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今月のおススメ本は、鈴木俊貴著『僕には鳥の言葉がわかる』小学館
地球には人間以外にも言葉を交わす生き物がいることを、シジュウカラの研究を通して証明した本だ。
冬の軽井沢の森の中に入った著者は、シジュウカラの「ヂヂヂヂ」という鳴き声の聞こえるところを観察した。そこにはヒマワリの種が撒かれていて、シジュウカラだけではなく、コガラやヤマガラなどの「カラ類」が集まってきて、ついばんでいる。数少ない冬のごちそうなのに、どうして他の鳥を呼ぶのか。疑問に思っていると、シジュウカラが「ヒヒヒ」と鳴いた。とたんに集まった鳥たちは一斉に茂みの中に飛び去る。直後に現れたのは猛禽類のハイタカだ。鋭い嘴と爪をもつハイタカが急降下してきたのである。それを見た著者は、自らもヒマワリの種で検証すると、「ヂヂヂヂ」は「集まれ」を意味し、「ヒヒヒ」は天敵の襲来を告げるものであることがわかった。餌場に仲間を呼ぶのは、たくさん集まれば、多くの目によって頭上の危険をより早く察知できるからなのである。
著者はフィールドワークを続ける。アオダイショウが巣の中の卵やヒナを狙って近づいてくるのを察知した親鳥が、「ジャージャージャー」と鳴くのを聞いて、ヒナが一斉に巣箱から飛び立った。一方、ハシブトガラスが近づくと親鳥は「ピーツピ」と鳴き、ヒナは黙って巣箱の中で身を縮めた。ハシブトガラスが巣箱の中へ入れる嘴に捕らえられないようにするためだ。ヒナは親鳥の鳴き声を聞き分けているのである。
とはいえ鳥の鳴き声が「言葉」であるとまでは言えない。そこで著者がさらに実験を続けると、シジュウカラの鳴き声に論理があることに気づいた。たとえばモズのような小さい猛禽が近づいてきたとき、「ピーツピ・ヂヂヂヂ」と鳴く。するとシジュウカラが集団でモズを取り囲み、威嚇を始める。すなわち、天敵に警戒しながら、集まれ。著者がレコーダーで「ヂヂヂヂ・ピーツピ」と逆の順番で再生したら、彼らは集まってこなかった。
本書では探索の過程が臨場感をもって伝わってくる。著者がお金のないなか、知恵を絞って森になかに入っていくも、食料が尽き、白米だけで数週間暮らす件もおかしい。生き物の研究者がその対象に似るのはなぜかという考察もある。ゴリラの研究者がゴリラに似てくるというように、好きだから似ると思いがちだが、ゴリラに似ているからゴリラを研究する、似ているから親近感をもったのではないかという仮説も。動物好きのあなた、ご自分の顔を鏡でじっくり見てみてください。(芳地隆之)
