12月14日(日)、(公社)青年海外協力協会が神奈川県からの委託を受けて運営する横浜市のあーすぷらざ で「ごちゃまぜ映画会」の今年度3回目が開催されました。伊勢真一監督の映画を中心に上映し、その後には同監督と観た人がトークをするというイベントです。

今回の作品は『妻の病ーレビー小体型認知症ー』(2014年製作)および『ゆめのほとりー認知症グループホーム 福寿荘ー』(2015年製作)。どちらも認知症をテーマとしています。

午前中に上映された『妻の病』は、高知県南国市で小児科を開業する石本浩市さんと妻の弥生さんの日常を淡々と追ったものです。弥生さんは50代に若年性の認知症となり、浩市さんの日々には、これまでの小児がん治療と地域医療の取り組みに、弥生さんのケアも加わりました。その10年間を追ったドキュメンタリーです。

ひとりで面倒をみるのは無理だとこぼす浩市さんですが、弥生さんと別々に暮らしていた時期は「本当に寂しかった」。

「認知症とは何か、レビー小体型認知症とはどういう症状なのか、という関心で見られる方には、少し違和感があるかもしれません。これらの作品は、病気にではなく、その人に焦点を当てているからです」

上映後のトークで伊勢監督はこう語ります。

「大手メディアが取材する場合、認知症の症状をカメラに収めようとします。その情報を伝えることを第一に考えるからです。どうしても”それらしい”映像を撮ろうとするので、恣意的になり、その人の本来の姿を見逃してしまうことにもなりかねません」

伊勢監督が浩市さんと出会ったのは映画が完成する15年前。小児がんを体験した子ども、医師や、ボランティアの人たちを描いた『風のかたち』を撮っていたときでした。

「石本さんから、(妻と自分のことを)全部撮ってほしいと。自分と弥生さんのことを綴った日記など、こちらが読んでもいいのかなと思うものさえ提供してもらいました」という伊勢監督は、この作品以外でも、「ここは撮影を止めて」といわれたことは一度もないそうです。同監督が、被写体となる人との関係性をつくってから撮影に入り、その人の人生を映画に残そうとしているからでしょう。

映画の中で、浩市さんは「ぼくは妻が病気になって初めて彼女のことを知った気がする」と言います。病気を発症した弥生さんが浩市さんに寄せたメッセージには「まじめ過ぎないで、少しリラックスして」というような、浩市さんを理解した的確なアドバイスが記されていました。認知症になったからといって、相手のことがわからなくなっているのではないのです。

『妻の病』を見た大学生は「この映画は夫婦のラブロマンスだ」と言ったそうです。見る人の年代、置かれた環境、その時々の悩みや喜びなどで、受け取り方が全然違ってくる。だから人生の節目で見たくなる。そんな作品です。

「みなさん、ちゃんとわかっているんですよ。これまで人生を一生懸命生きてきた人たち。人間は生まれた時と死ぬときは周りの助けがいる。人生の最期を迎えるときは、きちんとした場をつくっておきたい」。この日の午後に上映された『ゆめのほとり』の舞台である認知症グループホーム「福寿荘」の代表・武田純子さんは言います。

映画に登場する福寿荘の入居者の皆さんはリラックスした様子です。

「椅子に座ったまま寝ている人たちが魅力的でね。施設のなかにいい空気が流れているんですよ。それを伝えたかった」という伊勢監督。この映画の最大の見どころは、ひとりの入居者さんが洗面台の前で入れ歯を洗い、うがいをするシーンだと言います。自分なりの方法で、ゆっくり水を口に入れて、ガラガラする。その一連の動作からは、自分で決めたことを、自分でするという尊厳が感じられると。

伊勢監督はかつて、福祉関係者が集まったある上映会で、本作を観た方から「福寿荘のスタッフはジャージを着ていない」と言われたそうです。

「代表の武田さんによれば、スタッフがユニホームを着ると、お世話する側とされる側に分かれてしまうから、そうならないようにみんな普段着でいるそうです。あるスタッフが赤いシャツを着てきたとき、入居者さんのひとりが『すてきね、私も赤いの着ようかしら』と言っていました」

映画の完成試写会を福寿荘で開いたときのこと。完成を待たずに亡くなった方をスクリーンで見た入居者さんのひとりが、「あ、あの人、ここにいたわ」と。

「亡くなった方も映画のなかでは生きているんですね。ぼくの映画は”世の中の問題をあぶりだすような作品ではない”と批判的に言われることもなるのですが、それは人間を描いているからだと思います。だから10年前の作品でも古くなることなく、いまだに上映のリクエストをもらえるんじゃないかな」

こうした話ができるのも、上映後のトークならでは。

「映画は、演劇やコンサートのように、生身の人間が舞台に立っているわけではありません。でも、こうしてつくる側と観る側の対話の場をつくることで、映画にもライブ感が生まれる」と伊勢監督。なぜ自主上映という形式を大切にしているのか。その理由をわかる気がしました。

次回の「第4回ごちゃまぜ映画会」は3月7日(土)に開催です。映画のライブ感を味わいに来てください。