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今月のおススメ本は、伊藤絵美著 細川貂々イラスト『セルフケアの道具箱 ストレスと上手につきあう100のワーク』晶文社
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ストレスがたまって苦しい、人間関係で疲弊している、先行きが不安など、人は誰でも、大なり小なりメンタルに負担がかかっている。それは時に前向きなエネルギーへと転化することもあるが、放ったらかしておくと、心身がどんどん低下していく。落ち込みを止め、どうやって回復に向かわせるか。約30年にわたって、心理学を学び、多くのクライアントにカウンセリングを提供してきた著者が、そのための方法を記した本だ。
きわめて具体的である。とりあえず落ち着くために、手を使って体をなでたり、トントンしたり。大きな布やストールや毛布にくるまったり。まずは精神よりも身体をケアすることからスタート。そこから自分の周りに心を向け、ちょっとした顔見知りの人を思い出したり、自分とつながる人や機関を書き出したりをしながら、苦しみの本質に近づいていく。ストレッサーとは刺激、出来事、変化など、ストレスの元になるものだ。それが何なのか。それによって自分がどんな気持ちになるのかを言葉にしてみる。するとこれまで自分の中に巣くっていたストレッサーが目の前に現れる。ネガティブな言葉は自分がイメージする壺のなかにまとめて捨ててしまえばいい。この域に達すれば、自他の双方から投げかけられる呪いの言葉を希望の言葉へ変えることもできる。そして大人になっても誰にでもある「内なるチャイルド」を大切に。ときどき声をかけたり、励ましたりしてあげよう。
100のワークを通していえるのはアウトプットの大切さだ。自分の置かれた状態を言語化することは、少し距離をとり、離れた視点から自分を客観的に見ること=メタ認知につながる。自分の悩んでいたことってこういうことか、苦しみの出どころはここにあったのね、たいしたことないかも――ストレスや心身の不調の原因を知ることだけでも、人はずいぶんと楽になる。
著者が本書を書いていた2019年後半、家族が重大な病気で倒れ、自分はフルタイムで働き、夏に熱中症にかかったことで心身に数々の不調が起きるなど、「こんなんだったら、死んでしまってもいいや」と思う日々が続いたという。そこで自身の専門とする臨床心理学、ストレス心理学、認知行動療法、スキーマ療法などを使ってセルフヘルプをできるよう、自分を応援するつもりで執筆したそうだ。なるほど、ここに記された100のワークが読む側の身体感覚にも訴えるのは、著者が本気で実践していたからなのであった。(芳地隆之)