生涯活躍のまち推進協議会
雄谷 良成(会長)× 高橋 英與(副会長)

平成26年末に閣議決定され、今後5年の目標や施策、基本的な方向性が提示された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を受けて、各自治体が地方創生に取り組み始めてから、平成30年度が中間地点に当たる。(一社)生涯活躍のまち推進協議会は、地方公共団体に「生涯活躍のまち」の考え方と実践について啓発していくこと、そのための会員制度を拡充していくことを課題とした。そのキックオフの意味合いもある本セミナーの概要を報告する。

 2018年3月15日、一般社団法人生涯活躍のまち推進協議会(以下、推進協議会)の設立2周年を記念し、「官民連携セミナー 生涯活躍のまち」が開催された。

 それに先立つ推進協議会理事会で、会長の雄谷良成より以下のような趣旨の発言があった。

「内閣官房まち・ひと・しごと創生本部が行った「平成29年度『生涯活躍のまち』に関する意向等調査結果」によると、平成29年10月1日時点で「生涯活躍のまち」の推進意向があると回答した地方公共団体は245団体、うちすでに取り組みを開始していると回答したのは114団体。さらに分類すると、❶推進協議会が直接もしくは間接に関わっているところ、❷関わってはいないもののある程度の動向がわかっているところ、❸動向が掴めていないところに分けられる。❶は「生涯活躍のまち」がどういうものであるかを理解し、構想や基本計画を策定している。❷はその方向性がオープンにされている。❸は未策定。来季以降、懸念されるのは、❸において、本来の「生涯活躍のまち」とは似て非なるまちづくりが進んでいくこと。国が目指す「生涯活躍のまち」に悪影響を及ぼしかねない。したがって、推進協議会にとっては、それら地方公共団体に、「生涯活躍のまち」の考え方と実践について啓発していくこと、そのための会員制度を拡充していくことが不可欠である」

 そのためのキックオフの意味合いもある本セミナーの概要を報告したい。今後、各地域が自らの自然環境、産業基盤、生活文化などの特長を生かした「生涯活躍のまち」を進めるヒントとなれば幸いである。

小さな失敗が成功への道

高橋 われわれが関わった9つの自治体で生涯活躍のまち構想が具現化している。小さな失敗を繰り返し、もがいている自治体や事業者ほど地方創生を成功に導いていくことがわかった。
 「官民連携」「民民連携」という言葉は美しいが、実際には泥臭い活動である。官民連携は基礎自治体との関係、民民連携においては大企業と中小企業とのそれに難しさがある。
 地方創生において、国、県、自治体、大手企業、中小企業、そして住民とどうやって連携していくかは大きな課題。地方創生は施設でなく、まち全体をどうやって創り出していくかというもの。したがって、移住が先ではなく、地域のコミュニティづくりが先となる。地域コミュニティが魅力的であれば、人は移住するということがこの間の取り組みでわかってきた。
 自治体との関係は、事業の進め方で齟齬が生じた。自治体の事業の進め方は年度ごとであり、初年度は計画、翌年度は立案、そして実践というように単年度単位で進められる。一方、民間が行う実際の事業はこれらを平行して進めていく。そんななかで喧々諤々やってきたが、それを対立構造にもっていかず、相手の論理を受け入れることで、関係性が改善されてきた。
 大手企業と中小企業との関係についていえば、中小企業が下請けになる形だとうまくいかない。両者は対等にパートナーシップを組むべきだが、なかなか思うようにいかないのが現実だ。

ライフ・シフトにおける人生の送り方

雄谷 小泉進次郎・衆議院議員が事務局長を務める「人生100年時代構想会議」(人生100年時代を見据えた経済・社会システムを実現するための政策のグランドデザインに係る検討を行うため設置)が注目を集めている。
 現在、日本人の平均寿命は85才だが、先進国で生まれた子供の過半数は今後、105才まで生きるといわれている。生まれて、教育を受け、仕事をし、引退するというこれまでの人生のスパンが20年以上長くなるわけで、その年月をどう生きるかを見つめなくてはいけない。
 「生涯活躍」はマルチステージであり、従来の教育、仕事、引退という3ステージでは終わらない。地域で生活していくなかで、支え合い、ボランティア活動をする、もう一回働き始める、教育を受けるなど、いろいろなステージがあるのではないか。
 (人口急減、超高齢化という課題解決のため内閣に設立された)まち・ひと・しごと創生本部の基本目標は「1番は地方に仕事をつくる、2番は人の流れをつくる、3番めにまちをつくる」とされているが、 「生涯活躍のまち」とは「ひとを集める技術」と考えることもできる。ひとが集まれば、消費も進み、しごとが生まれる。

