現在、当協議会が運営する生涯活躍のまち移住促進センターへの出展自治体(岩手県雫石町、山梨県都留市、長野県佐久市、岡山県奈義町、鳥取県湯梨浜町ならびに南部町)のうち、移住検討者の関心を多く集めるのは佐久市ならびに都留市である。これは全国の傾向と似ており、認定NPO法人ふるさと回帰支援センターが毎年発表する「移住相談の傾向、ならびに移住希望地域ランキング」によると、2013年以降、毎年、長野県と山梨県が1位を争っている(最新は2017年で1位は長野県であった)。
 理由のひとつには「首都圏からの近さ」が挙げられよう。移動の所要時間は、佐久市へは東京駅から北陸新幹線に乗って約70分(新幹線「佐久平」駅)、都留市へは新宿駅から特急列車を使って約80分。気軽に首都圏へ足を運べるのが魅力なのである。移住先の条件として重視されるもうひとつの要素は人口規模である。人口の多い自治体のほうが行政サービスは充実しているからだ。
 当協議会がまちづくりに関わっている各自治体の首都圏との距離を縦軸、人口規模を横軸にしたグラフを作成してみた。この平面図に自治体や住民のもつ危機感など変数を加味すると、何が読み取れるか。長年、全国の自治体とまちづくりで関わってきた当協議会の髙橋副会長が解説する。

まちづくりのステップ

 生涯活躍のまちづくりの重要な鍵は官民(自治体と事業者)の連携です。それは4つのステップに分けられます。第1ステップは両者のお見合い、すなわち調査の段階です。2人はこれから手を携えてやっていけるかの確認作業。第2ステップは調査の結果、「やっていける」となった相思相愛の時期といえます。ところが第3ステップに入ると仲にひびが入る。事業を進めるに当たっての自治体と民間の価値観の違いなどが生じるからです。

自立することの難しさ

 たとえば第3ステップとしてまちづくり会社が立ち上がると、「なんとなくいけそう」といった空気が生まれます。そこに地元事業者が入ってくると、これまで携わっていた民間事業者との間で齟齬(そご)が起きることがある。現在のまちづくり会社は、地域おこし協力隊を社員として雇用したり、まちの交流拠点の運営を指定管理の形で引き受けたり、補助金があって成り立っているところが多い。つまり、そうした制度が使えなくなると、運営が立ち行かなくなる怖れがある。第三セクターと同じ過ちに陥る可能性を秘めているのです。

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事業の黒字をめざす

 第4ステップは上記の課題を克服し、事業を黒字化させることです。たとえばサ高住について、都市部と違い、過疎化が進む自治体ではせいぜい10〜20戸が限度になる。それで事業を成り立たせるにはどうしたらいいか。障がい者の就労支援や子育て支援などを組み合わせた福福(福祉と福祉)連携はひとつの解決方法でしょう。

 大手企業が生涯活躍のまちづくりに参画している自治体はあまりうまくいっていないところが多い。大手は高い収益を求めるため、大きな儲けが出ない地方創生のプロジェクトが前に進まない面があるのです。そこで、事業性、まちづくり、地域プロデュースなどのノウハウをもった、小回りの利く中小企業との連携が有効になってきます。私が「地方創生は総力戦」と言うゆえんです。

危機感の相違

 移住については首都圏から近い自治体が比較的うまく進んでいますが、首都圏から遠い自治体は「なんとかしなければ」という危機意識が高い。自治体の財政が破綻寸前になってしまったら、いやがうえにも改革に取り組まなければなりません。首長や職員の給与を下げるといった対策だけでなく、住民にも「これまでのように問題の解決を行政にだけ任せてはだめだ」という意識が必要です。

 そうなると、まちは確実に変わっていきます。人口と首都圏からの距離に、行政や住民の意識、あるいは議会の動向などの変数が加わると、首都圏から近くて、人口規模が大きいほうがいいとは限らなくなるのです。

これからの移住促進

 これまでの生涯活躍のまちづくりは移住先行の傾向がありました。しかし、それがうまくいっているとは言えません。本来は魅力あるまちづくりを進めるべきところ、郊外にサ高住を新築するといった開発型から始めてしまったことも原因でした。魅力づくりとは、いま地方の人々が困っていることの解決、すなわち、仕事の創出、低価格住宅の提供、地域ケアの充実により、高齢者やひとり親、若者無業者なども暮らしやすいコミュニティをつくっていくことです。それらが実現すれば、自ずと移住者は増えていくでしょう。

高橋英與(たかはし・ひでよ)岩手県花巻市生まれ。コーポラティブハウスや有料老人ホームづくりを経て、㈱コミュニティネット前代表取締役。地域に開かれた自立型高齢者住宅を運営するとともに、団地・駅前・過疎地再生事業に携わる。地方創生の最前線に立って事業を展開している。