埼玉県秩父市 地域おこし協力隊
吉木 美也子さん

吉木さんは8年間にわたり北海道南部の厚沢部町という小さなまちで、介護付き有料老人ホームの立ち上げから運営まで携わって来られた。その経験を生かし、現在、埼玉県秩父市の地域おこし協力隊として、同市で計画中のサービス付き高齢者向け住宅を中心にアクティブシニアの移住相談の活動をされている。そこで見えてきた課題などについてお聞きした。

花の木プロジェクト

 株式会社コミュニティネットの社員として、首都圏からひとりで北海道の厚沢部という知らない土地に飛び込めたのは「何も知らなかったから(笑)」という吉木さんが、秩父市で取り組んでいるのが「花の木プロジェクト」である。建設予定地が花の木市営住宅に由来しており、かつて市営住宅の平屋が3棟建っていたところに木造2階建てのサ高住20戸を計画している。同じ敷地には地域住民のための交流施設も建つ予定だ。

 「秩父市は東京都豊島区と姉妹都市提携をしており、秩父市長には『サ高住を豊島区民の受け皿に』という思いがあります。ところが、豊島区で延べ80人くらいのニーズ調査を行ったところ、同市への移住に関心を示す方はあまりおられませんでした」

 その際、吉木さんは厚沢部での入居者募集と似ている点に気づいた。

 「当時、私は近隣のニーズがあると思い、函館まで足を伸ばしました。ところが、『厚沢部のような田舎にはいかない』という。豊島区民の『なぜわざわざ秩父に?』というそれに似ていると感じました」

 とはいえ、近い将来、首都圏の介護人材不足で生じるといわれる「介護難民」、地域コミュニティが機能しないことによる高齢者の孤立など、都市生活でのリスクも小さくない。だからこそ吉木さんは秩父市における地域包括ケアの構築にも取り組んでいる。

 「秩父市立病院に地域医療連携室があり、そこのスタッフが地域包括ケアのしくみづくりに取り組んでいて、彼らと話をして意気投合しました。誰もが最期まで自分らしく暮らすことができるよう、推進・連携していきたいと思っています」

多彩な移住者

 花の木プロジェクトの主な移住対象者は高齢者だが、秩父市には多彩な移住者がいて、随時相談に応じている。

 「移住相談センターは、秩父鉄道の秩父駅直結の秩父地場産センター4階にあります。最近、小さいお子さんをもった夫婦がお試し移住体験住宅を利用されました。理由はご主人のアニメ好き。秩父市は『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』と『心が叫びたがってるんだ』の2つのアニメ作品のモデルになったので、それに憧れてとのこと。また、秩父市には秩父札所(秩父三十四ヶ所観音霊場)があり、秩父札所巡りで知り合った夫婦が、思い出の秩父へ移住を希望された事例もあります」

 上記センターを通して今年度は10人程の移住が実現した。そのなかの一人、都内に住んでいた70代のカメラマンは市内にマンションを借りて住みつつ、将来住むために空き家を自分で改修しているという。相談に対応する際、吉木さんが気をつけていることは何か。

 「60歳前後の人には『すぐには引っ越さないほうがいい』と言います。秩父市の寒さは厳しいので、冬を体験するのは必須。他の市町村も見て比較検討する必要もあるでしょう」とマイナス面も伝えること。同時に花の木プロジェクトの説明もする。秩父市へ移住した後、元気でなくなったら、こういう住宅で暮らすという選択肢もありますよ、と。

サ高住の運営を成り立たせるには

 「事業者が20戸のサ高住の運営で採算を合わせるのは容易ではありません。地域事業者と連携し、運営、交流施設、食堂の一部分を障害者の就労支援で担う『福福連携』を模索しているのですが、なかなかパートナーが見つからないのが現状です。利益を上げるには、市内にある空き家を改修してのサ高住も合わせて運営していくことも想定しなければならないと思います。改修型であれば家賃を抑えられるので、地元のニーズに応えられるかもしれません」

 秩父市内をこまめに動き、東京との間を往復する日々のなか、吉木さんの息抜きは何ですか? 

 「秩父市はB級グルメの宝庫です。安くて、おいしくて、ボリューム満点(笑)。大好きなお蕎麦屋さんがたくさんあるのが魅力です」

 秩父は、ロードサイドに全国チェーンの飲食店が並ぶ地方でよく見る風景とは違い、地元のお店がほとんどだという。

 「むかしながらのお店が多いんです。しかも売り上げが悪くて店を閉めるというケースは少ない。外食をする人が秩父に多いのは、地元のお店を守ろうとしているからではないかと思います」

 地元の方から「この店、おいしいよ」といろいろ紹介されるにまかせて出かけるので、「体重計に乗るのがこわい(笑)」とのこと。自分が秩父市に住むとしたら、どのような暮らしを送りたいか、常に想定しながら活動する吉木さんだからこその言葉に耳を傾けたい。

(聞き手:芳地 隆之)