株式会社未来づくりカンパニー 代表取締役
ソーシャルビジネスプロデューサー 大羽 昭仁さん

博報堂勤務時代から地域資源を生かす事業を行ってきた大羽さん。2018年に新会社「未来づくりカンパニー」を立ち上げた。そこでは、さらに一歩も二歩も踏み込んで、人口減少や社会保証制度の行き詰まりなど、日本が抱える社会課題の解決につながるビジネスの創造に取り組んでいる。

 「日本で一番大きい湖は琵琶湖ですが、3番目はどこかわかりますか?」

 大羽さんから質問された。当方、洞爺湖や十和田湖という名称が浮かんだが、正解はサロマ湖(北海道)。2番目は霞ヶ浦(茨城県)。世の中に流通する情報量がネットにより急激に伸びたため、生活者が情報を消費しきれず、記憶も難しくなっている。その現状を感じてもらうためだ、と大羽さんは質問の意図を明かした。移住に即していえば、国民の多数に「わがまち」を認知・記憶してもらうには莫大な投資が必要となり、それは有効とはいえない、という。

 「自分の価値観で自分なりの方法で好きな情報を選択するSNS時代は、同じ価値観、同じライフスタイルをもつ人たちがつながっていく時代でもあります」。多様なライフスタイルのコミュニティが混在する時代では、自治体が、どのコミュニティに属する人を呼び寄せて、その人にどんな価値を提供できるか、を考えた戦略をつくることが重要だというのである。

 「私の故郷の愛知県田原市はサーフィンのメッカで、毎年50〜60代のサーファーが移住してくるんです。仕事はどうするかといえば、主幹産業である農業を手伝う人もいる。“半農半サーフィン”みたいな暮らしといえるでしょう」

 いきなり移住と言うよりは、まずその地域を好きになってもらう、自分のライフスタイルと合っていると感じてもらう、といった観光体験が最初にあった方が移住につながりやすい。その観光事業が持続的であれば、そこに雇用が生まれる。ライフスタイルを核として、観光→移住・定住→地域が持続的に稼ぐといった循環が生まれることがベストな姿だという。

 大羽さんがこれまで手がけてきた、著名人と地域を巡るプレミアムツアー「カルトラ」(カルチャーとトラベルを合体させた造語)は、アート好きなライフスタイルをおくるコミュニティに向けた観光体験プログラム。「ライドクエスト」(茨城県かすみがうら市の地域を自転車で巡るアクティビティ)はスポーツ好き・健康志向な人向け。「星と月のレストラン」(長野県乗鞍の国立公園で周辺の宿泊関係者や地域の人たちと協働してつくっていく観光体験プログラム)は自然に癒されたい人向け。「村上海賊」(“日本まるごと家族で遊ぼう”をコンセプトにした「ASOBO JAPAN」の一環。愛媛県今治市で日本遺産に認定された「村上海賊」になりきるという遊びを取り入れた旅行企画)は家族と子供が中心のライフスタイルを送っている人向け。どんなライフスタイルの人を呼び寄せたいかを基本に、彼らが持っているモチベーションに応えられる地域資源とのコンセプトで観光体験プログラムをつくっていくという。

 「コトの消費が重視されるようになった現在、観光と文化は収益を上げられる分野です。従来のような町おこしのイベントではありません。地域の魅力を活かし、地元の資源を再編集して、持続的に稼ぐ仕組みをつくり、さらには雇用も生むものなのです」。こうした事業を立上げ、利益を上げていくにはどうするか。

 「5〜10年先を見据えた事業計画を作成することです。長期の視点が欠けていると、仮にそれがハコモノであった場合、地域の不良債権になってしまう。加えて、楽しいという体験をどうつくっていくかが重要でしょう」

 大羽さんは博報堂時代、大手金融グループも担当していたので、「数字」に対する強さには自負があり、エンターテイメント関連のコンテンツもつくっていたのでそれも得意とのこと。

「まずは事業を軌道に乗せること。次にそれを持続可能なしくみにすること。ここまで行かないと地方創生は難しいのではないでしょうか」

 事業を進める上での困難には、行政や大企業における縦割り的な組織構造も挙げられる。それを克服するには、ばらばらな各部署をつなげる人材が必要だ。大羽さんの未来づくりカンパニーは行政、企業、公共団体などとの連携を通して事業を立ち上げるプロデューサーの役割を果たしている。

 生涯活躍のまちに関していえば、「構想はできたが、それを実行する事業者がいない」というのは多くの自治体が抱える共通の悩みであり、実際に事業を展開している地域でも黒字化に苦労しているところが少なくない。持続的に稼ぐしくみをつくるという大羽さんの視点は、地方創生事業を進めるにあたって欠かせないものである。

(聞き手:芳地 隆之)

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