この人はどうしてこんなことを言うのだろう、いったい何がしたいのか、そうした行動をとるのはなぜだ――私たちは意識的、あるいは無意識に相手の心を読もうとする。「〇〇したら相手は喜んでくれるのではないか」と試して、うまくいったり、逆に怒らせてしまったり。喜んでもらえれば、お互いのテンションは上がるけれども、相手の機嫌を損ねてしまったらどうしよう、やめておこう、となると、相手を知るせっかくのチャンスを逸してしまう。
これは恋愛の話ではない。役場の職員のことである。
普段の生活で役場に行く機会はそれほど多くないだろう。各種の申請、あるいは困りごとの相談。たいてい事務的な対応を受けて終わる。そこで「よかったですね」とか「たいへんだったのではないですか」とか、一声かけられるかどうかで、住民の役場に対する見方、ひいては自分たちの地域に向ける関心まで違ってくる、と福岡県小竹町の井上頼子町長はいう。
なるほど、相談しにいった役場の窓口で、職員がこちらの話を真摯に聞いてくれたら、うれしい。井上町長によれば、そんな空気をつくれるような職員を育てることが町の前進につながるのである。井上町長の話はときに福祉の現場を語っているようにも聞こえた。しかし、考えてみれば、人を知ること、育てることに、ジャンルの違いなどない。
人が人としてのベースに何を置くかという話である。