重度の認知症の方も「ごちゃまぜ」の中で子どもを片手で抱きしめている。─雄谷良成

おおや・りょうせい●金沢大学卒業後、青年海外協力隊(ドミニカ共和国)に参加。帰国後は北國新聞社、金城大学非常勤講師を経て、社会福祉法人佛子園理事長に就任。「生涯活躍のまち」のモデルとされる石川県のShare金沢をはじめ、全国で新しい地域づくり事業を推進している。公益社団法人青年海外協力協会(JOCA)会長も務める。

 しごとを創るのが難しいと皆さんは悩むが、地方の雇用を牽引しているのは福祉と医療だ。2008年から日本は人口減少に転化したものの、福祉と医療の分野はまだまだ元気。同分野は人が相手なので、人を集めていくと地域は元気になる。これが生涯活躍のまちの交流人口、関係人口の考え方である。ちなみに人口11万人の石川県白山市の交流人口は1,000人/日に上る。
 いろいろな人をどうやってコンパクトにまとめていくかが生涯活躍のまちの肝だと思う。

人と人との交流が幸せの素

雄谷 自分は「ひと」ありきと思っている。生涯活躍のまちで一番留意しているのは社会関係資本。「ひとが他者を信頼ができる」ということは幸福感の大きな要素のひとつだ。
 地域のなかでいろいろな人——子ども、高齢者、認知症の方、若者、障がい者、外国人——誰もが関わりあいながら、家族でなくても誰かが見守ってくれていると思えることが大切だ。7年間引きこもりだった人が「ごちゃまぜ」のなかに入ったら、それ以降1度もしごとを休んでいない。重度の認知症の方も「ごちゃまぜ」の中で子どもを片手で抱きしめている。ADHD(注意欠陥・多動性障害)をもった人でもいられる。人は人と交わるだけで健康になれるのだ。
 たとえ人がいても、そこが楽しくなければ、定着はしない。人はどういった局面で「楽しい」「幸せ」と思うのか。Share金沢のカウンターバーでは元気な人、身体の悪い人、執行猶予の人、さまざまな人が普通に飲んでいる。特別なことではない。
 誰にでも手を差し伸べるひとがいる、ということが生涯活躍のまちの本当の理念。誰もが社会的に排除をされないということだ。
 高橋さん、9つの市町村で成功したとのことだが失敗した例はあるのか。

高橋 失敗を積み重ねた結果、成功に向かっているということ。自治体の意向に沿うことができず、「コンサル料を下げる」と言われたこともあるが、こちらが一歩引くことで地域に自立心が生まれる。それによって自治体と地元事業者がまとまり事業が一歩進むということがわかった。

雄谷 地方創生は、計画段階は自治体が行い、実施段階における事業は民間が担うケースが多い。全国いろいろなところと関わっているが、計画を立てても議会の動きがなかなかとれず、後送りになるという問題がある。

高橋 自治体は国からの交付金をもらうと計画づくりを進めなくてはならない。コンサルティング会社などへ委託をするが、彼らは事業の経験がないので、事業化が難しい構想をつくってしまう場合もある。さらにその構想は、実態に即した地味なものよりも、議会には通しやすい面もあるので厄介なのだ。
 計画の実行段階になっても、地元事業者は誰も手を挙げない。現状の仕事で精一杯なので、地方創生まで手が回らないのである。かといって、地方に入って事業をやろうという大手企業も少ない。したがって、計画段階で事業が止まっている自治体が少なくないのだと思う。

雄谷 最近おもしろいと思うのは「人生100年時代構想」など、少子高齢化をネガティブなものとして捉えないようになっていること。高齢者、障がい者など、いままでは世の中から排除されてきた人にも居場所ができるなど、決して悪い方向に進んではいない。
 自治体だから、民間だからではなく、互いに垣根を越えて一緒にやっていけるようになってきた。最近、海外からの取材が増えているが、フランスでは、「ごちゃまぜ」のようなところはないという。たとえばレストランでは階級別に棲み分けがなされている。

