人にはそれぞれの配慮範囲がある。京都大学大学院工学研究科の藤井聡教授らが提唱する「認知的焦点化理論」のなかで取り上げられる考え方で、それは時間軸と人間関係によって決まるという。時間軸は、今のことしか考えないから未来のことまで思いをはせるまで、人間関係は自分だけから身近な集団を超えて会っことのない人を想像するまで。「今だけ、自分だけ」の利己的な人は配慮範囲が狭く、自分が亡くなった先のこと、まだ見ぬ人について考えられる利他的な人のそれは広い。そして、上記の理論に従えば、配慮範囲が狭い人は「自分はなんて運が悪いのだろう」と己の不幸を嘆き、それが広い人は「自分は運がいいなあ」と周囲に感謝する。運とは偶然の産物ではなく、それがなぜもたらされるのか、もたらされないのか、明確な理由があるという考え方だ。
 いきなり堅苦しい物言いになってしまった。今号に登場いただく北海道室蘭市で共生型サービス事業を行っている株式会社由希の皆さんの活動を見ていると、配慮範囲の広さを感じるということを伝えたかったのである。
 だから福祉以外の人たちとのつながりもできるのだろう。
 以前、イオングループの関係者の方から、新たに出店をする際に地元の理解を得るための苦労を聞いたことがある。最近では、とある駅前のMEGAドン・キホーテが閉店するに当たり、建物の利活用が検討されているとの話を耳にした。そして、由希の皆さんがイオンやドン・キホーテと子ども食堂や盆踊りなどを共同開催していることを知った。
 これも単なる偶然ではないのではないか――そう思わせるインタビューであった。