山梨県都留市役所総務部企画課長 山口哲央さん

山口哲央さんは都留市役所に入庁後、環境、スポーツ振興、税務、生涯学習、市立病院、政策企画、防災、自治会業務など様々な業務を担ってこられました。そして現在、総務部企画課長として「第6次都留市長期総合計画」(平成28〜38年度)のトップ施策として掲げる「生涯活躍のまち・つる」事業の現場の責任者を務めておられます。創刊号のトップバッターとして、山口さんに「生涯活躍のまち」を実現するための課題とは何か、そしてその事業が何を目指すのか、日々の仕事を通して考え、感じることを語っていただきました。

——2014年に総務部企画課におられたとき、「生涯活躍のまち」事業の担当になられたとお聞きしました。

 平成25(2013)年12月、現職の堀内富久市長が「シルバー産業の構築」という施策を立てました。当市は可住地面積が小さく、大手企業を誘致するのは難しい。これから高齢者が増えていくなかで、シルバー産業を興していくことを公約に掲げたのです。平成27(2015)年頃から「日本版CCRC」という考え方が広がってきて、「これはわれわれがやろうとしていることと同じじゃないか」と合致したのがスタート。私自身は、2014〜2015年度は課長補佐をいう立場で関わらせていただき、産業課に1年出た後、また昨年度に戻ってきました。

——CCRCという言葉が広まる前に都留市はそれを始めようとしていたわけですね。

 当時は国との接点もなかったので、「私たちの進めている施策と共通するところがある。何らかの連携ができないか」と内閣府に直訴しに行ったのを覚えています。CCRCを産業として位置づけていたところが、(生涯活躍のまち構想を進めている)他の市町村と違うところかもしれません。

——都留市の構想をご紹介ください。

 当市には3つの高等教育機関があります。都留文科大学——60年以上の歴史をもつ、都留市が設立した教育者を養成する、いわば「ヒトづくり」の大学です。その後、平成25年に誘致した山梨県立産業技術短期大学校——同校は都留市の基幹産業である「モノづくり」と連動しています。そして、平成28年に開学した健康科学大学看護学部——市内にあった県立高校2校が統合されたうち1校の一部も利活用して完成した同校は「健康づくり」に取り組みます。これら「ヒト・モノ・健康」をつなげて、生涯活躍のまちに組み入れるのが当市の大学連携型の特長です。

 少子化のなかでいかに生き残っていくか、地域の活性化にどのような形で資するか、が大学のミッションであり、平成27年度には「大学コンソーシアム都留」を設立し、行政と相互練磨しながら選ばれる大学になっていくことを目指しています。

——大学との連携には難しさもあるのでは?

 大学側から「地域連携」や「まちづくり参画」で能動的に動いてもらわないと、意志決定や役割分担などで話がまとまりません。総論賛成、各論反対になりやすいのです。都留文科大学は当市が設立し、大学の事務局幹部には市役所の職員を派遣しているので意思疎通はスムーズです。

——都留文科大学の学生は何人くらいいるのですか。また、出身地はどこが多いのでしょうか。

 3,300人くらいです。当市の人口の10分の1以上は大学生ということになります。出身地はほぼ全国47都道府県から。各地方の子息を4年間お預かりし、教員になるための養成を行って返す。その歴史は古く、卒業生は3万人以上になります。各都道府県に卒業生の支部がある、そのネットワークは他の市町村にはない強みといえるでしょう。

都留市エコハウス(移住・定住相談センターとして活動中)

——移住に関していうと、「生涯活躍のまち」という言葉が入り口を狭くしているのではないかと指摘されています。

 「生涯活躍のまち」という看板を掲げている限り、その言葉を知っていないと人は来ないと思うのです。そうではなく、結果として「生涯活躍のまち」を掲げている市町村に来てもらうにはどうしたらいいか。セカンドライフなど、きっかけは何でも構わない。「生涯活躍のまち」だけで人を集められるほど、その言葉の認知度は高くないのが現状ではないでしょうか。

——生活相談を受ける中で移住も選択肢として提示するということですか。

 たとえば、「いま住んでいるところでいろいろ課題はあるけれども、移住先だって高齢者を受け入れたくないんじゃないの?」という声に対して、「いやいや高齢者もウエルカムなのが『生涯活躍のまち』なんですよ」と。「日本全国には高齢者の方を喜んで迎え入れたい自治体=生涯活躍のまちがたくさんある」ことを知らしめないといけません。「ぜひ来てほしいという市町村があるんだ」と思ってもらえないと、移住促進は難しいと思います。