高橋 都市部で自治体と連携することはとても難しい。地方の自治体ほどうまくいくことが多い。「このままでは消滅する」という危機感が強いからだ。
 自分は自治体に直接意見をぶつけてきたが、それだと対立構造になりがちだ。最近は自治体のニーズを汲み、困りごとを捉えるマーケティングを行うようにしている。それで少しずつ自治体との連携がうまくいくようになってきた。

言わない、やらない技術

雄谷 主体がどこにあるかということは非常に大切だ。主体を住民に持っていくプロジェクトサイクルマネージメントという方法がある。国際協力のなかでJICA(国際協力機構)などが使っている。たとえば発展途上国にわれわれが助けに行くだけでは何にもならない。自国の人が自らの力でやらないと意味がない。それは地方創生も同じ。
 われわれは「言わない、やらない」技術をもっている。佛子園やJOCA(青年海外協力協会)はそれなりに実績を上げてきているので、相手に「やってくれる」という期待感が高まる。それに応えてしまうと、主体がこちらに移って、とっかかりからズレが生じてしまう。
 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部の生涯活躍のまちの先駆的プロジェクトとして、平成27年から石川県輪島市で5ヵ年計画が始まった。今年が3年目で、ちょうど中間地点。生涯活躍のまち形成支援チームの対象自治体にも選ばれた輪島市では、空き家を使った拠点施設や、温泉を堀って皆さんが集まる場所をつくった。全世代対応の福祉サービスの拠点施設のほか、家賃6万円で最低年金でも入れるサービス付き高齢者向け住宅、障がいのある方のグループホームもつくっている。
 オーナーが高齢でやっていくことができなくなった居酒屋だった店舗にグループホーム、ゲストハウス、障がい者施設など「ごちゃまぜ」をつくろうというのがきっかけだった。今後は認知症の方や、虐待などから避難する受け入れ先も空き家を使ってつくっていく予定だ。
 空き家の改修には、地方創生交付金、国交省の空き家対策の補助金が使える。福祉事業であれば施設整備のそれも使えるから、特別な借金はしていない。
 人口2万8,000人、高齢化率60%超の輪島市で行っている取り組みが他の地域に適用できるかというとそれは別。その土地に応じて、「まち」が先か、「しごと」が先か、あるいは「ひと」が先かが、違ってくるからだ。
 自分たちがもっているのは人を集める技術。子どもも、若者も、高齢者も、障がいがある方も、認知症の方も分け隔てなく集める。人が集まるところには必ず商機、しごとが生まれる。人が集まるところには社会保障、最低限の仕事が生まれる。

高橋 地域をプロデュースする人材が必要だ。コミュニティネットは社員を地域プロデューサーとして1人で地方に入り込んできたが、失敗した。2〜3人のチームでやらせればよかったと思っているが、人材不足が大きな課題となっている。若者無業者(ニート)やシングルマザーなど、埋もれている人材をどうやって発掘していくか。そのための仕組みをつくっていきたい。外国の人材をどう日本に定着させ活用していくかも課題だろう。

実際には、とても泥臭い活動。─高橋英與

たかはし・ひでよ●岩手県花巻市生まれ。コーポラティブハウスや有料老人ホームづくりを経て、㈱コミュニティネット前代表取締役。地域に開かれた自立型高齢者住宅を運営するとともに、団地・駅前・過疎地再生事業に携わる。地方創生の最前線に立って事業を展開している。

高橋副理事長が関わるプロジェクト紹介

上士幌町(北海道) 2017年9月に町内商店街の一角にまちづくり会社、株式会社生涯活躍のまち かみしほろが設立。地域包括ケアの確立、活動の場や交流拠点の創出、移住の促進などの活動を行っている。

厚沢部町(北海道) 町の中心部から少し離れた温泉地区において、地域交流センターおよびお試し住宅が完成予定。 

雫石町(岩手県) 小岩井農場に隣接する町有地に地域交流センターやお試し住宅が完成予定。同じエリアにサ高住の建設も計画されているほか、空き家バンク制度の利用や定住促進住宅への入居も勧めている。

