青森県弘前市「生涯活躍のまち」形成事業における地域再生推進法人に指定された社会福祉法人弘前豊徳会は、4月にサービス付き高齢者向け住宅「サンタハウス弘前公園」を開設しました。元気な高齢者向けのハウスが少ない弘前市において、アクティブシニアが生き生き暮らすためのコミュニティづくりをどう進めていくか。サンタハウス弘前公園の施設長ならびに地域コーディネーターを勤める阿保さんより、プロジェクトの紹介から今後の課題までを語っていただきました。そこには全国の事業者がもつ共通の悩みもありそうです。

阿保英樹さん社会福祉法人弘前豊徳会 サンタハウス弘前公園 施設長・地域コーディネーター

(あぼ・ひでき)青森県弘前市出身。教育図書販売、職業訓練講師等を経て2009年に社会福祉法人弘前豊徳会入職。法人本部にて新規事業企画・広報部門を担当。2011年から2014年にかけて東日本大震災被災地である東北地方沿岸市町村からの要介護者広域受入の調整業務に従事。2016年より、弘前版生涯活躍のまち形成事業の事業主体募集に対する企画業務に携わり、2018年12月より同事業の地域コーディネーターとして活動。2019年4月よりサービス付き高齢者向け住宅サンタハウス弘前公園施設長、5月よりデイサービスセンターサンタハウス弘前公園管理者兼務。

要介護にならないためのビジネス

 当会は1996年10月に設立されました。職員数は266名(2019年5月現在)。青森県の介護サービス事業所認証評価を取得しました。県下には大小さまざまな事業者が1,000以上ありますが、認証を取得しているのは34カ所。人材の育成、サービスの向上、キャリアパスがしっかりしている法人であるといえます。当会は弘前市内で介護サービス事業を中心として医療・障害福祉サービスなど提供すると同時に内科・外科のクリニックも運営する、介護と医療の総合的な福祉サービスを展開しています。

 弘前市は2016年8月に地域再生計画を策定。同年11月に行われた事業主体(地域再生推進法人)の公募の結果、2017年1月に当会と社会福祉法人愛成会が選定されました。私たちの施設の多くは弘前市郊外の大川というエリアに集中しているのですが、生涯活躍のまち事業である自立型サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)「サンタハウス弘前公園」(以下、サンタハウス)は市内の中心地である元大工町に整備しました。

 これまで私たちは介護が必要になった方でも住み慣れた地域で暮らし続けることができる体制づくりを進めてきました。しかしながら、元気な高齢者向けの事業は行ってきませんでした。有料老人ホームを運営しているものの、要介護認定を受けた高齢者の受け入れを原則としていたのです。

 東日本大震災直後の2011年4月、私たちは現地調査に入りました。震災直後、まだ地元の高齢者に介護を必要とする人は少なく、みなさんお元気でした。しかし、家族と離れる、仮設住宅での生活が長くなる、そして従来の地域コミュニティが崩壊すると、見る見る弱っていく。「介護が必要になったらどうしよう」ではなく、「ならないようにするためにはどうしたらいいのか」を考えず、高齢者が要介護になったあとのビジネスしか行ってこなかったことを考え直すきっかけになりました(その後、沿岸の市町村で要介護認定を受けた高齢者の方々に私たちの既存の施設を利用していただいています。受け入れ総数は約180名に上り、現在も70名の方が生活されています)。

 東京圏と地方との間に賃金格差はありますが、介護分野においては、国の介護職員処遇改善加算(※介護職員のためのキャリアアップの仕組みを作るなど、職場環境の改善を行った事業所に対して、介護職員の賃金の改善のためのお金を支給すること)により、収入は比較的よくなっています。私たちの法人における介護職員の給与も、この10年間で数万円上がりました。移住者にとって介護職は弘前市の他の業種に比べて就きやすいのではないでしょうか。定年を迎えられた方のなかには夜勤のないデイサービスの仕事ならできるという人がいるかもしれません。サービスを受ける側も提供する側も元気になるという一挙両得が生涯活躍のまちを目指す大きな理由です。

サンタハウスの概要

 2018年春にサンタハウスが本格的に着工、12月に入居者募集のため移住交流・情報ガーデンにおいて弘前市との合同移住セミナーを開催しました。建物は2019年3月に竣工し、お試し居住を実施。5月には1階のデイサービスセンターも開始しています。

 部屋数は37。広さはすべて30㎡以上。トイレ・風呂・キッチン・収納完備。全施設でWIFI使用が可能です。併設施設にはデイサービスセンターや交流スペースがあります。

