大須賀 豊博(おおすか・とよひろ)さん(写真左) 2004年、社会福祉法人「愛知たいようの杜」へ介護職員として入職。 その後、事務長を経て2013年4月より理事長。

聞き手/ 松田 智生 (生涯活躍のまち推進協議会理事)
構 成/ 芳地 隆之(生涯活躍のまち推進協議会事務局長)

古民家を改修した「生きがい支援・どんぐりの杜」

大須賀 地方創生や生涯活躍のまちについて何となく自治体がわかり始めたのではないでしょうか。先進的といわれるまちは困っているからこそ、新しいことに取り組んでいる。困っていないまちは旧態依然のまま。しかし、現実には若い人が出て行ってしまう、このまちで子育てしない。進学や就職で自分のまちを離れると、自分の故郷に思いを寄せる機会が少なくなる。本当は故郷にいたいけれども、離れざるをえない人も少なくないと思います。

森の中の幼稚園

大須賀 動きません(笑)。職員がまちに出たら、住民から文句ばかり言われて、出たくなくなります。ではどうするか。職員が「そんなことを言われても、ぼくにはできません」と住民に答える。「これ、どうするんだ」と住民から投げられたボールを、「どうしたらいいですか」と投げ返してみる。そうすると「予算ないんなら、わしらでやるわ」となるかもしれない。その際に役所には集めた税金を住民の役割とともに戻すという意識があるといい。
 吉田一平は市長の時、住民に「悪いな、すまんな、申し訳ないな、あとはよろしく頼む」で動かしていました。言われた方は「市長に頼まれたら、いやとはいえない。人肌脱ぐか」となりますよ(笑)。その姿を見た市長が、声をかけ、励まし、お礼をいうと、またがんばろうとなる。吉田が首長になり、私が愛知たいようの杜を引き継ぐことになったときも、「悪いな、すまんな、申し訳ないな、あとはよろしく頼む」と言われました。そして「苦労すればするほど、あんたが豊かになる」とも(笑)。
 生涯活躍のまち推進協議会もこの10年間、遠回りしてきましたが、そのおかげで関わってくれる人も増えたじゃないですか。その時間の長さに自治体の首長も耐えなければなりません。事を急ぐと、始めた途端にもめ事が起きます。始める前に「ああでもない、こうでもない」と言っていてから始めても、もめ事は変わりませんが、後者の方が仲間は増えます。

大須賀 シンプルに法人の方向性を伝えるように心がけています。私たちは「遊びをせんとや生まれけむ 戯れせんとや生まれけん」を法人の理念にしてきました。平安時代末期に後白河法皇によって編まれた「梁塵秘抄」の中の歌で、「遊んでいる子を見たら、心も体もわくわくしてきた。子どもは遊ぶために生まれてきた、私たちも遊ぶために生まれてきた。何をするにしても楽しむことを大切にしたい」という意味です。子どもは誰かから遊びを教えてもらうわけではありません。人は誰でも遊ぶ力をもっているのに、それを会社勤めで忘れてしまう。介護の現場でも職員が楽しそうに働いていれば、その姿を見ている高齢者も楽しくなりますよね。まちづくりも同じ。遊ぶ、楽しむ。役場の職員がそんなふうに働いていたら、住民もうきうきしてくると思います。
 リーダーシップに話を戻せば、まず前向きである。「やるよ、いくよ、始めるよ」と音頭をとる。そして誠実である。換言すれば有言実行ですね。相談されたことをほったらかしにしない。それによってリーダーと部下との間に信頼が生まれるのです。