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地方創生は地方経済の活性化を基点に~「地方創生から10年」インタビューvol.13~
内閣官房副長官衆議院議員 尾﨑 正直さん
1967年高知市生まれ。1991年東京大学経済学部卒業。同年大蔵省入省。外務省在インドネシア大使館一等書記官、主計局主査、内閣官房副長官秘書官等を経て、2007年~2019年高知県知事(3期)。2021年衆議院議員(高知2区)当選。国土交通大臣政務官兼内閣府大臣政務官兼復興大臣政務官、デジタル大臣政務官兼内閣府大臣政務官等を経て現職。著書に『尾﨑県政12年回顧録 至誠通天の記』。
聞き手/松田 智生( 三菱総合研究所主席研究員/生涯活躍のまち推進協議会理事)
構 成/ 芳地 隆之(生涯活躍のまち推進協議会事務局長)
松田 高知県知事をご経験された立場、国会議員、そして官邸におられる立場から、地方創生のこれまでの10年、これからの10年についてお聞きしたいと思います。
尾﨑 私が考える地方創生の最優先事項は地方経済の活性化です。それがまずあって、若者の地元への定着や都市部からの移住が進み、東京一極集中が是正される。この順番が重要と考えています。これまでの国の地方創生政策は、生活環境、デジタル化、社会生活基盤、福祉、子育てなど、良くも悪くもいろいろな要素が加わり、「総花的」になっていった感があります。それらすべてを良くしていくための基点は何か、といえば、地方経済の活性化です。高市政権が設置した地域未来戦略本部はそれに焦点を合わせています。
松田 地域未来戦略を実行するに当たって、国が取り組むべきこと、自治体が取り組むべきこと、企業が取り組むべきことがあると思います。なかでも自治体に期待するものは何ですか。
尾﨑 地域未来戦略には3つの柱があります。第一の柱は、国の成長戦略に沿ったプロジェクトを戦略クラスターとして地域で展開するもの。後の2つは、地域発の取り組みです。そのひとつは、地域の中核企業を中心として特定産業分野を集積する地域産業クラスターの形成です。自治体から「〇〇分野のクラスターをつくりたい」という提案を受けて、国が認定し、補助金や設備投資、インフラ整備への支援などを集中投下するというものです。もうひとつは地域の産品の付加価値を上げて、その販路を県外へ広げること。国は海外への販路拡大を支援します。
高知県のように人口減少により経済が縮小傾向にある地方で商圏が閉じていくと、ジリ貧になってしまいます。私は高知県知事時代に産業振興計画を策定しました。いかに外貨――高知県外、ひいては海外から――を稼ぐか。地産外商(県内で採取・生産・製造された商品を県外で流通および販売する取組み)が可能となるような商品の開発やサービスの提供を支援するのが目的です。生産年齢人口が減少していくなかでも経済を拡大させて、一人当たりの県民所得を増やしていけば、若者は地元に残り、故郷を離れた人も戻ってきます。
高知県の経済は平成13(2001)年から、生産年齢人口、労働生産性、県内総生産、一人当たりの県民所得が揃って低下していました。平成21(2009)年に産業振興計画が開始されたのを機に、各経済指標は上昇傾向に転じ、有効求人数も増えていきました。コロナ禍でいったん落ちたものの、その後、再び回復しています。
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ただし、このまま人口が減り続けて、経済指標とのギャップが拡大すると、それがボトルネックになります。だから移住促進は重要なのです。高知県への移住者は、統計を取り始めた平成23(2011)年度の504人から、令和6(2024)年度には2,241人にまで増加しました。一人当たりの県民所得の都道府県ランキングも、平成23(2011)年の46位から令和7(2025)年には39位に上がっています。
日本版CCRCも移住促進の仕掛けのひとつだったと思いますが、今後、期待しているのは二地域居住です。
松田 そのための施策のひとつとして、ふるさと住民登録制度が創設中ですが、成功のポイントはどこにあると思いますか。いきなり移住や長期滞在は難しいので、そのきっかけになるべく、私たちは全国25自治体で「逆参勤交代」という東京圏から地方への期間限定での人の流れを進めています。高知県では須崎市で過去2回の逆参勤交代フィールドワークを行い、来年1月に第3回目を予定しています。逆参勤交代をきっかけに、長期滞在をしたり、副業を始めたりする人が現れます。また参加した大学生がインバウンド誘致のために、英語によるまちの紹介ビデオを作成し、好評を博すという好事例も生まれました。
現在1,000万人がふるさと納税をしているといわれていますが、多くは返礼品が目的で、納税先の地方に行っていないのが現状です。これではふるさととはいえません。たとえば体験型ふるさと納税で、農家の収穫を手伝うというようなこととセットにするのが大切ではないかと思います。
尾﨑 これからは、二地域居住が当たり前のようになってほしいですね。住民票登録ベースでの増加は生産年齢人口のそれにつながります。都市部と地方の知恵が組み合わされることによって新しいものが生まれることも期待できます。ふるさと住民登録制度を普及させるためには、マイナンバーカードの登録や更新の際に勧める、観光で訪れた人に案内する、ふるさと納税と連動して呼びかける、といった方法があるでしょう。
芳地 尾崎さんは「地方創生が総花的になっている」とご指摘されました。生涯活躍のまちは、交流・居場所、活躍・しごと、健康、住まい、人の流れを分野横断的に連携させて進めることを基本としています。それが総花的にならず、地方経済の活性化へと結びつくには何が重要だと考えますか。
尾﨑 地産外商や移住者の受入れを進めるためには拠点が必要です。私が知事の時代には中山間地に集落活動センターをつくっていきました。それによって、たとえば小学校の廃校跡地をべ―スにした民泊やシェアオフィスの運営、デイケア、子どもの学習支援などの活動――室戸市では廃校した小学校の校舎を丸ごと活かした水族館「むろと廃校水族館」――も生まれました。日本版CCRCが目指すような小さな地域交流拠点が高知県内には70カ所くらいあると思います。
松田 東京一極集中は大手町、丸の内、有楽町が象徴的で、このエリアには大手企業の本社が約150社あり、就労人口は35万人に上ります。このマスボリュームを地域の産業クラスターに動かすことで、地域への逆参勤交代が始まり、またサテライトオフィスや第二本社のような拠点づくりが可能になると思うのですが。
尾﨑 高知県知事時代には、県と企業との間で包括協定を結び、社員の皆さんに研修旅行で高知に来てもらう、高知産品を社員食堂で使ってもらうということをしていました。第二本社を設立するには経済的インセンティブが必要です。地域における産業クラスターをつくっていく過程で、大企業との結びつきが生まれてくるので、地方と首都圏とのサプライチェーンをいかに太くするか。地方創生施策で考えていくべきだと思います。
