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「生涯活躍のまち」は次なるステージへ(内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局 内閣参事官)中野孝浩さん
(なかの・たかひろ)大阪府出身。1995年に厚生省(当時)入省。社会・援護局を振り出しに、官房総務課、老健局、医政局などを経て、2007年から2011年まで、北海道に出向。道庁では、障害者支援制度の枠組みを超えた地域支援を目指す共生型事業推進プロジェクトなど地域福祉関係の事業を担当。民間企業(損保会社)への出向の後、年金局を経て、2018年7月より現職。
今年度は第1期の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の最終年度に当たる。この間、「首都圏の元気な高齢者をわがまちに移住してもらう」ことに重点を置いた自治体や事業者は、その難しさに直面することが少なくなかった。そうしたなかで国が「地方創生×全世代活躍のまちづくり」を掲げたことに対しては、「はしごを外されたと感じている」との声も聞く。
そこで今号より表記のタイトルの連載を、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局の中野孝浩・内閣参事官にお願いした。本稿を読んでいただければわかるとおり、国が進める地方創生は方向転換をしているのではなく、「生涯活躍のまち」のバージョンアップを目指している。そのために国はどのような対応策を練っているのか。3回にわたってお届けする。
「まち・ひと・しごと創生基本方針2019」を踏まえた対応策とは
新たな5カ年総合戦略に向けて
人口減少・少子高齢化という構造的な課題に政府が一丸となって取り組むという観点から、2014年9月に、内閣にまち・ひと・しごと創生本部が設置され、5年近くが経過しました。政府は、5カ年の目標や具体的な施策などについて、2015年度から2019年度までの第1期の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」として策定。さらに、全国各地において、地方版総合戦略に基づき、各地域の実情に応じ、さまざまな工夫をこらした取組が進められてきましたが、今年は次の5カ年の新たな総合戦略を練り上げる重要な年となります。
「生涯活躍のまち」についても、第1期の重要な施策のひとつとして打ち出され、全国の多くの市町村において、関係者の皆様のご協力により、具体的な取組が進められてきました。次期総合戦略に向けたさまざまな検討が進められるなか、生涯活躍のまちの「次のステージ」に向けた研究や検討も進められています。
ここでは、こうした「生涯活躍のまち」に関する現状と今後に向けた検討の状況について、可能な限り、わかりやすくご紹介させていただきたいと思います。
「生涯活躍のまち」の現状
生涯活躍のまちについては、2020年までに「生涯活躍のまちに関する構想・計画等を策定している自治体数を100団体」というKPI(数値目標)を立て、取組を進めてきたところですが、最新の数値は89団体(2019年3月現在)であり、ほぼ順調に進んでいるといえそうです。
Share金沢の取組が「生涯活躍のまちのモデル」とされ、「日本版CCRC構想有識者会議」の議論を経て、2016年には地域再生法にも位置づけられるなど制度化がなされました。先進的な自治体では、地域のニーズと工夫を踏まえた、さまざまな、すばらしい取組が実践されてきています(生涯活躍のまちHP参照)。
一方、自治体を対象とした全国調査の数値の推移をみると、生涯活躍のまちについて「推進意向なし」の自治体が増加するなど、全体的な関心度が低下する傾向がみられてきました。その理由としては、「財政負担が増加する」、「質的な面を含む人材不足」、「高齢者よりも若年層の移住を優先したい」などが挙げられましたが、「制度への誤解や理解不足」が原因とみられる回答もあり、こうした実態も踏まえ、丁寧な支援を行うとともに、現場の有識者も交えて制度の在り方を検討する、という対応策が打ち出されたところです。
「まち・ひと・しごと創生基本方針2019」で示された対応策
(1)都道府県レベルでの広域アドバイザーによる支援体制の構築
生涯活躍のまちについての取組を進めるためには、市町村がリーダーシップを取り、中核的な法人とともに、しっかりとした「官民連携」体制を構築し、「構想」を策定。それを具体的な事業計画に落とし込んでいく必要があります。
できれば、市町村などの行政、事業の担い手となる法人、資金を提供する金融機関などの関係者が連携し、住民参加と市町村の主体的な関与のもと、中核的な法人などが中心となって取組を進めることが望ましいのですが、地域の力だけではうまく回すのは難しいというのが実態です。そこで、ある程度、専門性のあるプロの「よそ者」とのタッグを組むことが必要ということで、広域で「生涯活躍のまち」づくりを応援するアドバイザーを養成し、都道府県が中心となって必要な地域に派遣するという方針が示されました。
具体的な取組において、たとえば、「空き家」を活用して「多世代交流拠点」づくりをするとした場合は建築設計や資金計画の専門家、拠点の運営に当たって障害者就労を関連させる場合は福祉の専門家、と多様にして専門的な知見を統合的に活用することが求められますが、こうした人材を地域内で確保することは極めて困難です。
そこで、都道府県レベルで多様なスペシャリティを持つ人材を「生涯活躍のまち」に関するアドバイザーとして養成し、リスト化。ニーズがある地域に派遣するシステムづくりを行います。
今年度は、「生涯活躍のまち推進協議会」と当事務局が連携し、こうしたアドバイザー養成研修を受講料無料で実施します。同協議会の会長である雄谷良成氏をはじめとした著名な講師陣を呼び、充実したカリキュラムとなるべく工夫をしています。具体的な日程は調整中ですが、全国の多くの専門性ある人材に「生涯活躍のまち」の伝道師になってもらうべく、広報と周知に努めているところです。
(2)国による支援の強化
当事務局(まち・ひと・しごと創生本部事務局)としても、スタッフ一堂、さらなる丁寧な支援を行っていきます。これまでは、すでに構想等を策定済の自治体などに対する支援が中心でしたが、今後は、「取組意向あり」の自治体、さらには「推進意向なし」の自治体も支援対象とすることとしています(下記の図参照)。
とくに、都道府県に対しては、国による支援を希望する市町村を掘り起こし、国への情報提供をしていただくとともに、自治体向けの説明会やセミナーの実施に向けた調整などの協力をお願いしています。
すでに、当事務局スタッフが直接、ニーズのある地域を訪問するなどの支援をスタートさせているところです。読者の皆様におかれましても、生涯活躍のまちに関する支援などが必要な地域等の情報がありましたら、ぜひ、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部にご連絡ください。
「本題」の有識者による「次なるステージ」の検討内容については、次回において、「地方創生×全世代活躍まちづくり検討会」中間報告を掘り下げながら解説いたします。