自閉症の当事者が自らを語った世界初の本である。最初の作品は13歳のとき、2作目は高校生のときに書いたものだ。
「僕は跳びはねている時、気持ちは空に向かっています。空に吸い込まれてしまいたい思いが、僕の心を揺さぶるのです」
 興奮して何もわかっていないわけではない。体が悲しいこと、嬉しいことに反応しているのだ――と東田さんは書く。大きな声はなぜ出るのか、表情が乏しいのはなぜか、なぜ繰り返し同じことをするのか、など、東田さんは58の項目を挙げ、それらについて丁寧に説明する。2作目では「コミュニケーション」「感覚」「興味・関心」などのカテゴリーに分けて記している。
 バラバラの記憶が時系列を無視して思い出されたり、物を見るときに全体よりも部分が目に飛び込んできたり、外に出るとすべての雑音が耳を覆ったり。本書を通して、私たちは自閉症の人たちの行動には必ず理由があること、自分たちには体験できないようなことが自閉症の人のなかで起こっていることを知る。そして、それらは私たちにも身に覚えのある感覚であることだと思う。
「自分の気持ちを相手に伝えられるということは、自分が人としてこの世界に存在していると自覚できることなのです。話せないということはどういうことなのかということを、自分に置き換えて考えて欲しいのです」
 あなたは何を考えているの? と面と向かい合って問いかけることも大切であるが、当事者がいま何を見ているのだろう、どんなことを感じているのだろう、と同じ方向に姿勢を向けてみよう。それによってお互いの共感が生まれるのではないか。
 『自閉症のぼくが跳びはねる理由』の「解説にかえて」を記した英国の作家、デイヴィッド・ミッチェル氏は自閉症の息子をもつ父である。息子を理解する上で大きな助けと励みになったというミッチェル氏が本書を翻訳したところ、世界30カ国以上で出版されるベストセラーとなった。
 2020年には『Reason I jump』というタイトルで映画化されている。東田さんの言葉に救われたヨーロッパ、米国、アジア、アフリカなどに暮らす自閉症の子どもとその親たちの国境を越えた物語だ。ちなみに同作品では、東田さんも携帯しているという文字盤が登場する。当事者がそれを使って自分をケアをする相手にいま何を考えているのかを伝えるシーンがあるのだが、社会福祉法人佛子園では、知的障害のあるウェルネスのインストラクターが文字盤を使って、言葉をもたない人と対話をしていた。
 本書を読んでいたからこそ知った「ごちゃまぜ」の広さと深さだった。(芳地隆之)