エッセイスト、ラジオパーソナリティで人気の著者の父親が、要介護認定されるほどではないものの、足腰と記憶力が弱り、自分ひとりで生活を回せなくなった。その状態をどうやって改善していくか。試行錯誤を記録したのが本書である。
 父親は59歳の時に伴侶を失った。子どもは娘である著者ひとり。2人は別居。これまで彼の身の回りの世話を甲斐甲斐しくしてくれた女性も年齢から「長期離脱」することで、82歳になった父親の部屋は汚れ放題となった。娘の奮闘は、散らかったものの整理とごみ出し、べとべとになった床の雑巾がけから始まる。
 ラジオでの悩み相談に的確にアドバイスをする著者は、課題を前にすると解決へのボルテージが上がる。父のケースでも何冊もビジネス書を買い漁り、父が自分で生活をし続けられることをゴールとし、父ができること、できないこと、危ういこと、頼みたいことを図式化。頼みたいことは積極的にアウトソーシングしていく。お金で解決できることは躊躇しない。要注意は自分が「できる娘」ゆえに父親を指導するような姿勢にならないこと。ヘルパーさんと衝突するのは、相手がてきぱき仕事を進めることが原因であったりすることを知った著者は、先方に謝罪しながらも、父への理解を深めていく。
 それでも父の行状にいらいらすることは多々ある。その際は、自分と父親、そして現状の分析をし、ことを前に進めるため、父への愛情と課題解決のためのクールな計算を両立させる。時はコロナ禍。若いころ肺をひとつ摘出している父には行動の慎重さも求められた。
 いろいろ制限のなかで役に立ったのが「スマート介護」だ。毎日、父親からLINEで食べたものの画像を送ってもらったり、娘から医者の診断を受ける際に聞くべきことを伝えたり。アレクサのアプリをダウンロードして、ヘルパーさんの来訪や病院へ行く際のタクシーの到着時間などを音声で読み上げてもらうなど、ITをできる限り活用する。
 介護未満の状態で生じる問題は、誰にも、遅かれ、早かれ、訪れる。それを乗り越える実践の書だ。
 父親には会食に誘ってくれたり、なにかと手を貸してくれたりする人がいるという。著者の見るところ、その理由のひとつ目は清潔感。外出時は常に身ぎれいにし、3週間に一度の散髪を欠かさず、汚れやほつれのある服を着ることもない。二つ目は自慢話を一切しないこと。話好きだが、威張ったり、マウントをとったりしない。娘に対してもそう。おじさんたちが(私も含め)心しておくべき著者からの教えである。 (芳地隆之)