———一方、自治体には、生涯活躍のまち構想を立ち上げたけれども、それが前に進まないという問題があります。

 「生涯活躍のまち」とは目的ではなく、まちづくりの手段なんです。サービス付き高齢者向け住宅を建てて、首都圏から高齢者を呼んで終わり、ではありません。役所にとっては全庁的な取組みになります。生涯学習、健康づくり、介護・医療、地域交流、大学連携、農業体験などすべてに関わってきますから。

——役所の縦割りを越えていくということですね。

 それも生涯活躍のまちづくりの側面でしょう。「まち全体が豊かになる手段である」という考えを共有し、首長がリーダーシップをもって進めていく必要があると思います。

——都留市のサ高住プロジェクトについてご説明いただけますか。

 市内の下谷地区にあった雇用促進住宅(2棟に各40戸、計80戸)を改修するというものです。低廉な価格で都留市に売却されたそこは高速道路のインターや病院に近いロケーションで、敷地内には交流拠点も整備されました。

——入居対象者は首都圏の方々ですか。

 生涯活躍のまちの考え方には、首都圏からの移住だけでなく、まちなか居住の促進もあります。したがって、まず市民の方々のニーズを把握して市民の優先枠を設定し、入居していただこうと思っています。市内でもちょっと奥の方にいくと独居の高齢者の方が多かったりする。先般行った高齢者を対象としたアンケートでは、数百人の方が「いずれ高齢者向けの住宅や施設に入りたい」と回答されました。「その希望を実現する=生涯活躍のまち構想を進める」を市民の皆さんに認識してもらう。その上で首都圏にお住まいで都留市に関心をもたれている方々などに広報をしていく予定です。

——市民の生涯活躍のまちに対する理解も大事ですね。

 サ高住をつくります、移住者を呼んできます、では(住民の)理解は得られません。市長が住民の意見交換会に出席するときは必ず生涯活躍のまちについて、「この取組みがまちを豊かにする」という説明をし、高齢者を受け入れることで社会保障費が増えるのではないかという懸念に対しては、住所地特例(社会保険制度において住所を移す前の市区町村が引き続き保険者となる特例措置)など、国が制度上の優遇措置を講じてくれたこともお伝えしています。

—入居者を首都圏の方に限定すると難しい。

 名の知れた観光地ならまだしも、普通の市町村が移住者を獲得するのは簡単ではありません。われわれはわずか3万人強の自治体ですから、国と連携し、指南も受けながらやっていかないと尻つぼみになってしまいます。

——民間事業者の参画も不可欠だと思います。ただ、事業者との連携にも難しさがある。

 生涯活躍のまちは「産官学金労言」の力を借りながらやっていくことが基本です。ただ、事業者にとって魅力的な施策でないと、いくら行政がお願いしても事業者は乗ってきてくれません。地域貢献や企業イメージだけではなかなか動いてくれないのです。われわれは平成28年度から、山梨中央銀行と一緒に「都留市CCRC構想研究会」を、生涯活躍のまち構想を「事業者目線でビジネスチャンスとして考えませんか」というふれ込みで始めました。研究会では同構想の進捗状況を説明し、国の情報を提供。市内3大学の考えを伝え、都留市の魅力を語り、あるべき「生涯活躍のまち」を考えてきました。そうしたなかからパートナーとなってくれる企業が出てきてくれることを願っています。

 国からの支援も必要です。自治体だけが事業者に生涯活躍のまちの説明をする、自分たちのまちの特性を生かした制度を活用するのには限界があります。他の自治体の失敗事例も知りたいですね。お互いの情報を共有し、志を同じくする自治体の皆さんと一緒に前へ進みたいと思っています。

——成功事例として挙げられるのも、Share金沢やゆいま〜る那須、ゴジカラ村という当協議会の会長、副会長を務める事業者の展開であって、生涯活躍のまちが始まってからのモデルはありません。

 世の中で「生涯活躍のまち」成功事例はまだないわけです。失敗の上に改善、改良を重ねていかないと先は見えてこないと思います。

——当面の課題は何ですか。

 まずは下谷地区のサ高住をある程度埋めること。入居者には「そこに住むことにしてよかった」、周辺住民の方には「あれができてよかった」と思ってもらえるような住宅にしたい。来年度のオープンを目指しているので、今年度に募集を始めます。その次は都留文科大学のある田原地区で、サ高住を含めた多種多様な方々が自分らしく暮らせる複合型のエリアをつくること。住民の方々のニーズを踏まえながら練り上げて、都留市のフラッグシップを掲げられるようなプロジェクトにしたいと思っています。

(聞き手:芳地隆之)

他の自治体の失敗事例も知りたいですね。お互いに情報をオープンにして共有し、志を同じくする自治体の皆さんと一緒に前へ進みたいと思っています。