 補助金としては「スマートウェルネス住宅等推進事業」(※国土交通省・平成29年度事業。30㎡以上かつトイレ、収納、台所、浴室を完備した居室の補助額〔1戸当たり上限135万円〕を適用。また、併設の通所介護事業所も10%補助対象)ならびに「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル実証事業」(※経済産業省。豪雪寒冷地帯である北東北初〔青森県・秋田県・岩手県〕。ヒートポンプ空調・給湯設備、ビルマルエアコン、高性能断熱材、複層ガラス、BEMS〔ビルエネルギー管理システム〕等を導入した省エネ施設)を活用。総工費における補助金合計額の割合は約25%となりました。

 サンタハウスのある弘前公園は旧城下町のなかにあり、桜やお寺、明治・大正期の西洋建築など観光資源に恵まれています。5階からは「津軽富士」と呼ばれる岩木山が一望できますし、弘前市役所、市民会館、弘前大学附属病院、飲み屋街と、たいていのものが徒歩圏内に揃っています。公共交通としては弘前駅を循環するバスが10分間隔で走っているのです。

 ハード面の特徴としては、1階併設の健康増進施設にパワーリハビリテーション機器(筋肉増進ではなく、立ち上がる、歩くなど、介護予防のためのトレーニングマシン)4点、トレーニングジムマシン10点、体組成計、運動機能分析装置、全自動血圧計などを設置。後者3点は生涯活躍のまち事業に資するものとして弘前市に購入いただきました。交流拠点にはオープンキッチンがあり、地元の方や入居者の方が主体となった地域交流イベントや生涯学習講座を実施しています。

移住PR活動

 私は地域コーディネーターとして、建物ができる前から入居のPR活動を始めました。有楽町(東京都千代田区)の交通会館の6階に開設されている「ひろさき移住サポートセンター」を基点とし、移住関連のセミナーに参加するほか、東京の青森県人会と連携。青森県へのUターン希望者をターゲットにしています。また、青森県庁職員が早期退職して立ち上げた(一社)あおつな創出プロジェクトとつながったことで入居者相談を増やしているほか、青森県出身者が経営する首都圏の飲食店(青森県出身者の集いの場になっている)や青森県産品を扱うアンテナショップにチラシを置いてもらっています。

 サンタハウスの職員は自分を含めて13人。うち10人はデイサービス専従で、なかには神奈川県から昨年Uターンした60歳の看護師や、福島県双葉町出身でいわき市にて介護福祉士の資格を取得した女性が、そこで弘前市出身の男性と知り合い、結婚してⅠターンした人もいます。

 サンタハウスでのお試し居住は2泊3日で無料。居室を6つ整備しています。飲食は自己負担で、具体的なプログラムとしては、移住・就農経験者のいちご農園を訪問し移住や就農について尋ねる機会を設けたり、弘前市内の観光資源、弘前市内のコワーキングスペース(ネット環境+コピー+スペース+入居者の交流)、インキュベーションスペース(コワーキングスペース+企業ノウハウ支援+セミナーなど)の訪問、サンタハウス以外の当会の介護施設の見学などを行ったりしています。3〜5月初旬までの利用は10件。50代男性と60代女性の夫婦は弘前市とは無縁の方々なのですが、障害を抱えた息子さんが青森市内の障害者施設に昨年入所し、そこで楽しそうに暮らしているので、息子のそばで暮らそうと移住を検討しています。男性は介護福祉士で、当法人の施設における就労を希望。お試し居住期間中に施設見学、労働条件の確認などを行いました。

 地域貢献モデル事業としては、観光ボランティアガイド養成勉強会やオープンキッチンでの「郷土食体験(食べる)+歴史ミニ講座(学ぶ)+そして観光地散策(歩く)」を計画しています。日曜日に50歳以上の弘前市民に1階併設の健康増進施設を無料開放しています。

入居者の確保に向けた課題

 地元住民、首都圏在住者ともにサンタハウスへの関心は高いものの、家賃設定が月額8万8,000円〜13万9,000円で首都圏並み。したがって、首都圏にはない、入居者、地元住民、地域社会のなかで暮らす安心感というソフトの部分が大切になってきます。

 お試し居住の課題としては、参加者の要望にどこまで応えるべきかです。サンタハウスのメリットは、弘前市のまちなかで自由に暮らせるというものなので、お試し居住期間中も自由に動いてもらった方がいい。しかしながら、同期間中の活動範囲が「弘前市内」に限定されているため、弘前市外の安い賃料のエリアに住んで、市内に働きに来る人のニーズに応えられないのです。

 「弘前市生涯活躍のまち形成事業計画」において定められた当会の事業実施期間は2018〜2020年度です。しかしサンタハウスは2019年4月に開設されたので、対象期間はあと2年。2021年4月からは自走しなくてはなりません。その一方、形成事業期間における事業の組み立ては補助金型であるため、継続可能な財源確保に資する組み立てができていないのが現状です。

 「生涯活躍のまち」は移住者や地域住民を乗せた列車であり、走り出したら、行政が途中下車しても、止めることはできません。民間事業者に与えられた「助走期間」であるこの1〜2年で体制を整えたいと思っています。