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人の移動がオープンイノベーションを生む~参議院議員 鶴保 庸介さん~
生涯活躍のまちの要素のひとつである「新しい人の流れ」をいかに実現していくか。東京一極集中が止まらないなか、制度を通して変えていこうと、二地域居住を提唱しているのが国会議員の鶴保庸介さんです。社会課題の宝庫である地方にはビジネスチャンスがあるという鶴保さんに、その真意をお聞きしました。
鶴保庸介(つるほ・ようすけ) 1967年大阪府生まれ。1992年東京大学法学部卒業。衆議院議員秘書を経て、1998年7月参議院選挙和歌山選挙区より最年少初当選。2017年内閣府特命担当大臣、2018年参議院資源エネルギーに関する調査会長。主な職歴は国土交通大臣政務官(2期)、参議院厚生労働委員長、参議院決算委員長、参議院議院運営委員長、国土交通副大臣。著書に、これまでの活動を振り返り、日本の未来、これからの展望について語った『掟破り』(かざひの文庫)等がある。
聞き手 :松 田 智生( 株)三菱総合研究所主席研究員(、一社)生涯活躍のまち推進協議会理事
構 成 : 芳地 隆之( 一社)生涯活躍のまち推進協議会事務局長
現代の「富国」とは
松田 鶴保さんは、地方創生の実現に向けて、どうして二地域居住の必要性を考えるようになったのでしょうか。
鶴保 西洋に追いつけ、追い越せを目標に日本が富国強兵に取り組み始めた明治時代は、東京一極集中、全国の標準化が効率的でした。現代社会においては、私たちにとって本当の意味での「富国」が、一人ひとりがいかに幸せに生きるのかであるにもかかわらず、国民の個々人の生活や心の豊かさは、なおざりになっていないかという問題意識がありました。
子どもたちがふるさとを離れ東京で活躍する姿を、お父さん、お母さんは、もう帰ってこないかもしれないのに、目を細めて遠くから眺めている。右肩上がりで経済が成長している時代ならば、それでもよかったかもしれません。ところが現在は東京と地方の間に経済の仕組みの格差――地方におけるDXの遅れ、人手不足など――が拡大しています。産業が成り立たないような社会課題が存在しているまま、国民経済が回るのか。深刻な状況であるといわざるをえません。
東京に住む多くの人は首都での暮らしを満喫しています。苦労して上京し、功成り名を遂げたことがステータスになっている。その価値観を翻すことは容易ではありませんが、近年、「今のままではいけない。私たちは地方で暮らしたい」という思いをもつ人が増えてきた。それを実現するためのメッセージとしてつくったのが二地域居住の法案(2024年2月9日に閣議決定された「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正する法律案」)です。
松田 鶴保さんは自由民主党二地域居住推進議員連盟会長を務められています。
鶴保 私が呼びかけて、立ち上げた議連は5つほどあるのですが、なかでも構成メンバーが最もやる気になっているのが二地域居住推進議員連盟です。制度設計はスピード感をもって進められています。
松田 日本で二地域居住をされている最たる存在が国会議員だと思います。和歌山県選出である鶴保さんは地元をどのようにご覧になっていますか。
鶴保 もちろん地元はいいなあと思うのですが、一方で、東京圏と比べて経済や教育の面での遅れが人材育成にとってのマイナスにつながっているという危機感をもっています。
地方でこそ生まれるオープンイノベーション
松田 高齢化が進展し、人口が減少していく日本の各地で、私たちは多世代が、障害のあるなしにかかわらず、ごちゃまぜで暮らすコミュニティの必要性を提唱し実装を進めています。関係人口の拡大という点からも、ごちゃまぜと二地域居住の親和性は高いと思います。
鶴保 いろいろな人がごちゃまぜになると、これまでになかった情報や考え方が持ち込まれて、新しいものが生まれる。オープンイノベーション※1です。かつては東京がその中心でしたが、現在は情報通信が平準化しています。ごちゃまぜがこれから活きるのは地方でしょう。
※1 企業が自社の技術やアイデアに固執せず、外部リソース(知識、技術、人材)を積極的に取り
入れ、自社の資源も外部に開放して、革新的な価値を共創するビジネス手法。