佐久市(長野県) 地域医療のパイオニア的存在である佐久総合病院を擁する臼田地区の市営団地の空き室をリフォームする分散型サ高住を計画。そこを地域の拠点のひとつとして地域包括ケアシステムの充実を目指す。

那須町(栃木県) 廃校となった小学校を利活用し、2018年4月に那須まちづくり広場が開設。住民の交流拠点として介護や就業など多分野の情報発信などを通して、地域支援を目指している。

都留市(山梨県) 同市が購入した雇用促進住宅を事業主体が借りて運営を行う。小規模多機能などのケア、食堂、カルチャー教室などを組み込んでいく。本プロジェクトと平行して都留文科大学に隣接する敷地で多世代のコミュニティを形成していく。

秩父市(埼玉県) 豊島区と連携し都市部からの移住者も受け入れる地域の拠点として、秩父駅の近くに交流センターとサ高住を組み合わせたものを建設予定。豊島区民のための市民農園の企画も進めている。

湯梨浜町(鳥取県) 松崎駅前商店街の再生が中心。2018年4月に町民の総合相談センター「どれみ」がオープン。町民の健康活動のサポートや観光情報の提供、移住に関する相談などを行っている。お試し住宅もオープンした。

南部町(鳥取県) JOCA(公益社団法人青年海外協力協会)が2017年10月に地域再生推進法人に指定された。すでに同法人に指定されている、なんぶ里山デザイン機構とともに行政と連携して生涯活躍のまち推進プロジェクトを展開している。

質疑応答

——佐久市(長野県)では臼田地区にある市営下越団地を改修して、サ高住をつくる。投資額を考えると家賃を高くせざるをえず、入居者の確保を心配している。事業主体は紆余曲折あったが、やっと1社に手を挙げていただき、これから審査を行う。市としての支援も限られるなか、継続的に回っていくかといった課題を抱えている。

高橋 どこの自治体も同じ課題を抱えている。サ高住をつくって、地元事業者が移住者を引っ張ってくるのは大変なこと。地元事業者任せでなく、国、自治体、生涯活躍のまち移住促進センター、NPO法人など中間支援団体のような仕組みが必要になるだろう。最後は「ひと」、人材をどうやって確保し、サポートしていくかだと思う。

雄谷 行政は(生涯活躍のまちにおいては)サ高住を建てた時点で手を離せばいい。その後の支援はいらない。そうしないと永遠に公金を入れることになり、持続していかないからだ。
 では、どういうエンジンを持ってやっていくか。全世代型対応にすることにより、持続可能性のある事業運営をしていく。一定の世代に偏ると必ずリクスが生じる。
 佛子園が取り組んでいるShare金沢や西圓寺、青年海外協力協会(JOCA)も加わっている輪島市への移住者は全てUターン。故郷に戻ってくるのは居心地がいいからだ。居心地がいいのは、そこにいろいろな人がいるから。
 先ほど述べたように、人が集まる場所には必然的にしごとが生まれる。輪島市は人口2万8,000人だが、拠点をつくれば、200人くらいの雇用に繋がる。中山間部にいる人も普段は地元で農作業をしながら訪れてくれる。
 自治体からの交付金を当てにするのは無理がある。そこはきちんと運用するように事業主に申し渡すべきであろうし、民間は努力しなければならない。
 われわれがもらっているのは施設整備のお金だけで、それ以外は借金だが、銀行が貸してくれるのはきちんとした経営計画を提出しているからだ。徹底的に合理化し、努力をしなければ赤字がでるのは当たり前である。
 Share金沢のような「ごちゃまぜ」の場合、高齢者施設と障がい者施設ではお金の出所が違う。前者は介護保険から、後者は国庫から。Share金沢を建てるとき、「高齢者の歩く廊下と障がい者の歩く廊下を2本つくれ」といわれた。こういうことは必ず起こる。国から何か言われたときに、行政が自分たちで調整する必要もでてくるだろう。
 佛子園のマニュアルには財務諸表も出ており、どこを合理化すればできるかがわかるようになっている。「ごちゃまぜ」とは単にかたちだけでなく、運用側にもきちんとした理屈があるのだ。

——雫石町(岩手県)はまちなかから離れたところに新たなコミュニティを作る予定だ。移住体験ツアーなども行っているが、Share金沢などの運営の体験から、移住を進めるにはどういったことが効果的だと思うか?

