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今月のおススメ本は、サン=テグジュぺリ著『星の王子さま』角川文庫
本書を読んだことはなくても、タイトルは知っているという方は多いだろう。私は半世紀近く前、小学校高学年の時に学校の図書館で借りて読んだ記憶がある。
主人公の飛行機乗りである「ぼく」が6年前に不時着したサハラ砂漠で、地球とは違う惑星からきた小さな少年(ぼくは彼を「ちび王子」と名づけた)と出会った。そのときのことを回想する形で物語は進む。ちび王子はこんなことをぼくに語る。
「薔薇色での煉瓦でできたきれいな家を見たよ。窓にはゼニウムが咲き、屋根には鳩がいた……」という説明をしても、おとなたちは想像できない。「十万フランもする家を見たよ」といって初めて「なんてすてきな家だろう」と感嘆する。子どもはそうやっておとなを甘やかしているんだと。おとなたちの「所有」の概念のおかしさなども指摘するちび王子との会話を通して、ぼくは子どものころにもっていて、いまでは失っていた感性を呼び覚まされる。そして読者も、長い月日のなかで凝り固まっていた発想から少しずつ解き放たれる。
本書は、当協議会副会長の大須賀豊博さんから進呈された。愛知県長久手市で多世代が交ざって暮らす「ゴジカラ村」を運営する社会福祉法人愛知たいようの杜の理事長でもある。ゴジカラ村には、その言葉のとおり、「夕方5時から」という意味がある。大須賀さんの言葉を借りれば、「夕方5時までは会社などで効率や数字、成果が求められる時間。一方、5時からは仕事が終わり、開放される時間。『ゴジカラ村』は時間に追われないところ。『時間に追われる国』が会社、学校、病院、役所などとすれば、『時間に追われない国』は地域や家庭。後者では雑木林で子どもたちが遊んでいる、おじいさん、おばあさんが若者を叱ったり、子どもたちの面倒をみたりしている」
ちび王子がぼくに、ある星の住民であるじいさんのことを話すくだりがある。計算以外に興味がなく、自分は真面目な人間だと言い募る、そのじいさんはうぬぼれやだと。じいさんは「時間に追われる国」の人の典型なのだろう。
今回、再読して、子どものころにはわからなかった発見がたくさんあった。と同時に、子どものころには面白かったり、不思議に思ったりしたところを素通りしているのではないかとも思う。年齢とともに自分が強く感知するものが変わる。発刊から80年を超えた今でも世界で読み継がれている理由だろう。(芳地隆之)