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今月のおススメ本は、人口戦略会議著『地方消滅2 加速する少子化と新たな人口ビジョン』中公新書
このままでは全国869の自治体が消滅するという日本創成会議(座長は増田寛也氏)が発表した、いわゆる「増田リポート」が衝撃をもって受け止められたのは2014年5月だった。その後、このリポートをベースとして増田寛也氏が編著者として刊行したのが『地方消滅』(中央公論新書)である。地方創生が起動するきっかけとなった。本書はそれから10年を経ての第2弾である。
日本全体の人口減少と東京一極集中がさらに進んだのは周知のとおり。本書は、この間に成し遂げた成果を評価しつつ、2100年に日本の総人口が8,000万人の規模で定常化するため、実質GDP成長率および一人当たりのGDPを試算し、ゴール設定をした上で、実現のために必要な政策を提言する。
現在のライフサイクルを見据えた子育て支援、人への投資、永定住外国人政策など取り組むべき人口戦略は多面的だ。人への投資のなかでも、教育費用の個人負担軽減(公費による支援)、子育て世代が子育てや学びに使える「可処分時間」の増加は必須だろう。夫婦の分業ではなく協業、子どもを持っても妻の収入が大きく落ち込まないような、子育て期の収入下落を社会が補うべきとの指摘も真剣に受け止めたい。人口減少への危機意識の希薄さは、1990年代に多くの国民の生活に深刻な影響を与える不良債権問題が放置されたことに重なると警告されている。
こうした対策の数々をなぜ民間による人口戦略会議が行うのか。第6章「今が未来を選択できるラストチャンス」で同会議議長の三村明夫氏(日本製鉄名誉会長)と副議長の増田寛也氏(野村総合研究所顧問。本書発行時点では日本郵政株式会社社長)が対談において、人口減少への危機意識を国民全体で共有するため、同会議をあえて民間主導で立ち上げたと語っている。
2014年に内閣府に設置した「まち・ひと・しごと創生本部」の地方創生施策が、地方における人口の自然減(出生率が上がらず死亡者数が上回る)と社会減(若者が地方から離れていく)の2つの同時解決を目指すものだったことは大いに首肯し、今後の課題は「国民全体を巻き込む運動論」(増田氏)、「政権がどう変わろうと、長期にわたってみんなで同じ方向を向いて努力し続けられるような仕組み」(三村氏)という指摘に意を同じくした。
不都合な真実から目を背けてはいけない。地方創生が新たなフェーズに向かうに当たり、私たちが担うべき未来の責任を改めて問う書である。 (芳地隆之)