松田 先日訪れた北海道の上士幌町は人口4,000人ほどの規模ですが、内閣府により「SDGs未来都市」に選出されています。バイオマス発電などによる再生エネルギー自給率が1,000%、食料自給率が1,000%という先駆的な自治体である上士幌町の役場には、大手のコンサルティングや通信企業の社員が常駐しています。総務省の地域活性化起業人の制度で派遣された若手は、上士幌町が経済産業省や国土交通省と連携して進めている自動運転プロジェクトに携わったことが町長に評価され、現在はデジタル推進室で活躍している。よそ者が入ることで、担い手が増え、新たな知見を活用し、地域によい化学反応が生まれた例といえるでしょう。二地域居住を「働くこと」とセットにし、地元の自治体での政策推進や地元企業の販路開拓、事業承継のサポートをする可能性はあると思うのですが、いかがでしょうか。

社会課題はビジネスチャンス
鶴保 地方は社会課題の宝庫です。事業承継や企業の再生など、どうやっていいかわからないという地元企業の経営者に首都圏の社員ができるアドバイスはたくさんあるのではないでしょうか。公共事業におけるB/C※2のBenefitには、直接経済効果しか計上されていませんが、外部の経済効果や将来の見通しも入れるべきだと思います。
※2 費用便益比=Benefit/Costの略称。事業にかかる「コスト」に対し、社会的・経済的な「便益」がどれくらいかを示す指標。
松田 現在は東京一極集中が進んでいますが、江戸時代の藩別の石高を見ると、加賀藩がダントツで、島津藩、伊達藩が続いているというように、地方分権が進んでいたといえます。
鶴保 各地の人材が自らの経験値を活かして国をつくっていったのです。松田さんは逆参勤交代を提唱していますが、現実には地方から東京へ出ていった子どもに両親がなけなしのお金を仕送りしている。だから東京は小学校の給食費や小中高生の医療費、さらには夏の期間における水道の基本料金の無償化といった行政サービスができる。「石高」が東京に集中してしまった結果です。
松田 現在、東京の大手町、丸の内、有楽町エリアには上場企業130社が本社を構えています。就労人口は35万人、これらの企業の連結の売上高が155兆円にもなります。この一極集中が明治時代以降の制度によってつくられたものであれば、地方分権は制度によって見直すしかないのではないでしょうか。二地域居住は自治体にとって歓迎すべきものだと思いますが、二地域居住をしたい人、そして彼らを送り出す側の企業にとってのインセンティブがあるとすれば何だと思われますか。
鶴保 まずは都市から地方への移動支援。次に、住まい物件探しから維持管理、移住・生活開始に至るまでの手続きを行う代行支援、そして行政サービスの平準化です。そこまでは私たちの世代で道筋をつけようと思っています。
最終的な目標はそれらを地方の側ができるようになることであり、現在、ふるさと住民登録制度の設計を進めています。ふるさと支援をしたいと思う人が登録して納税し、それに対する税金面での優遇措置を設ける。そして登録した人には「わがまちに来てください」と声をかける。それが移動支援につながります。
松田 二地域居住のような住まい方は、未来人材にも適用できると思います。東京では中学校受験が当たり前になっていますが、地方であれば、旧制中学校など公立高校の存在感が大きく、東京よりも子どもたちは小学生時代を伸び伸びと過ごせるのではないでしょうか。そして、大学では東京圏の大学と地方大学で単位交換制度を導入し、「この単位は〇〇県の〇〇大学で取得できる」として、学生が一定期間、地方に滞在できるようになれば、全ての世代で良い人材循環が起こるでしょう。
鶴保 大学のレベルの違いなど超えるべきハードルはありますが、サービスの平準化にはそうした制度設計も含まれています。
松田 二地域居住の推進には、経済界の理解と支援が不可欠です。経団連や商工会議所、経済同友会の企業経営者が率先垂範していかないと、日本は変わらないのではないでしょうか。
鶴保 ご自分のふるさとで住宅団地を開発した地方の企業の社長さんが、「こんなにいいところなのに入居者が集まらない」とぼやくので、私は「そんなにいいところなら、社長が自ら住むべきじゃないですか」と言いました(笑)。半分冗談ですが、半分本気です。
二地域居住は移住ではありません。東京での生活を捨てましょうと言っているのではなく、東京に居続けることでビジネスチャンスを失っていませんか。二地域居住はそうした問いかけもしているのです。
