4万カ所あるのに対して、障害福祉の生活介護は1万カ所と少ないため、目の前に通所介護があっても遠くの生活介護に通わなくてはならないケースも生じています。そこで通所介護で一定程度、生活介護を行うことができるよう、一方の指定を取っていれば、もう一方のサービスも提供できるようにしたのです。ただし、一方について本来の要件を満たしていないと報酬単価は低いのですが、事業所がそれをクリアすれば、報酬単価は規定どおり上がります。

共生型サービスの創設によってどんな事業が可能か?

障害福祉サービス等と介護保険サービスとの比較

 同じデイサービスとして、通所介護には、入浴、排せつ、食事等の介護、調理、洗濯、掃除等の家事、生活等に関する相談および助言といった支援ができますが、生活介護はこれに加えて創作的活動または生産活動の機会、つまり仕事の提供が可能です。また、生活介護の場合、定員は20名が下限ですが、介護保険に条件はありません。
 支援員の割合(利用者に対する支援者の数)をみると、生活介護では、平均障害支援区分4未満の場合は6人の利用者に対して1人以上の生活支援員、平均障害支援区分4以上5未満の場合は5人の利用者に対して1人以上の看護職員、平均障害支援区分5以上の場合は3人の利用者に対して1人以上の理学療法士または作業療法士の配置が必要です。介護保険では、利用者15人まで介護職員は1名以上、看護職員は1名以上(ただし定員10人以下では不要)、理学療法士または作業療法士は1名以上とされています。設備について生活介護の訓練・作業室に広さの条件はありませんが、通所介護では食堂および機能訓練室の広さは利用者1人あたり3㎡以上と決められています。
 共生型サービスを行う場合、通所介護もしくは生活介護のどちらかの指定基準を満たせば、もう一方の事業も可能となりますし、双方をクリアすれば、報酬単価が規定額を受けられます。さらに、共生型サービスとして位置づけられている児童発達支援、放課後等デイサービスの事業も行うことが可能です。
 居宅介護(ヘルパー)の資格について、2級ヘルパーは130時間の研修の受講が義務づけられているのですが、高齢者向けと障害者向けでは130時間のうち6時間だけ研修内容が違います。前者は認知症理解、後者は障害者理解について学ぶことになっていますが、両方の資格を取得するために、これまではそれぞれ130時間ずつの研修を受けなければなりませんでした。現在は資格も相乗りが可能です。
 また、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や筋ジストロフィーなどの重度訪問介護の場合、地域で生活するためには長期間のサポートが必要であり、24時間365日ヘルパーがつきっきりというケースもあります。一般的にヘルパーの仕事は身体介護と生活援助であり、事前にやる内容は決まっているのですが、重度訪問介護の場合は利用者の指示に従って動くこともあり、これは障害福祉ならではの制度です。
 共生型サービスの創設により、子ども、障害者、高齢者が同じ空間でサービスを受け、ときにはサービスを提供する側にもなる「ごちゃまぜ」の事業を展開することがより身近になったと考えています。加えて、指定基準が緩和されたことなどもあり、本事業の活用は事業収益の確保という面でも有効ではないかと考えています。