2018年4月、石川県輪島市にオープンした空き家利活用によるコミュニティ「輪島カブーレ」は、小誌創刊号で紹介したとおり、地方創生の先駆的なモデルとなった。地元住民の交流の場となる温浴施設、障がい者の雇用の場ともなっている蕎麦処、健康増進・介護予防を目的とした拠点施設(ゴッチャ!ウェルネス)のほか、障がい者向けグループホームやショートステイ、子育て支援、そしてサービス付き高齢者向け住宅などが拠点施設の半径300mのエリアに点在し、その間の移動は電動エコカートが担うという画期的なものだ。

 しかし、ここにいたるまで道のりは平坦ではなかった。本書は、生涯活躍のまち推進協議会会長でもある雄谷良成が自ら率いる(社福)佛子園および(公社)青年海外協力協会の連携により進めてきた「ごちゃまぜ」のコミュニティづくりの歴史を遡る。「三草二木 西圓寺」「Share金沢」「B’s 行善寺」を立ち上げる際、地元住民の障がい者雇用への偏見や自治体の縦割り行政という壁に対して、自分たちが障がい者と一緒になって地域づくりに直接関与する、中央官庁へ直談判することで乗り越えてきた。さらには社会福祉法人による初の地ビールの醸造所兼ビアレストラン「Heart&Beer日本海倶楽部」のオープン、農家の担い手不足解決と障がい者が働く場の確保を同時に実現する「農福連携」へと進化している。

 佛子園のことを知っているつもりの読者諸氏にも本書から新しい発見を得られるに違いない。

 最後は「BUSSIEN VISION 2030」で締めくくり。佛子園が2030年までの実現を目指す12のゴールが設定されている。なかでも私は「OCEANS – 愉快な仲間づくり」「そして僕たちは海を渡る…」にワクワクさせられた。前者はあの痛快なアメリカ映画のタイトルからとっているのだろう。神出鬼没のメンバーが日本発のごちゃまぜコミュニティというソフトを世界に展開していく——そんなイメージが浮かんだのである。

 本書はいわば入門書。生涯活躍のまちづくりを進める自治体や事業者におかれては、佛子園が直面した様々な試練と、それを乗り越えることで培ってきた経験を、自分たちの地域に合わせて活用していただきたい。ただし、佛子園モデルを構築したと思ったら、当人たちは「PLVS VLTRA」(ラテン語で“さらに彼方へ”とういう意味)へ進んでいる可能性が高い。地域コミュニティは時代とともに変容していくので、本書の続きが二の矢、三の矢と放たれるだろう。「次回もお楽しみ」的な読後感はそのためだ。

(芳地隆之)

『ソーシャルイノベーション』
社会福祉法人 佛子園が「ごちゃまぜ」挑む地方創生!
(監修 雄谷良成 編著/竹本鉄雄 ダイヤモンド社)