「なぜ高齢者の居場所づくりに失敗するか。当事者として聞かれる70代の人たちが、自分は高齢者だと思っていないから。この世代の人が『高齢者』として思い浮かべるのは80代。だからズレが生じて、誰も集まらない」
著者が講演でしばしば指摘する点である。「あなたは自分を高齢者だと思うか」という内閣府の調査によれば、70~74歳では、そう思う人と思わない人が伯仲しているという。「年金をもらう虚弱な高齢者とみなされて、バスは無料、博物館や動物園は無料といった枠に一律に入れられるのは嫌だと考える人も多い」そうだ。
 高齢者に対するステレオタイプの見方を早急に見直すこと。「Ⅰ部団塊世代が変える高齢者像」でそこが押さえられていることで、「Ⅱ部 地域包括ケアシステムの理念と実際」「Ⅲ部 当事者とともに創り出す高齢社会のまちづくりモデル」へとスムーズに進み、本書は広がりと深みを見せていく。
たとえば、Ⅱ部では、在宅医療を含む地域包括ケアシステムを考えるに当って、まちを病院にみなす視点を提示される。そうすると、我が家が病院の病室となり、家の前の道路は病院の廊下になる。ICTやTV電話システムはナースコールとして使えるだろう。ところが著者はここで留まらない。Ⅲ部では「それでもやっぱり施設がいい」という声をあえて設定し、それをどう超えていくか。フレイル予防、生活支援体制整備事業、社会的交流・社会参加の場といった切り口から可能性を探っていくのである。コンパクトシティは高齢者の多様なニーズに応えていくことで浮かびがっていくものと語るくだりは目からウロコ。シニアの働く場としての同好会、コミケ、サブカルチャーに注目するところも思わず膝を叩く。
読者に様々な見方を提供する本書に通底しているのは「自分らく生きる自己実現機会が平等であると感じられる社会をどうつくるかという問題意識であり、「世界中の国が、社会保障のあり方とともに中堅所得層の自己実現を視野に入れた高齢社会に取り組まなければならず、日本が世界に向けて新しいまちづくりを提案していく」という使命感だ。情報量は豊富で論理展開は明晰。とはいえ、しかつめらしく論じる本ではない。著者の講演のように、人々の暮らしのリアルな感覚を共有しながら、ときにずばりと核心を突く。コラムやエッセイを読む楽しさも感じられる。本書は、まちづくりに携わっている方、これから何を始めたいという方、何となく関心のある方、すべてのニーズに応えてくれる内容になっている。ご自宅や事務所の書棚に常備していただきたい。 (芳地隆之)