鳥取県交流人口拡大本部ふるさと人口政策課 係長 森安 裕章さん1982年2月生まれ。鳥取県西部(南部町の隣町)出身。東京都内の予備校に通学するため上京。都内の私立大学に通った後、帰郷。その後、2009年鳥取県庁に入庁。会計局からスタートし、住まいまちづくり課、障がい福祉課を経て、2019年7月から移住・定住を担当する「ふるさと人口政策課」に異動。最近の趣味は、長男の好きな「鉄道」。

生涯活躍のまち事業を進めるにあたって県と市町村の連携が難しいといわれるなか、鳥取県はそれが比較的うまくいっている印象を受けるのは、県職員の現場意識の高さによるところが大きいようだ。それは住民のニーズを把握することにもつながる。「小さくても勝てる」(平井伸治鳥取県知事の著書のタイトル)理由は何か。鳥取県の交流人口拡大に努める森安さんの話から読み取っていただければ幸いである。

——森安さんの鳥取県でのこれまでのキャリアをご紹介ください。

 県庁に入ったのは2009年度、新規採用時の所属は会計局、その後は住まいまちづくり課で宅地建物取引業法にかかわる仕事を、2014年5月には、手話言語条例の制定後、手話や盲ろう者、視覚障がい者に関する事業が前年度以前と比べ大幅に増えたことから、障がい福祉課に異動となりました。同課では、障害福祉サービス事業所の施設整備補助や、鳥取県障害福祉計画の策定などを担当しました。5年以上在籍し、「盲ろう者」という「見えない」「聞こえない」障がいのあるヘレン・ケラーのような方の支援にも携わりました。その際に触手話や指文字で「意外と話が通じるものだな」と少しびっくりしました。勝手に自分の方からバリアをつくっていたり、コミュニケーションが成立しないと思い込んでいたりすることがあるのだと身をもって知りました。
 また、「聞くこと」の重要性も痛感しました。行政に対して様々な注文をつけてくる人も、しっかり話を聞けばニーズの塊です。役所や施設という建物から一歩一歩外に出て行って、その人たちのニーズに近づいていく、そういう練習というか訓練を、日々行っていたのかもしれません。

——森安さんが障がい福祉課に異動した年に、鳥取県は「生涯活躍のまち」づくりに取り組み始めたのですね。

 2014年11月の鳥取県議会のなかで、いわゆる「CCRC」に関する質問があり、その際に知事が前向きな答弁を行ったのが発端です。経済面でも期待でき、地域コミュニティの担い手としても、地域住民においてもメリットがある。高齢者だけでなく、働く世代、子どもたちの世代にとってもプラスになるまちづくりが進むことを期待しました。その後、2015年度当初の内閣官房まち・ひと・しごと創生本部による市町村の意向調査をもとに、推進意向のある市町村へ働きかけ、推進意向のある地域の視察を関係者と行い、市町村との関係性を構築した結果、県内の2つの町、南部町と湯梨浜町が日本版CCRCに取り組むことになりました。

なんぶ里山デザイン機構が運営・管理する「えん処 米や」開所式の様子(2018/4)。昭和20年代に建設された空き家を南部町が借り上げて改修し、1階は地域の交流拠点スペースとして様々なイベントや教室が開かれている。2Fはお試し住宅になっており、南部町移住に興味のある方を対象に提供

