障がい者が主体的に生きるにはどうすればいいか。社会福祉法人素王会ならびに知的障害のあるアーティストの作品を国内外に発信する「アトリエ インカーブ」代表である今中博之さんは、「市場とつながること」だという。狭くて逃げ場のないコミュニティは差別がはびこりがちだが、選択肢の多い市場では「差別をしない取引」が可能だからだ。元厚生労働省次官、現在は全国社会福祉協議会会長を務める村木厚子さんの「(中略)素晴らしい福祉を展開している人は、必ずといっていいほど福祉の外の世界の人と上手につながっている」を実践している方である。
 高度な専門知識が必要とされるにもかかわらず、社会福祉がプロの仕事として認められず、収入も低いのはなぜか。今中さんがある大学教授と議論をした際にたどり着いた答えが「『生活に困っている人』たちを対象としているからではないか」だったという。社会福祉を対象とするのはお金持ちでも、権力者でもない。世の中からこぼれ落ちそうな人、こぼれ落ちしてしまった人だ。しかも子育てや介護を主婦が無償でやってきたことから、プロではなく、アマチュアでもできるという偏見が生まれてしまった。しかも職員の収入増は国民負担増に直結すると思われる。いい材料がない。
 しかし、日本では17人にひとりに障がいがあるといわれている。発達障害や難病を入れると10人にひとり、障がい当事者やその家族を含めると5人にひとりの割合になる。マイノリティではない。そう考えると村木さんが本書で紹介する、ある会社の社長の言葉はかぜん活きてくる。
 「僕たち、社長の仕事というのは、社員のいいところを見つけて、そこを最大限に発揮してもらって、会社に貢献してもらうことなんだ。その意味では、障害のあるないは全く関係ない。みんな社員という意味では同じなんだ」
 本書に通底しているのは福祉の「越境性」である。「アトリエインカーブ」がアートの第一線で活躍する人材を輩出しているのがいい例だ。村木さんが福祉に携わる人に「制度にないサービスを生み出す」こと、「そのために必要な分野の専門家とつながる」ことを求めるのは、それによって福祉のもつ可能性が広がるからだろう。
 かつての郵便不正事件の冤罪で大阪拘置所に拘留されていた際、若い女性たちが薬物や売春の罪で服役している姿を見て、少女や若年女性を支援する「若草プロジェクト」の代表呼びかけ人となった村木さん。自身のハンディキャップをものともせず、ソーシャルデザイナーとして活躍する今中さん。本書のタイトルの意味を考えるに相応しいお2人だと思う。 (芳地隆之)