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新しい価値観とともに鹿児島で暮らしませんか
医療法人 参天会 副理事長
社会福祉法人 喜入会 理事 事業部統括部長
新田 博之さん
鹿児島市喜入地域を中心に地域医療・地域福祉を担う医療法人参天会および社会福祉法人喜入会がグループを形成する「ニコニコタウンきいれ」は2018年2月、鹿児島市より「生涯活躍のまち」形成事業主体に選定された。グループの責任者である新田博之さんに鹿児島で暮らすことの魅力や生涯活躍のまちとして目指すところをお聞きした。
東京で働くのはブラック?!
「東京銀座の地価の公示価格はタタミ2畳分で1億1,000万円。それを維持するにはそれだけの生産性をもって働かなくてなりません。そういうところで週40時間働くこと自体が私にはブラックに思えます(笑)。だから、東京とは違う働き方や生活の仕方を求めている方に喜入へ来ていただきたいのです」と新田さんは言う。
喜入地域は鹿児島市南部に位置する人口約1万1,000人、面積61㎡のエリア。「桜島はよく見えるが、火山灰は降ってこない絶好の位置」(新田さん)にある。同町で医療や福祉事業を展開する「ニコニコタウンきいれ」は職員数約430人(非常勤含む)、グループ売上は約21億円に上る。「生涯活躍のまち」の主な計画は、①温暖な気候や錦江湾・温泉といった地域特性、アウトドア活動や健康づくり活動が充実している喜入地域の長所を活かした、都会では経験できない豊かな日常、②医療・介護が必要な時に受けられる地域包括ケアによる生涯安心の場、③鹿児島国際大学との連携による多世代交流と生涯学習の場、④既存施設の利活用や空き家リノベーションの展開による多様な居住空間、を提供していくこと。移住世帯数は平成30〜33年度の4年間で30世帯を目標としている。
「ニコニコタウンきいれ」へのUターン者、Iターン者には様々なキャリアをもつ人がいる。
「いま介護業界では肉体労働の部分がどんどん機械化されています。介護で重要な3大要素は、入浴、排泄、食事介助ですが、たとえば『ニコニコタウンきいれ』では入浴介助にも機械のサポートが入るようになっています。単純な作業は機械化、システム化を進め、人でなければできない部分と分けるようにしているのです」
また、「ニコニコタウンきいれ」はパラマウントベッド社と連携し、マットレスの下にセンサーを設置し、体動(寝返り、呼吸、心拍など)を測定している。睡眠状態を把握することでケアプランの改善やスタッフの業務負担軽減、入居者の生活習慣の改善などに役立つ商品を共同研究しているためだ。したがって福祉の専門職以外にもシステムエンジニア、財務、マーケティングなどの専門人材が必要であり、トヨタ系IT企業に勤めていてUターンした30代男性もいる。
介護業界以外の仕事に関しては、参天会の松永崇志さん(生涯活躍のまち推進委員)がコーディネーターとして地元企業との仲介役を務め、行政との連携や地域づくりのキーマンとの関係づくり、移住者がいきいきと暮らせる場を提供する基盤づくりを行っているとのこと。
人と人とが近いまち
鹿児島市は県庁所在地とはいえ、人と人との距離がとても近い。まちで暮らす子どもは礼儀正しく、手をあげて横断歩道を渡り、渡り終わると ひょっこり頭をさげる。「ここはちょっとした挨拶にあふれている」(新田さん)まちなのである。
競争原理とは違う価値観も大切にしたいと思っていますと新田さんは言う。都市生活は競争の日々で、主体性がないと生きていけない。しかし、人間はみんながみんな主体性をもって生きていく必要はないし、そうした競争社会を生きづらいと思う人、ワーク・ライフ・バランスを保って生活したい人、とくに子育て世代は鹿児島市の暮らしが向いているのではないか。生活の質を考えれば、違う見方ができるはずだ。
介護業界の平均年収は360万円といわれているが、同じ給与であれば、東京よりも鹿児島で生活する方がずっと楽だろう。「ニコニコタウンきいれ」では職場結婚が多いという。仕事の苦労やそれが実った時の喜びをお互いに共有できるし、子どもを2〜3人もうけている夫婦が多いのは、お金の面で将来の不安が少ないからである。
新田さんの話を聞いていると、人それぞれの価値観を大切にされている方だなという印象である。同時に経営者としては地域包括ケアの仕組みづくりが急務と考えている。
「在宅介護で大切なのは徘徊の可能性を事前にキャッチすること。家族は不穏な事態を目の前にすると『ならば施設へ預けよう』となってしまいます。要介護1くらいまでは在宅で、リハビリやショートステイなどを利用しながら介護度が上がらないようにしたい。参天会が運営するデイサービス・デイケアの登録利用者数は160人に上ります。なるべく介護保険を使わなくてすむ経営を目指すことで『医療や介護=支出がかさむ』というイメージを払拭できれば、この業界は立派な産業になっていくはずです」。新田さんは力強く語った。
(聞き手:芳地 隆之)