JICA(国際協力機構)が実施するJICA海外協力隊(青年海外協力隊/シニア海外協力隊)派遣事業が新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によってすべて中断されました。
そこで提案されたのが、国内での派遣前訓練を受けられなくなった隊員候補を対象に、「生涯活躍のまち」づくりを進めている全国の自治体において特別派遣前訓練を行うというものです。JICAと内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局の連携で実現したこの試みに、当初から手を挙げてくださったのが弘前市ならびに同市「生涯活躍のまち」の事業主体である社会福祉法人弘前豊徳会でした。そこで受け入れていただいた弘前豊徳会の阿保英樹さんに、この間の彼らとの活動についてお聞きしました。

——新型コロナウイルスの感染が全国的に広がるなか、貴会が運営するサービス付き高齢者向け住宅「サンタハウス弘前公園」(以下、サンタハウス)も厳しい状況に置かれたのではないでしょうか。

 県外からサンタハウスへの移住を希望されている方は足踏みしている状態です。入居を検討されている北海道の方の場合は、弘前市内で格安で利用できる感染対策宿泊プランを実施するホテルを紹介し、入居前に2週間待機してもらうことにしました。デイサービスとサンタハウスはきちんと感染防止対策をおこなっているのですが、サンタハウス内にある、65歳以上の元気な高齢者の健康増進の場になっているトレーニングルームには来訪者がいなくなりました。地域に開放しているものの、元気な高齢者が外出するのを控えているからです。地域の交流拠点としてのイベントも、実施できない状況が続きました。

——そうしたなかでJICA海外協力隊特別派遣前訓練生(以下、訓練生)2名(後にもう1名)を受け入れた際はどうだったのでしょう?

 お2人が9月に来られた際は、宿泊先として使っていただいたサンタハウスの部屋で2週間、待機してもらいました。施設長である私もサンタハウス内にいるのですが、対面はせずに、やりとりはメール、会議はウェブで行いました。訓練生はずいぶんとストレスが溜まったと思います。隔離生活からスタートしたこともあり、「自分たちは本当に活動しているのか」「観光に来ていると思われているのではないか」といった悩みも聞きました。

——お2人にはどのような訓練を課したのですか。

 私が最初にお願いしたのはSNSで弘前市での暮らしぶりをダイレクトに伝えるというものです。

 2週間の隔離後はどんどん外へ出てもらいました。当初は私や弘前市企画課の担当者が「ここを訪問してみてはどうか」といった提案にしたがって動いていたのですが、やがて自身で情報を集めるようになり、いろいろな人に会うようになりました。週に2日はフィールドワークということで、外部の団体や他の市町村に出かけて見聞を広めてもらい、それ以外の日はサンタハウスの業務サポートや、集めた情報や見聞してきたことの整理をするというサイクルでした。

——どんどん活動範囲が広がっていったのですね。

 ネットや弘前市企画課を通して地域で活動をしている人たちにコンタクトするケースもありました。そのなかには、私も前から訪問したかった市民団体もありました。たとえば、地域住民にりんごについて学んでもらい、りんごの加工品などをもっとPRしようという「Aプロジェクト」です。同団体のメンバーがシードルづくりに関わっており、私も訓練生と一緒に訪問することができました。聞くところによると、「Aプロジェクト」はもっとイベントや講座などを開く活動の場所を広げたいという希望があるそうで、私にもそういった地域で活動する団体さんとつながりたいという思いがあったので、お互い連携しましょうと。

下写真:「サンタハウス弘前公園」で派遣前訓練を受けたシニア海外協力隊員たち

——今後、新たに訓練生を受け入れることになったら、「こんなことをしてほしい」といった希望はありますか。

 訓練生の自主的な動きにより、地域の中で個々に活動する様々な団体とのつながりが生じたことは、とてもありがたいと思っています。この貴重な出会い、つながりを、訓練後も我々が絶やさないようにできるともっと素晴らしいと思うので、今後新たに訓練生が来てくれたら、訓練期間中に地域の団体同士のつながりを強める橋渡し的な役割をお願いできたらいいなと思います。

 今回は「サンタハウス」に住んでもらい、入居者の視点での情報発信をお願いしたかったので、(当サ高住の入居条件である)50歳以上の方を受け入れましたが、今後は年齢を問わず、若い訓練生も受け入れて、地域で活動している若い人たちと面白いことを企画してもらってもいいかなと。そのためにサンタハウスの部屋を貸す対象の年齢枠を外していくことも考えています。

——短い期間でつくり上げたプロジェクトだったので、走りながら考えるというところもあったと思います。このようなスキームを制度化するためにはどんなことが必要だと思いますか。

 弘前市に訓練生受け入れの話をしたら、「他の自治体はどうしているのか」と尋ねられました。といっても、初めてのケース。どこも同時進行なので前例がありません。それでも、弘前市も含め20以上の地域で受け入れが実現されたわけですから、今後はその「前例」を活用し、手続きの流れが整理されて明確になると、より受け入れやすくなると思います。

——訓練生が海外での任務を終えて帰国した後も弘前市との関係が続くといいですね。

 訓練生は弘前市を離れても、訓練生からスタッフが継承してアップするようになったサンタハウス弘前公園のFacebookやインスタグラムの写真や情報にコメントしてくれており、今もつながっています。海外に行かれたら、現地の活動をぜひ報告していただきたい。SNSを活動に盛り込むと、その後の関係性も持続しやすいので、弘前公園の桜を見に来てもらうなど、再び訪れてくれればいいなと思っています。

(聞き手 芳地隆之)


(あぼ・ひでき)青森県弘前市出身。教育図書販売、職業訓練の講師等を経て2009年に社会福祉法人弘前豊徳会入職。法人本部にて新規事業企画・広報部門を担当。2011年から2014年にかけて東日本大震災被災地である東北地方沿岸市町村からの要介護者広域受入の調整業務に従事。2016年より、弘前版生涯活躍のまち形成事業の事業主体募集に対する企画業務に携わり、2018年12月より同事業の地域コーディネーターとして活動。2019年4月よりサービス付き高齢者向け住宅サンタハウス弘前公園施設長、5月よりデイサービスセンターサンタハウス弘前公園管理者兼務。