——両町の特色はどんなところにありますか。鳥取県として具体的に行っているサポートもあれば、お教えください。

 南部町においては、平成の大合併後、いくつかの集落がまとまった「地域振興協議会」という住民コミュニティが行政と協働して、地域課題をそれぞれで解決する町独自の仕組みが育っています。また、総合戦略をとりまとめるなかで、「まちづくり会社」を設置してはどうかという提案が住民から出てきた結果、「なんぶ里山デザイン機構」というNPO法人が設立され、「生涯活躍のまち」のひとつのエンジンになっています。
 湯梨浜町は、合併前は「羽合町」「東郷町」「泊村」という3町村で、それぞれに異なる背景があります。現在、合計特殊出生率が毎年県内平均を上回り、旧東郷町内の松崎駅の周辺にあった温泉旅館街にはゲストハウスができるなど、勢いのある町になっています。
 とはいえ、両町ともに大きな市(南部町は米子市に、湯梨浜町は倉吉市)に隣接しており、高齢化や若者の人口流出、それに伴い中山間地域で公共交通をはじめとするインフラの維持や、高齢者の買い物などが難しくなっているのです。
 鳥取県がこの2町を、町、県、関係団体との協定に基づき、町内の環境整備、いわゆるハード整備、PRについては国の交付金等を活用して町が行い、県外からの呼び込みに関しては県が関係機関に委託するなどの手法によりサポートしています。

——南部町、湯梨浜町に続く市町村は出てきそうですか。

 国の総合戦略のなかで、「アクティブシニア」から「全世代・全員活躍のまちづくり」にコンセプトが見直されると全国的に風向きが変わってくるのでしょうが、県内自治体にはまだ浸透しているとはいえません。まずはそこからだと思います。

——移住を検討する人にとって鳥取県の魅力は何でしょう? 県としての具体的な移住・定住のための取り組みも紹介いただければ幸いです。

 鳥取県固有といえるのは——よく交流人口拡大本部長が言うのですが——「コンパクトに自然がまとまっていること」です。海と山がどちらも近く、サーフィンもスキーも、近いところなら30分圏内に適地があります。子育て施策にも力を入れているので、自然環境が豊かな地域で子育てをしたい方にはとても魅力的な場所ではないでしょうか。
 県の移住・定住の取り組みとしては、2007年度から、移住希望者が鳥取県への移住を検討する際の相談を受け付ける市町村の移住相談員の人件費、移住者が住宅を改修した際に市町村が補助金を交付する場合など必要な経費の半分を補助しています。鳥取県へ移住した方を移住アドバイザーとして委嘱し、県外で実施する相談会で講師を務めてもらう、県内での困り事があった場合のアドバイスをしてもらうなど、人間関係が濃厚な本県ならではの取り組みもあります。

——国は来期からの新たな「まち・ひと・  しごと創生総合戦略」を策定するにあたり、関係人口、交流人口を重視しています。森安さんのご所属は交流人口拡大本部ふるさと人口政策課ですが、この部署は主にどのような業務をなさっているのですか。

 今年の6月までは「とっとり暮らし支援課」で移住・定住および中山間地域政策を担当していました。過疎や人口減少、高齢化による影響を直に受けるのは中山間地域ですので、移住・定住と連動させていたのです。7月からは交流人口拡大本部が新設され、そのなかに観光戦略課、国際観光誘客課、交流推進課、まんが王国官房(*)、東京、大阪、名古屋の県外事務所が、ふるさと人口政策課とともに属しています。当県との強い関わりは移住、緩い関りとしては観光、その間に関係人口があり、鳥取県との関わりのある人を増やすという大きな狙いをもって、組織改正されました。
 東日本震災を機に「人生の過ごし方」を改めて考える人が増え、地方への移住が一定程度進んでいますが、景気回復に伴う人口の首都圏一極集中により、地方への移住はひとときに比べれば落ち着いているのではないかと思います。ともすれば、移住者の獲得合戦にもなりかねないので、移住を検討している人は、落ち着いて、自分の人生について時間をかけて考える機会を増やしていく必要があります。関係人口もその手法のひとつではないでしょうか。

*まんがを活かして国内外に情報発信し、国内外から誘客を図ることを目的とし、2012年に観光交流局に設置された。

——鳥取県でリモートワークが可能となり、都会の企業人が一定期間、鳥取で仕事ができるような環境があれば、大きなメリットになると思います。

 とくに山陰のように新幹線が通っていない地域の弱みは、人や物の移動に物理的に時間がかかることだと思います。これからもしばらくは新幹線が開通することはないわけですが、高速通信技術はこれからも進み、仕事のなかで「物の移動」の比重が相対的に下がっていくと思います。鳥取県も関係人口の取り組みのなかで、ワーケーションに力を入れています。

