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今月のおススメ本は、アンデシュ・ハンセン著『多動脳 ADHDの真実』新潮新書
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ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)は注意欠如・多動症と呼ばれる。それは集中力を保てない、すぐに気が散る、指示通りにやるのが苦手、人の話を聞けないといった問題を生じさせるが、同時に率先力がある、実行力があり、有言実行、エネルギッシュで、エネルギーが尽きないかと思うほど、クリエイティブで自由な発想ができるという強みにもなる。その「強み」を活かすにはどうしたらいいのかが本書のテーマだ。
みんなで同じ授業を決まった時間に受けるという学校とADHDの相性はあまりよくなさそうだ。著者は多くの患者から、学校が退屈で、わざと授業の邪魔をしたという話を聞いたという。脳の報酬系が活発化しないので、ドーパミンが増えない。だからそれを求めて動き回ってしまうのだ。
自分のなかの衝動を抑制するのは可能だろう。しかし、それは自らのクリエイティブな考えをセーブすることになり、ADHDを起業やスポーツ、芸術に向けて大きな成功を収めるチャンスを逸してしまうかもしれない。
ADHDが起業家精神に大きく寄与するとしても、会社経営に必要なシステムづくりや忍耐力が苦手であれば、自分とは違うタイプを探すべきだ。自分の弱みを埋め合わせてくれる人と一緒に仕事をする。人間も他の動物も、違った特徴を持つ個体が集まっている方が有利であるのは同じである。
本書ではADHDの強みを発揮できるよう運動を奨励している。脳の報酬系は集中力に大きな影響を与える。そこではドーパミンが重要な役割を担っている。運動はドーパミンレルを上げ、集中力を向上させる、いわば脳の天然の薬なのだ。
人類は言葉や道具を獲得し、この先には何があるのかという好奇心から、山を越え、海を渡り、地球を隈なく踏破した。そして全生物における指導的な立場を築いた。私たちの脳は数百万年をかけた進化の結果である。近代から現代までの200年程度で変わるようなものではなく、2万年前に人類がサバンナで暮らしていたころのままだ。天敵を察知するため、周囲のわずかな変化にでも敏感に反応する草食動物、遠くにいる獲物を見つけると、すかさず狩りの姿勢に転じる肉食動物のように、すぐに何かに気を取られ、じっとしていられなかったからこそ、人類は生き延びてこられた。それをネガティブなものとして、手放すのは大きな損失。だからこそ、2万年前から変わらぬ脳の特性を有するADHDが現代も残っているのである。(芳地隆之)