幸せとは何か。その根源的なテーマを、同一家族の2世代にわたる被験者群について80年以上の追跡調査を経て生まれたものである。
 幸せの核となるのは人間関係だ。人生にポジティブな変化をもたらす運命のいたずらは、たいてい出会った人からもたらされる。それは自分の意思だけでは生まれないものだ。もちろんいいことばかりを運んできてくれるわけではない。むしろややこしいことの方が多いかもしれないが、人間関係の問題を 避けたり、無視したりする人の方が、正面から向き合おうする人よりも、後々、記憶力が薄れ、生活の満足度も低くなるというデータもあるとのこと。
 人生に浮き沈みはある。それを切り抜け、幸せになる確率を高めてくれるものとして、本書はパートナー、家族、職場、友情におけるグッド・ライフは何かを解いていく。パートナーとのそれでいえば、「二人で一緒にストレスに対処するカップルは、健康や幸福、そして人間関係における充実感を受け取ることができる」など調査に基づいた知見は実感をもって読者に受けとめられるだろう。
 ちょっとした変化がいい影響をもたらすことの指摘も忘れない。一つめは「人生を豊かにしてくれる人間関係を一つか二つ思い浮かべ、相手に今まで以上に注意を向ける」。きっと相手について知っているつもりで知らなかった発見があるだろう。二つめは「1日の過ごし方を少し変える」。PCやスマホを使わず、決まった時間に大切な人や新しい友人と会ってみよう。三つめは「誰かと会うときには好奇心を忘れない」。相手の立場になり、相手が体験したことを想像してみる。それによって会話はさらに弾むはずだ。
 こう考えると、人の幸せは 、名声や成功などよっての み得られるものではないことがわかるだろう。自分が成し遂げたと思うものも、たいていは誰かの有形無形のサポートがあったからこそ実現したのだから。
 本書の背景には新型コロナウイルスによるパンデミックもあった。ロックダウンが続き世界中で孤立感と不安感が高まり、人々のストレスレベルは限界に達していたことが著者の考察を深めたともいえる。多くの人々は当時の感覚を忘れつつあるが、パンデミックはいつかまた訪れる。そのときに私たちを支えるのが人と人との関係であり、それは平時から大切にしておかなければならない。そのことを私たちはいま能登半島地震の被災地で学んでいる。(芳地隆之)