——県と市町村の連携についてお聞きします。たとえば、県が「生涯活躍のまち」の旗を振っても、市町村がついてこない、あるいは市町村が頑張っているのに県のフォローがない、といった齟齬の理由は何だと思われますか? その点、鳥取県では両者の連携がうまく行っているようにみえるのですが。

 県と市町村との関係は、担当者やトップによって変わると思いますが、一般的に都道府県と県民の距離は市町村と住民のそれに比べると遠い。市役所や町役場に用事のある人はたくさんいるけれども、県庁にたびたび来る県民の方は——業者でもなければ——それほど多くないでしょう。後でも話しますが、(県と市町村の)連携がうまくいっていないと感じる都道府県は、県庁の人が県民の顔を見る余裕があまりないからだと思います。同じものを見ていないから、県と市町村の人との話題が合わない、そんなことが起きるのです。
 私は、いまの所属に来る直前に「障がい福祉課」にいたのですが、都道府県における障がい福祉の位置づけは、障害者総合支援法により、援護の実施主体となる市町村のバックアップや広域的な支援とされていたので、市町村の担当者との関わりがとても重要でした。県庁の人間である私ですが、市町村職員、現場で働く事業所の職員、何より障がい当事者やその保護者の話を聞きに行くように心がけていました。周りの職員も当然のこととして出かけていました。
 鳥取県が市町村行政の間で意思疎通や連携がうまくできているかというと、まだまだの面もあると思います。市町村という行政だけでなく、関係機関とも生涯活躍のまちづくりや移住・定住施策を進めていくパートナーとして連携を深めていくことが必要でしょう。

「えん処 米や」でのイベント風景

——鳥取県の平井伸治知事はリーダーシップもユーモア——ダジャレもお得意ですし(笑)——もおもちの稀有な首長だと思います。知事の著書『小さくても勝てる 「砂丘の国」のポジティブ戦略』によると、民間企業の誘致などの際に重視しているのは決断のスピード。それが可能なのは、県の規模が小さいからであり、マイナスをプラスに転化することを強調されています。そうしたスピード感も日常の業務で感じられますか。

 県庁で働いていて鳥取県の強みだと感じるのは、行政と民間との距離が近いこと。これに尽きると思います。過去鳥取県に移住してきた方が、県庁のふるさと人口政策課を訪ねてこられ、事業のパートナーとして関わっていただくことも多く、住民にとって県庁の敷居は低いと思います。多くの県庁職員が「現場主義」を意識して仕事をしているのは、現場の声をヒントに事業を組み立てるという姿勢が職員に浸透しているからでしょう。
 都会や他の地域に比べれば、鳥取には交通面など目の前に制約がたくさんあります。しかし、それらをマイナスとは思っておりません。現状は現状として肯定し、そのなかでどれだけ豊かに暮らせるかを考えていく。まさに「小さくても勝てる」ところが鳥取にはあります。

——鳥取県の多くの市町村が「生涯活躍のまち」に取り組むようになるために県がすべきことは何だと思いますか。

 県内の自治体の多くは「日本版CCRC」=「アクティブシニアの移住」と思っているので、そういったイメージの払拭が必要だと思います。鳥取県ではもともと「生涯活躍のまち」とは移住定住施策ではなく、「まちづくりの一環である」と強調していました。したがって、どういうまちづくりをしたいかを一緒になって考えていく必要があると思っています。また、多くの自治体では、まちづくりは企画担当部門が担当していると思いますが、たとえば、厚生労働省の進めている「我がこと・丸ごと」「地域包括ケアシステム」「地域生活支援拠点等」といった取り組みは、端的に言うと「社会的包括」の仕組みづくりであり、生涯活躍のまちと重なる部分は大きい。だからこそ、企画担当部門以外の部署と一緒になって取り組むべきだと思います。

(聞き手 芳地隆之)