雄谷 日常をつくり出していくことが大事。イベントは何万回やってもダメ。地域とは、人が継続性と密着性を持って暮らし、経験を共有することである。継続性とはそこに住み続けること。1カ月に1回とかイベントのときだけ来るのでは密着性は生まれない。密着性から交流人口、関係人口は生まれる。小さくてもいいから、毎日何らかの形で繋がっていける仕組みづくりを考えること。それが原点である。

——都留市(山梨県)で社会福祉法人あすなろの会を運営している。Share金沢を目指して10年ほど経つが、なかなかたどりつけない。われわれの理念は「地域とともに生きる」。「官民連携」はとてもいい響きだが、不測の事態、不始末があったときの責任は弱いところに押し付けられるのではないか。失敗したときのツケはどこがとるのか?

雄谷 佛子園で受けたら、責任は佛子園が負う。責任をとるのはプロであるわれわれであり、逃げてはいけない。そういうスタンスでいくとうまくいく。「ひとはつながる」と信じている。

高橋 雄谷さんと基本同意見だが、何か問題が起こったとき、われわれ民間に責任がある場合もあれば、行政に責任がある場合もある。不可抗力で責任の所在がわからない場合に、相手に非をなすりつけようとすると対立構造に陥る。その調整が必要だ。

雄谷 地域のなかで1人が責任を負うのではなく、チームでやる。福祉の現場で離職率が高いのはスタッフが孤立してしまうからだ。1人をチームで支える仕組みは、海外青年協力隊の仕組みでもある。下手をすれば騒乱に巻き込まれるリスクがあるからだ。「孤立させない」はどの企業でも同じ。個人でなく組織みんなで責任を負う姿勢をとれば、現場の人間はがんばれる。

高橋 中小企業は多くの人材を送り込めないのが現状だ。さらに地方の中小企業は金融機関でお金を借りることも難しい。

雄谷 日本の社会保障制度をベースにすれば「文無し」からでもできる。もっと同制度を学ぶ必要がある。行政が「ここはやらせるけれど、ここはやらせない」となると、「ごちゃまぜ」にならないが、切り分けられた場合は他の事業者と連携すればいい。計画段階からチームとして体制をつくっていく。最初の何年間かは赤字がでるが、交付金でサポートできる部分はある。

高橋 国も県も自治体も民間もみんなで一緒にやることが必要。その一方で、民間は自力でやることも視野に入れなければならない。

雄谷 できない理由を列挙する「否定語・批評家症候群」というものがある。「一歩踏み出せない症候群」(事業構想や新たな挑戦を阻む)「plan do plan do症候群」(検証と改善が伴わない計画と実行の繰り返し)など、これらを突破するのに、「で?」の一言を言ってみる。すなわち「それでどうするの?」と。
 「but let us begin」。J・F・ケネディの演説にある「困難な状況でもまずやってみよう」という言葉が私は大好き。どんな状況でも誰かが始めなければ何も始まらない。こうした雰囲気を、自治体、民間関係なく、組織の土壌としてつくっていく。

——空き家活用は誰がどういったアプローチをしたのかを教えてほしい。

雄谷 先祖代々の財産は手離せないとか、息子が帰ってきたときのために残しておくとか、いろいろな課題にぶつかった。それらを解決するために地元の皆さんと協議をしたが、事業者が最初に動いてはいけない。たとえば輪島市では、副市長が「(空き家活用の対策など)このまま何もしなかったら、市はなくなるんだ」と言ってくれたことが大きかった。それによって行政、住民、JOCA、佛子園のなかで一緒にやっていこうという機運が高まった。
 地元の微妙な人間関係によってうまくいくことがあり、それを知らずに事業者が真ん中に入っていくと失敗する。そのことはeラーニングのマニュアルに空き家活用を進めるアプローチや手順を示している。どういう会議に参加して、どうやってコンセンサスを得て進めていくかのノウハウだ。

高橋 われわれは自治体や地元の不動産業者から空き家を紹介してもらうが、一軒屋を借りるのは難しいから、雇用促進住宅や空き店舗などをまず借りる。あるいは古くなった町営住宅を壊さないでそのまま売ってもらう。地方は土地の値段の方が、建物を壊す費用より安い。そういったところで拠点をつくり、その後、周囲の一戸建てを借りる方が活用は楽だろう。全国に空き家がたくさんあるので、新築を建てるのはもうやめたほうがいい。

——高齢化や地方での人口減少のなかで、人が集まる拠点をつくれば、そこに消費や雇用が生まれるという考えがCCRC構想の核と理解したが、それが実現できるか?

