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作家・エッセイスト松原惇子さんに聞く「コロナ禍におけるおひとりさまの暮らし」
ベストセラーになった『クロワッサン症候群』(1988年 文藝春秋)以来、女性がひとりで生きることをテーマに多くの作品を書いてきた松原惇子さんは50歳のとき、おひとりさま同士のつながりをつくるため、SSSネットワーク(Single、Smile、Senior life)を設立しました。会員は中高年のシングル女性を中心に約800人で、2カ月に1回、会報誌『スマイル通信』を発行するほか、「終の棲家を考える」など様々なテーマのセミナーや会員同士の部会を開催してきました。新型コロナウイルスの感染拡大により、高齢のシングル女性がいまどんな思いで日々を過ごしているのか。松原さんにお聞きしました。
——コロナ禍で、SSSネットワークの会員の皆さんはどんな思いで暮らしているのですか。
セミナーも開催できておらず、お会いする機会もすっかり減ってしまいました。そのため直接声を聞く機会はあまりないのですが、会報誌4月号に「コロナ禍の暮らし」について書いたところ、大きな反響がありました。そして電話相談を受けることにしたら、たくさんの連絡をいただきました。皆さん、先行きに大きな不安を抱えているのです。
——具体的にはどういうものですか。
これから社会がどうなってしまうのか、という不安です。以前は「自分が病気になったら、どうしよう?」「自宅で暮らせなくなったら、どうすればいい?」という具体的な悩みでした。それに対しては、高齢者向け住宅に入居するとか、小規模多機能型居宅介護が近くにあるところに住むといった選択肢を考えればよかったのですが、今はその決断の前に、コロナ禍という暗雲が現れて、自分の将来の見通しを覆ってしまっているという感じです。それは会員がようやく社会のことに目を向け始めたということでもあります。
——シングル女性は「社会」に敏感な方が多いと思っていました。
その逆です。「自分さえよければいい」と考えている。フリーランスの作家である私に比べると、多くの会員は公務員や会社員という「お堅い」職業なので、お金はある程度もっています。彼女たちはこれまで人に頼らず、働いてお金を稼いで生きてきました。自分に何かが起こったとき、家族や親戚がすぐに駆け付けてくれるわけではありませんから。「自立」していた分、社会のことにあまり真剣に目を向けてこなかった。
私は折をみて「政治や経済に関心をもちましょう」「個人の幸せは安定した社会の上に成り立つんですよ」と呼びかけてきました。それが現状と重なってきたからか、最近は「自分が、自分が」と言わなくなりました。
——どのように変わってきているのでしょうか。
彼女たちの意識が変わっていくのはこれからだと思います。変わらなければ、鬱々としてしまいますよ。シングル女性は外で遊ぶことが好き。ジムに毎日行く、コンサートに毎週行く、旅行に毎月のように行く。その生活が変わらざるをえない、今までの暮らし方には戻れないとなると、会員の想定していた老後の計画も崩れていくわけです。
たとえば、これから有料老人ホームに入居しても、事業者が倒産するかもしれません。将来が読めないなかで、いま住んでいるマンションを売ったお金を、高齢者向け住宅を運営している企業にそっくり預けるなんて、怖くてできないじゃないですか。しかも、マンションがあまり高く売れなくなっている。かつては自宅マンションを売ったお金で高齢者向けの住宅や施設に入るというのがひとつのコースだったのですが、それが選べなくなっているのです。
——松原さんはこれまで多くの高齢者向け住宅を見学されてきましたが、自分は入らないと決められたそうですね。
たくさんの高齢者向け住宅を見学してきたのは、入居したいからというよりも、「そういう暮らし方でいいの?」と自分に問いかけるためでした。その結果、「私はひとりで暮らす」という答えを出したわけで、それはコロナ禍によって確信に変わりました。私自身の性分としては、人にお世話になるよりも、お世話をしたい方ですから。
——東京郊外にニュータウンを開発してきたデベロッパーやハウスメーカーには「これからの時代、住まいに特化した住まいは、住まいとして選ばれない」という表現をする方々がいます。つまり、住むところ、学ぶところ、働くところと、役割ごとに分けられているような地域は、少子高齢化社会では生き残れないというのです。
同じような人だけが集まる場所なんてつまらない。私がSSSネットワークを設立したのは、シングル女性がいかに楽しく暮らせるか、それを一緒に考えたかったからです。様々な地域で多世代が集うプロジェクトが進んでいるそうですね。これまで「自分が、自分が」だった会員にとって、「コミュニティのなかで暮らす」という選択肢が増えるのはとてもいいことだと思います。
(聞き手 芳地隆之)