著者が地方創生大臣であった頃、都内で開かれたシンポジウムでこう語ったことがある。「私の中学時代の同級生のなかで、地元に残った者の勤め先を挙げると、県庁、市役所、医者、教師、地銀なんです」。 地方のエリートは、地元経済の担い手ではなく、サポート役ばかりに行ってしまう。それを著者は言いたかったのだと思う。本格的にビジネスに取り組もうとする若者の多くは、大都市圏を目指してしまうのが現状だ。

 そうした現状に一石を投じるものとして、本書はコマツの例を挙げている。世界的な建機メーカーである同社は「東京にどうしても必要というもの以外は石川県に移してしまう」という方針のもと、実行に移したところ、石川県勤務の社員の結婚率や出産率が東京のそれに比べて飛躍的に高まったという。子育てしながら管理職を務める女性の比率も東京より高くなったそうだ。そのほか、本書で紹介される地方に本拠を置く企業は、その理由を「地方だからこそ競争力をもてる」としており、「企業誘致型の限界」(本書の小題)が来ているのは明らかだろう。

 働き方だけでなく、日本人の休暇の仕方についても言及する。大型連休で皆が一斉に休んで行楽地はどこも満員。それより各自が休みをずらして取るようにすれば、旅先でゆっくり過ごせる。受け入れ側にとっても、書き入れ時と閑古鳥が鳴く時の極端な差がなくなり、コンスタントにお客を迎えられる。経済的にもプラスになるはずだ。

 著者は、冒頭のシンポジウムで、出席した自治体関係者に向かってこうも言っていた。「皆さん、まちづくりについて、霞ヶ関に聞いてはいけませんよ。必ず間違えます。自分たちが、自分たちに合った方法で、考え、実行してください」。

  そうしないと生き残れないですよ、と暗に覚悟を求めているようにも聞こえるのだが、本件については、「国の役割とは」「おねだりでは解決にならない」「『おまかせ民主主義』からの脱却」の箇所を読んでいただきたい。

 各地方が独自の動きを始め、それが軌道に乗れば、国に頼ることはなくなる。そうした地方の集合体のような国を未来の形として著者は思い描いているのかもしれない。CCRC*については「シェア金沢」「ゆいま〜る那須」にも触れるなど、全国各地の事例に目配りの利いた書である。 

(芳地隆之)

※2015年、政府有識者会議で示された「日本版CCRC構想」のこと。元気なうちから高齢者の地方移住を促すことで、首都圏の人口集中の緩和と地方の活性化を目指す。

『日本列島創生論』地方は国家の希望なり
(石破 茂著/新潮新書)