雄谷 CCRCは「地方に高齢者を移住させる」という部分だけが切り取られて報道されたため、「姥捨て山か」との批判を受けた。しかし、CCRCは高齢者移住だけではない。冒頭に「人生100年時代構想会議」のことを話したが、「人生100年戦略」は英国のリンダ・グラットン著『ライフシフト』がベースになっている。一斉に学校を卒業し、一斉に就職し、一斉に定年退職するといった同世代がみんな同じ動きをするのではなく、たとえば大学を卒業してからやりたいことを探すとか、子供に手が離れたら再スタートして教育を受けるとか。だから少子高齢化で大学に人が減っていったら、Share金沢のような多世代の仕組みをそこに放り込めばいい。そうすれば大学の人間が周辺を巻き込み、まちを引っ張っていくだろう。
 ただし、これはリンダ・グラットンの、そして個人主義の考えをベースにしている。欧米は狩猟民族。だれかが取ってきた獲物をみんなが分ける。一方、日本は農耕民族。スーパーマンがいない。みんなで米をつくって、みんなで分け合う。「ごちゃまぜ」の文化は日本にこそ馴染むだろうし、それを今度は世界に発信していけると思う。ブータン、台湾、韓国、フランスなどの皆さんがShare金沢を視察して一様に言うのは「(自分たちの国には)こんなふうにいろいろな人が混ざっている場所はない」。いろいろな人がそこに生きがいを感じ、そこでいろいろなものが生まれていると評価してくれた。

高橋 利益がなかなか出ず、四苦八苦している。しかし、短期的な面ではデメリットが大きいが、長期的に見れば研究開発という大きなメリットが得られた。10~20年後の日本が見えてくる。「介護難民」など今後、都市部で生じる問題がいま地方で起こっているので、都市部の問題をいまから準備することができるのである。
 地方の経済を考えるなら外国を意識するしかない。中国をはじめアジア諸国に少子高齢化対策のためのノウハウといったソフトをどう輸出するか。これにはかなりのビジネスの可能性がある。中国は一気に高齢化するので、同国でも人材の確保に困るだろう。外国人技能実習制度などを利用しながら、日本で教育した人たちを中国に戻す、今度はその人たちが人材派遣で日本にやってくるといった流動性を高めたい。

——お二人は失敗されたことがあるか?

雄谷 個人的にはあるが、事業として失敗したことはない。ここまでやってこられたのは、自分たちが「これをやりたい」と仕掛けてきたのではなく、「この問題をどう解決したらいいか」という求めに応えてきたからだ。周囲からの応援もいただけた。もうダメかなと思う局面もあったが、そんなときに「助けられた」と思える場面がたくさんあった。社会福祉法人として事故が起こることもあったが、そんなときに逃げずによかったと思っている。

高橋 同じような質問で「会社が成功したことはあるのか?」と聞かれたとしたら、「すべて成功してきた」と答える。成功、失敗とは何か? 冒頭にも述べたが、大きな目標を達成するために、小さな失敗をたくさんしてきたということ。それが可能だったのは、あきらめなかったからだ。

——広島県安芸太田町から来た。地方創生のキーワードは「一流の技術とセンス」だと思う。田園回帰がいわれるなか、JOCAによる当町での拠点づくりの取り組みにわくわくしたものを感じる。

高橋 まさにその通りだと思う。われわれも世界ナンバーワンを目指したい。それは量的なものではなく、ノウハウや仕組みのところで、ということだ。日本は世界のなかでも少子高齢化の最先端をいっている。とすれば、その苦難を切り開けば、世界一になれるということだ。
 それを徹底的につきつめるため、佛子園の手法を学び、その上を目指す仕組みをつくろうとしている。そうした積み重ねの上に技術やセンスが磨かれると思う。

雄谷 安芸太田町がなぜ「わくわく」しているのか。これが「やらない、いわない技術」。答えを自らに出させる。そこにエネルギーも生まれる。この「わくわく感」をつぶさないような努力を、自分たちも一緒に愚直にしていきたい。(了)